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第32話 古き騎士の遺構Part3-The Gun-

更新時間ミスってました……申し訳ないです。


 私は昔から誰かと何かをするということが苦手だった。

 それはゲームでもそうだし、ゲームじゃなくてもそうだ。

 私が変に凝り性なのか、又は私が変わり者なのか……。どちらもなのかもしれないし、どっちでもないのかも知れない。

 それは私が行っているライフル射撃においてもそうだ。一人で黙々と練習する分には問題ないのだが、誰かと何かを競い合うという段階になるとどうにも拒否反応が起きてしまう。

 だからこの仲良しパネルもきっと上手くいかないのだろうなということは最初から分かっていた。


「私がリュドミラさんに合わせますから」


 とエイルは言ってくれた。確かにエイルは私をよく知っている。よく知っているからこそ、私に合わせることの大変さを誰よりも分かっている。

 友人を作っても、ライバルが出来ても、倉敷千景という女の孤独は消えない。私は生きている限り、この孤独感と一生付き合っていくのだ。


「倉敷さんはさぁ……。強欲なんだよ。それだけ実力があって、才能があって。それなのに何でつまらないなんて言えるの?!」


 倉敷千景のやっているライフル射撃のチームメンバーから言われた言葉だ。VR技術の発達によって、スポーツ業界の敷居は数十年前に比べて格段に下がっている。無理をしても怪我することのない環境で、自分の気が済むまで練習することが出来るのだ。もちろん、リアルでの身体づくりも大事だけど。

 そういう時代になってから、それまでは敷居が高くて人が少なかった競技の人口が増えている。ライフル射撃の人口もVRのアプリによって盛大に増えた。

 私の倉敷家はそうなる以前から銃と共に生きてきた家系で、昔から狩りなどで生計を立てていた。どこで成功したかは分からないが結構な名家。武家屋敷みたいな家に住んでいて、未だにVR空間での技術の習得に関して否定的な思考をしている父がいる実に前時代的な家だ。

 人からは父の在り方を格好いいとか言われることもあるが、私には分かっていた。父はしがみついているだけだ。時代に追い付くことも出来ず、かといって諦めることも出来ないので、否定することで己の立ち位置を作っているだけの人だ。

 だからそんな人に言われて育ってきた私も、同じくしがみついているだけの人間であって、周囲から言われる「美少女スナイパー」だとか「百年に一人の逸材」なんて言葉は、何の足しにもならないものだった。それは倉敷千景ではなく、倉敷家の誰かであればいいのだから。


「ノエル……?!」


 私に何かを言いかけた友人は突然地面に出来た穴に吸い込まれるように消えていった。

 すぐに追いかけようとしたが、私が行くより前に穴は閉まってしまった。

 すぐに思考を切り替える。ノエルはどこへ行ってしまったのかとか、エイルと合流しなくてはとか色々考えるよりも前に行うことがある。

 私は肩にかけた白い長銃【アクケルテ】を、構えると背後のポッドに背中を付けて辺りを見回した。

 ノエルが引っ掛かったのはダンジョンのトラップだ。私が気を張っていればもしかしたら気付けたかもしれないトラップに、ノエルが引っ掛かってしまった。彼女には悪いことをしてしまった。


「罠が作動するとモンスターが現れることが多い」


 それはこれまでのゲームの中で得た経験だ。聞いたところによるとノエルがゲームを始めたのは最近らしく、エイルも半年くらい前からだという。そうなるとこの中では一年前のサービス開始時からやっているのは私だけだ。だから経験上、何をするとこうなるというのは分かったりするのだ。

 そして私の経験則は正しかった。突然、地面が盛り上がったかと思うと、そこから一本のタコ足のようなものが現れたのだ。


「……っ」


 地面から現れたタコ足は私を貫かんと迫ってくる。

 それを横に転がって回避すると、私がさっきまで背中を付けていたポッドが破壊される音が聞こえた。

 そこそこ頑丈そうなポッドを一撃で壊した辺り攻撃力も高いようだ。私やノエルでは一撃で致命傷だろう。下手すれば死んでしまう。

 先手を取れればよかったが、こうなると一人で戦うのはマズイ。エイルと合流するのが最適解だ。


「エイル……!」


 トークルームを起動しようとした時、私の手が止まった。

 音だ。遠くからもタコ足の動く音が聞こえる。エイルが戦っているのだろうか。

 どうするか。このままこのタコ足を引き付けたまま、エイルと合流してしまえば、不利になるのはどちらか。生憎とこちらの敵は一匹。

 一対一ならやり方次第だ。


「……こいつはここで消す!」


 タコ足は地面から伸びている。地面の下に本体がいるのかは定かではないが、動き回るタコ足の先よりも、根っこを狙う方が圧倒的に容易い。

 アクケルテの銃口をタコ足の根元に向ける。敵との距離は10mとないので、視界にターゲットスコープのようなものが映る。全くもって邪魔だが、これはこのゲームの遠距離武器を使う時の補助システムだ。オートエイムシステムだとか。AAシステムだとか。

 まあ名前は何でもいいのだ。問題はこれが私の銃撃の妨げになる。オートエイムシステムは射撃時の向きがある程度、合っていれば、視界のターゲットスコープの中に敵を収めてさえいれば、後はプレイヤーのステータス次第で弾丸が当たるというものなのだが、リアルで射撃の経験がある私の場合、ちょっとズレるのだ。このズレが厄介なもので、当たると思った弾が外れてしまう。多分、私のステータスならばそうそう外しはしないだろうけれど、それでも見えざる神の手で勝手に操作されるのは気味が悪い。

 だから中距離戦は苦手だ。エイルからはいい加減、近接武器も持ったらどうだと言われてはいるが、私は接近戦も苦手だった。遠距離射撃が私の戦場であって、こうして敵に接近されるとどうもやりにくい。


「縮地……!」


 ノエルがよく使うスキル【縮地】。体がぐいんと引っ張られる感覚。私の体がそのまま水平移動をする。タコ足の攻撃を回避しつつ、50m圏内から外れると、視界のターゲットスコープが消える。


「今……!」


 ザザザと地面を滑りながら、アクケルテを構え引き金を引くと、銃口からエネルギーで作られた弾丸が放たれた。弾丸は私の狙い通りに飛び、タコ足の根本を撃ち抜く。

 タコ足のHPバーがぐんと減った。あと一発当てれば、あのタコ足は倒せるだろう。

 二射目を撃つ体制に入る。タコ足がいくら伸びて来ても、私の所に来る前にケリをつけることは可能だ。


『あの倉敷家の人間だからって、いい気になってんじゃないわよ!』

「……っ」


 銃を撃つ度に思い起こされるのはあっちでの同じチームの人間から浴びせられる言葉。嫉妬、怒り、そういったものが綯い交ぜになった言葉が、私の引き金を引く指を止めようとする。


『どうせあなたは家だけ。あなた個人を見てくれる人なんていると思ってるの?』

「……」


 でもこんな私を強いと言ってくれた友人はいたのだ。

 それだけで私はまだ戦えた。

 たかだかモンスター程度に後れを取る訳にはいかないのだ。

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