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第25話 騎士団長

 それは鮮やかな剣技だった。

 丸太ほどの太い腕を、まるで紙を切るかのように容易く切り裂いた。

 それを成したプレイヤーは私よりも背の低い少女だ。赤い髪、赤い目。表情が豊かで声も大きめ。

 一目見ただけで活発な人間だと分かる。私とは真逆に位置するタイプと言えよう。肩や脇、太腿など所々が露出している鎧姿だが、不思議と色気は無い。何よりも彼女の持つ装備で得意なのは剣だ。鋼で出来た普通の剣の様だが、所々華美な装飾が施されている。通常のロングソードより一回りは大きい剣だ。


「あの人数相手によく頑張ったね。でもボクが来たからにはもう安心だ」


 少女はそう言うと、最後に残った筋肉に刃を向ける。


「ギリギリまで隠れて不意打ちって感じかなキミの役割は。他の人に比べてちょっと強そうだもんね」


 ちょっと強そうだと少女は言っているが、私にはこの残った筋肉とさっきまでたくさんいたあの筋肉達の違いが分からなかった。


「でもボクが一番感心したのはキミだよノエル。あのスキル一体何なんだい?!」

「あれは……嘆きの一撃って言って……ていうか前、前。攻撃来てる!」


 思いっきり敵に背を向ける少女の姿はどう見ても隙だらけだ。そりゃあ誰でもチャンスだと思う。だけど私には何となく分かっていたこの子には隙は無いと。

 後ろから殴りかかってきている筋肉の存在にも気付いているのだと。

 現実ならば、どう見ても勝負にならない。頭二つは離れた大の大男に女の子が敵う訳が無い。そんな大男の拳を彼女は背を向けたまま、片手を出しただけで防いだ。


「?!」


 拳の余波で、あの筋肉はゲームシステム上は見せ筋ではないのだと分かった。恐ろしくSTRを上げている。多分、エイルよりも高い。それを片手で防いだのか。この少女は。


「うん、いいね。スキルを使ってなかったらヤバかったかも」


 さも楽しそうに少女は言った。動揺する大男。


「それじゃあキミと、激闘を生き延びたノエル達に敬意を表してとっておきを見せてあげるよ!!」


 少女は剣道でいうところの中段の構えに似た体勢をとる。すぅぅと深呼吸をすると、彼女の周りに光の粒子が発生しているのが見えた。光の粒子は吸い込まれるように剣に集まっていく。

 やがてそれは織り合い混ざり合い、一振りの巨大な光の刃となる。


「クラウソラス……!!」


 少女が叫ぶとともに剣を振り下ろすと、剣に集められていた光が、まるで決壊したダムの水のように放出される。指向性を持った光の刃は一直線に、筋肉へと向かって飛んでいき、そして……。


「ぶひぃぃぃぃぃぃ!!!」


 その大柄な体を跡形も無く消し炭にしたのだった。


「やあ! ボクはアーサー。となりの騎士団のギルドマスターをやってるんだ。よろしくね!」


 赤髪赤目の少女剣士はアーサーと名乗った。アーサーと言えばあのアーサーだろう。騎士団を名乗るギルドのギルドマスターをやるのもまあ分かるような気がした。それに実力も高いし。名実ともに騎士王なのだろう彼女は。


「いつの間にか彼女がパーティに入ってましたけど、誰か入れました?」


 エイルが私とリュドミラを見る。そういえば嘆きの一撃を撃つ前になんかやったような気がする。一瞬だったしとりあえず視界に浮かんだウインドウを消すことだけを考えていたので、何かは分からなかったが。


「あー、それ……私かもしれない」

「ヒルデから君に仕事を依頼したと聞いてさ。こうしちゃいられないと思って駆け付けた訳さ」

「……ごめん。よく分からないんだけど、となりの騎士団のギルドマスターやってる凄い方が何で私に?」

「黒兎。目にもとまらぬ早業で確実に敵を仕留める暗殺者。カッコいいよね!」

「ちょ……やめてよ。何か恥ずい」


 黒兎については、エイルとリュドミラに話していないので、より恥ずかしい。見知らぬ誰かに称賛されるくらいなら自信にもつながるが、知り合いに知られたくはない。

 まあエイルにはバレているのかもだけど。


「レッドプレイヤーでソロのノエルさんですから。最初から分かってましたよ」

「ま、マジっすか……」

「実は私も知ってたよ」

「……」


 やはり味方はどこにもいないらしい。

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