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第31話 古き騎士の遺構Part2

 仲良しパネルにエイルとリュドミラが挑んでから、もう30分が経過した。

 依然として、我々はこの壁を突破できていない。

 参考までに仲良しパネルについて解説させてもらうと、これは扉の両側に設置された端末を使って、出されたテーマに沿ってそれぞれが打ち込む。その答えが一致していたらクリア。三回クリアすれば、扉が開く。のだが、現在は一回しかクリアしていない。同じテーマが出されたことはないので、かなり膨大な数のテーマが設定されているのだろう。全く無駄な仕掛けを作るものだと私は感心する。

 しかし驚きなのはエイルとリュドミラのミスマッチ具合だ。最初は合わせると言っていたエイルも方針を切り替えて自分の解答をするようにしたのだが、それでも突破は出来ていない。だが私はこうも思うのだ。気が合うことだけが仲良しでは無いと。

 むしろこういう時に全然噛み合わない方が上手くやっていけるのだろうかとすら思えるのだ。私は自分と似たような人間がいたらまず感じるのは敵愾心だろうし。


「ハードだ」


 何度か失敗を繰り返して、エイルとリュドミラが戻ってきた。


「……大丈夫?」

「大丈夫じゃないかも」

「はい。まさかここまで気が合わないとは……」


 私にも何か出来ないだろうか。しかし私がどっちかと変わったところで何も変わらないだろう。かといって、声もメッセージも届けられないんじゃ、待機していても何も出来ることは無さそうだ。


「ハンドシグナルとか……」

「難しいでしょうね。出されるテーマに法則性は無さそうですし」

「だよね」


 結局のところ、闇雲にやるしかないという話になった。クリア数は引き継がれているので後二回クリアすればいいだけ。

 なのだが、その二回をクリアするまでに一時間もかかってしまったのだった。

 仲良しパネルの区画を通り抜けると、そこはこれまた大きな施設だった。SFチックなのは相変わらずだが、どこか様相が違う。

 巨大な試験官の様なポッドがいくつも置かれた場所だ。映画とかだと中には人間とかが入れられてそうな嫌な場所だ。

 モンスターとかが潜んでいる可能性もあったので、私が先行する。ソロでの攻略が基本の私は何となくだが、ゲーム世界でのより強くなった反射神経も相まって、敵や他プレイヤーの存在に敏感だった。


「敵は近くにはいないみたいだ」

「……本当に分かるんだ」


 私の後ろにいるリュドミラが言った。普段はエイルを先頭に私、リュドミラという並びで歩くが、ポッドがいくつもあって視界も悪いこの場所では、私とリュドミラ、エイルで分かれて行動していた。エイルならば一人で襲われても数秒は持たせられる。私ならば恐らく先手を打てる。

 しかし後方支援がメインのリュドミラではそれが難しい。


「分かるって言ってもスキルじゃないから、どこまで正しいのか分からないけどね」

「でも凄いよねノエルは。本当に強い人だ」

「え……」


 私は絶句した。

 リュドミラからの言葉は、人付き合いに不慣れで経験も薄い私でも分かるくらいに、素直な言葉だった。というかリュドミラが嘘を吐くタイプでは無いことは少ない付き合いでも理解している。そんな彼女が私を強いと言ったのだ。つまり彼女は私を本当に強い人物だと思っているということだった。

 顔がニヤけそうになるのを頑張って食い止める。


「えぇ~。そ、そう? 別に私強くなんてないよー」


 全く無理だった。裏表のない称賛に私の心は溶かされてしまっていた。心の溶解は肉体にまで影響していた。


「でもリュドミラだって強いと思うけどな私は」

「……私が……? いやそれは無いよ」

「前にあの槍投げ女と筋肉の群れと戦った時だよ。相手の攻撃になんて全く気にせずに長距離射撃を成功させてたじゃん」

「あれは、ノエル達が槍をどうにかしてくれていたからで」

「だとしてもだよ。よくああも敵の頭を正確に撃ち抜けたもんだよ。しかも二回も。まぐれじゃないでしょあれは」


 あの時、私は筋肉だとか槍だとかに気を取られていたが、改めて考えればリュドミラの射撃センスの高さにも驚かされるものだ。

 このゲームは銃ゲーではない。なので銃や弓だって中距離での物理攻撃が可能な武器でしかない。射撃成功率を上げるスキルだとかも10mくらい近付いてようやく発動するものだと聞く。それは形状が長距離狙撃用の銃の形をしている彼女のものだって同じはず。それを彼女は本来の使い方で扱っている。その凄さには敬意を払うべきだ。


「よ、美少女スナイパー!」

「?!」

「ん……?」


 ちょっとした冗談のつもりで言った言葉にリュドミラは、妙に強い反応を示した。

 ……。

 初めて会った時にも美少女スナイパーと言った気がするが、あの時とは少し様子が違う。

 何か気に障ることでも言ってしまったのだろうか。美少女がいけなかったか、スナイパーがダメだったか。例えばこだわりがある人物なのかもしれないスナイパーではなくマークスマンと呼べとか。実際にリュドミラの戦闘方針はそっちだし。


「何か変なこと言っちゃったならごめん」

「別に、大丈夫だよ」


 大丈夫には見えなかったが、私と彼女はあくまでゲーム友達。リアルを知っている訳でもないし、そこまで干渉する気も無い。のだけれど。


「ねえ、何か困っているなら……」


 私の言葉はそこで途切れた。何故なら、それはリュドミラの前を歩いていたはずの私がいつの間にか下に向かって落ちているからだ。


「はぁ?!」


 上を見ると、そこには床の開けた跡があった。内開き。どうやら私の踏み込んだ床がああして開いてしまったらしい。私は敵やプレイヤーは分かっても罠の感知は出来ないのだ。改めてダンジョン運の無さに辟易する。

 私が落ちた先はパイプの中で、私はそのなかをゴロゴロと転がる様に落ちていく。


「きゃあああああああ!!!」


 やがてパイプが途切れると、私はホースの中に残った水のように、硬い床へと落ちた。


「ぐえっ……」


 痛い。顔面から行ってしまった。これが現実だったら女の子としてマズイことになっていたかもしれない。立ち上がって周囲を見る。暗い部屋だ。広さは上のポッド部屋と同じくらいだが、ポッドが無い分、視界が開けている。

 暗いとはいっても、うっすらと明かりはあるので、歩くのには困らない。敵の姿も見えないとなると、いよいよこの場所が何のための場所なのかが分からない。


「うーん……どうしよ。一旦ゲーム落ちて攻略サイトでも見るか……。でもなぁ。せっかくのダンジョン攻略なんだし、情報なしでやりたい」


 安全策をとるのも悪くは無いが、これはゲーム。ちょっとでもスリルがあった方が楽しいというものだろう。

 私はこの謎の部屋の調査に乗り出すことにした。


「あ、でもその前に」


 エイル達にメッセージを送っておこう。エイル、リュドミラと使っているトークルームを開いて、『なんか地下の変な部屋に落ちた。色々探ってから上に戻るので、よろしく』と打ち込んだ。

 ……。うん、なんかトークアプリに不慣れな人の文章みたいになったぞ。

 しばらく待ってみても、既読の文字が付かない。まさかメッセージが届いていて通知が見えない設定にはしていないだろうが……。ということは何か面倒事に巻き込まれているのだろうか。雑魚モンスター程度ならば即座に散らしているだろうし。


「……速く戻らないとマズイかも……」


 背筋に走る嫌な予感をひしひしと感じながら、私は上に戻る道を探すのだった。

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