第35話 ラピッドナイフ
古き騎士の遺構を攻略した翌日、私は一人でルミナリエの街を歩いていた。
「最近は誰かといることが多かったから、一人だと楽だな」
友達が増えてもあまり私という人間に変化はないようだった。まあ友達が出来た程度で変われるのなら元より、ここまで酷い人見知りにもならなかっただろうし。
そういうものだろう。
「今日は生産系のスキルでも習得しに行こうかな」
考えてみればバトルばっかりで私は生産系スキルに気合を入れていない。唯一料理だけは師匠が良かったからそれなりの領域には達しているが鍛冶スキルは全くだ。オリジナルの短剣を作ろうと思った矢先に魔剣ベイリンを入手してしまったせいでもあるのだが。
ジャイアントオクトロードとの戦いで、魔剣ベイリンじゃない方の短剣は全く役に立たなかった。店売りの安い武器ではこれ以上の戦いには付いてこれないということなのかもしれない。
だから私は左手用の短剣を造ることにしたのだ。
「素材は意外とあるんだよね」
PKやらダンジョン攻略やらで貯まりに貯まった素材の一斉解放だ。ついでに防具も新調したいところだった。この黒兎コスも中々可愛くて好きなのだが、最近被弾することも増えてきたので、純粋に防御系スキルを搭載した防具が欲しくなってきたのだ。
「まあとりあえずは……」
生産系スキルはどこでもやれるわけではない。専用の作業台が必要になるのだ。結構値が張るが、携帯式作業台というアイテムを買えばこの問題も解決するのだが、特に精力的にお金稼ぎをしていない私には手の届かない品だ。
ルミナリエの街の紅蓮の女主人が経営するレストラン、蜥蜴亭がある通りには作業台がそこかしこに置いてある。その内の一つを使用する。
「えっと……武器は、短剣は確実だとして……どういう感じでいこうか」
純粋にステータスの上昇を狙うか、特殊なスキルの獲得を狙うか。悩ましい。レジェンダリー武器の魔剣ベイリンには及ばないまでも、それなりに戦える武器が欲しいところだ。敵によっては片手で戦闘をすることになるかもしれないし。
「まあどうにでもなれだ」
私は適当に素材を選択して、視界に浮かぶウインドウの開始というボタンを押した。するとウインドウが消えて、作業台の上に私が選択した素材が現れる。
素材は光となって消えて、一個の鉄の塊となる。鉄の塊は燃えているエフェクトを出していた。そして私の手には大槌が握られていた。
「ああ、これでぶっ叩けってことね」
料理に比べるとなんと楽なと思ったが、他の作業台で鍛冶をしている人を見るに、私の鍛冶系統のスキルが少ないだけだからだということに気付いた。
大槌を振りかぶる。いつも短剣ばっかの私でも軽々と持てる大槌だ。今は無き、ストーンヘッドという大槌は一回振るだけでかなり疲れたものだ、としみじみと思う。
あの蛸の溶解液でお陀仏してしまった大槌。もう少し使ってやればよかったなと思った。
まあもう大槌は戦闘で使わないと決めたのだけれど。やはり私は短剣が一番使いやすいのだ。短剣の一番の問題だった一発の攻撃力の低さは魔剣ベイリンが解消してくれたし。コーディリアリングも今は外してある。ブリッツカノンも倉庫で眠らせた。
だからこそ、強力な短剣がもう一つ欲しいのだ。
「強い短剣。強い短剣。出てこーい!!」
念じながら鉄を勢いよく打つと、鉄が虹色に発光した。
「な、何?!」
白い光だとか、たまにレア演出で金の発光はネットで見て知っていたが、虹色は初めてだ。
その辺を通りがかったプレイヤーがこちらを見て驚いている。ちらりと聞こえたが、どうやらこのパターンは激レアらしい。まあ虹色な時点で察してたよ。これでもガチャゲーはやりこんでるし。
そして虹色の光が消えると、そこにあったのは一本の短剣。
名前は【ラピッドナイフ】。かなりシンプルな形状の短剣だ。刃の銀色が美しい。持ち手は黒い革であり、滑り止め加工でもされているのか、中々に手にフィットする。これは使いやすそうな武器だ。
「これスキル付いてる。えっと【タクティカルアサルト】……」
ラピッドナイフについていたスキルは、AGI値が大きい程、ダメージにプラス補正がつくというものだった。私のAGIはかなり高い。故にこの武器は私との相性はかなりいい訳だ。私の声も自然に弾んでいた。
「いいな。かっこいいな。早くこの短剣で誰か殺したいなぁ。そうだ。予定に無かったけどPKKでもしに行こうかな」
そして新しい武器を手に変なテンションになった私は、ノリノリで三人のプレイヤーを暗殺したのだった。




