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第30話 古き騎士の遺構Part1

 今日は探検日和。

 私はエイル、リュドミラと共に新しく発見されたばかりのダンジョンに来ていた。


「まさかノエルさんに誘っていただけるなんて、思いませんでしたよ」

「うん。せっかくだしと思ってさ」


 誘うまでに二日くらいもたもたしていたが、まあ誘うことが出来たので良しだ。私、成長してる。とか思う私であった。


「リュドミラもありがとうね」

「うん。こっちこそ誘ってくれてありがとう」


 リュドミラは余り喋ろうとしない。会話が苦手なのだろうか。以前は似た者同士だと思っていたが、今となっては違うと分かる。私は人付き合いそのものに恐怖を感じているだけで、会話などの付き合いが苦手という訳では無いと最近判明したのだ。怖いのでやりたくないが、出来なくはないというやつだ。それはどうなんだろうとは思うけれど、まあそうなのだし。というかそうでもなければ伊織と仲良くなるのも出来なかっただろうし。


「ノエルは最近どう? PKK稼業」

「順調順調。いいねこの仕事」


 人を殺してお金をもらう。まるで映画の登場人物みたいだ。実に格好いい。倫理とかそういうのは抜きに考えるとだが。

 今来ているダンジョンは、機械文明の発展した先のような雰囲気だ。ゲーム内は文明崩壊世界だが、このダンジョンはリアルよりも発達している。ダンジョンの名前は【古き騎士の遺構】。また騎士だ。しかし騎士とついているのに内装は完全にSFとはこれ如何に。

 自動ドアにエレベーター。ファンタジー多めの今までの探検とは打って変わっている。全体的にSFチックな場所において、私達の格好は少し浮いていた。


「……」


 この場所で手に入るアイテムはやたらとメカメカしいものも多い。機械とか破片とか、食力品は一切手に入らない。

 稀に設計図の様な図式を書いた紙も入手するが、システム上はまんま【紙】と表示される。裏紙みたいなものなのだろうが、実に味気が無い。設計図ごとに何らかのレシピになるとかなら、探索の甲斐も出てくるというのに。

 リュドミラはアイテム探知系のスキル【リサーチャー】を持っているので、アイテムを目ざとく見つける。色とりどりの設計図を彼女が見つけるが、その全てが【紙】として処理されるのは何だか見ててもの悲しくなった。文明の遺産も理解がされなければゴミと同じということである。


「ねえ、これ全自動卵割り機って書いてあるよ」

「卵割りって自動にしなくてよくない?」

「業者さんなのでは?」


 卵を使うといえば、スイーツとかだろうか。何か甘い物が食べたい気分になって来た。

 でもこのダンジョン、紙が多い。多すぎる。設計図ばかりでそれらしい発明品は影も形も無い。開発途中の失敗作とか廃棄品だらけだ。こんなんだから没落するのではないだろうか。いやまあここのキャメロットはアーサー王物語とは関係ないと思うけれど。


「キャメロットに魔剣ベイリンを持つ私がいるのって色々とマズイ気がするんだけど……」

「もう遺構なんですから、気にしなくてもいいんじゃないでしょうか」

「そういうものかな」


 ダンジョンではあるが、どちらかと言うと探索がメインで、戦闘の機会は少ない。その分、敵の一体一体がアホみたいに強いので、出会うたびに誰かしらが死んでいる。一番多いのは私だ。仕方ないじゃん。多方向からエイル狙いの範囲攻撃をやられたら、一個か二個巻き込まれちゃうんだし。


「お、なんか開けたところに出たよ」

「道が閉ざされてます。スイッチらしきものも特には見えないですね」

「嘆きの一撃で吹き飛ばすか……」

「ノエルさん? それしたら多分、私達も生き埋めですよ」


 そもそも、ダンジョンの壁とかはよほどのことでもない限り、破壊不可能だろう。壊せるということは何かの意味があるということだし。

 空間というか部屋というべきか、この区画の奥には自動ドアがあるが、完全に閉じられていて開かない。エイルが力を籠めても動かないのだから、これはギミックでもあるのだろう。


「リュドミラさん。何か分かりますか?」

「うん。ちょっと待って……」


 リュドミラがくんくんと鼻を鳴らす。区画の中を所せましを動き回るその姿は、猫を彷彿とさせた。何だかリュドミラに猫耳と猫尻尾が付いている様な幻覚すら見える。


「……可愛いですよね」

「まあ、そうだね」


 エイルの言葉に見え隠れするハートマークはどういう意味なんだろうか。

 猫もといリュドミラが私とエイルの所に戻ってきた。猫というより犬なのかも。忠犬リュドミラ。どちらにしても可愛いのは確かだった。


「見つけたよ。ギミック」

「それは良かったです。で、どんなギミックがあったんですか?」

「仲良しパネルだって」

「何そのほんわかしそうなギミック」


 リュドミラが区画の扉の横の台座を指さした。ちょうど反対側にも似たような台座があって、それは扉を挟むように置かれていた。台座の上にはキーボードとモニタがあった。

 

「パソコンだ。これ弄れたんだ」

「これを両側から操作してテーマごとに同じ答えを出さないとダメなんだって」


 同タイミングで操作する必要があるので、台座を行ったり来たりとかは無理そうだ。試しに私とリュドミラで試してみたが、台座の前に立った瞬間に足が動かなくなった。そして中央の扉の上のモニタに【夏になったら何をしたい?】と文字が浮かび上がり、目の前の台座のキーボードが光った。

 私は試しに睡眠と打ち込んでみた。夏って何をする気も起きないんだよね。

 リュドミラはセミの抜け殻を集めると打ち込んでいた。可愛い。判定は×。一致しないとダメなのかもしれない。


「……つまり気が合わなければいけないと、仲良しパネル……恐るべし」

「うん。私達みたいな日陰者にはこれはキツイ」

「打ち込む前に相談は出来ないんですか?」

「ダメ。あの台座の前に立った時、二人の声が聞こえなくなったから」


 ハンドシグナルくらいは通じそうだが、私達は特殊部隊の人間では無いので、そんな高度な連携は出来ない。

 厄介極まりないギミックだ。質問もかなり漠然としている。はいかいいえだけのものだったら、山勘でも行けるし、事前の相談で対処できるけど、これは難しい。

 これじゃあソロで来てたらここで詰んでたってことになる。ゲームとしてそれでいいのか、という気はしなくもない。


「……これ、誰がやるの?」


 答えを真摯に打ち込むというより、相手が何を打ち込むかを想定して打ち込むのがいいだろうが、悲しいかな。私はエイルとリュドミラのことをそれ程詳しく知っている訳ではない。

 私では無理。だけど、元からパートナーだった二人ならば。という期待を込めての言葉だったが、エイルとリュドミラも初めからそのつもりだったらしい。


「ここは私達が」

「うん」


 二人は台座に向かう。腹黒でお淑やかなエイルと、物静かでクールなリュドミラ。気が合わなさそうというか、互いに無関心そうな組み合わせだが、時折謎の波長の良さを見せる二人。この二人ならやってくれそうな気がしていた。


「リュドミラさんは自由に入力してください。私が合わせます」

「お願い」


 最初の質問は【トンカツに何をかけて食べますか?】だった。私はソースだ。というかこれほぼソース一択。可能性があって醤油くらいでは?

 リュドミラの解答は塩。割とアリかもしれない。今度試してみよう。

 彼女に合わせると言っていたエイルの解答は砂糖だった。何で?


「ちょ、ちょ、エイル?! 何で砂糖って書いたの?!」

「いえ、リュドミラさんなら間違えてしまうかなと。というか以前お宅に招いてくれた時、間違えてましたよね」

「そ、それは結果的にそうなっちゃっただけで……あとそれノエルの前で言わないでよ……!」


 ……。

 二人はリアルでも知り合いなのか。しかもトンカツを手作りするほどの関係性。確かに仲はとてもいいのだろう。実際、エイルは彼女の癖を見抜いている。

 でもこの感じ。


「これは、難航しそうだなぁ」


 まあ私がやるよりかは圧倒的に速いと思うけれど。

 仲良しパネルというギミック名が皮肉なものに思えてしまった。

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