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第23話 渚の女王様、汗と筋肉

 ボスを倒し、装備も整えたところで、さてもう洞窟を出ようかという話になった。

 随分と地下に落ちている為、多分脱出地点もランダル平原では無いだろう。状況確認がしたいし、何より仮想とはいえ陽の光が欲しい頃合いだ。

 ボスと戦った広場を通り抜け、外の光が差し込む道を通る。

 壁も洞窟の中のような岩肌ではなく、しっかりと造られたものになっている。どことなく無垢なる王の墓所と似たようなデザインの壁だなと思った。


「この壁の絵って他で見たことある?」

「……」


 戦闘を歩くエイルが壁を眺める。


「ありますよ。無垢なる王の墓所、黄昏の丘、この辺りのダンジョンの壁はどこも似たような印象がありますね。中でも、選定の祠はSF風味で面白いですよ」

「へぇ……何かとなりの騎士団が好きそうなネーミングだぁ」

「実際、廃墟都市ルミナリエも城下町のような印象を感じますし、実際にこの辺は騎士時代の名残を残しているのかもしれませんね」

「じゃあ聖剣とかもあるのかな。レジェンダリー武器で」

「あるそうですよ。噂ではとなりの騎士団のギルドマスターが入手しているとか」

「ああやっぱり」


 何となくそんな気がしていたよ。となるとやはりとなりの騎士団のギルドマスターは有名なあのお方なのかもしれない。聖剣といえば一番に思い当たるのは誰でも同じだろうし。


「私、ソロだからあまりダンジョン潜れてないんだよね。だからちょっと新鮮だよ」

「そういうことでしたら、今度一緒に行きますか?」

「いいの?!」

「ええ。いいですよね、リュドミラさん」

「うん。エイルがいいのなら私は何でも。それにノエルは良い人だし」

「リュドミラ……大好き……!」


 またもや良い人と言われて感極まった私は衝動的にリュドミラに抱き着いていた。


「え……えぇ……ちょ、ノエル?!」


 顔を真っ赤にしたリュドミラがバタバタと手を振り回す。そんな彼女の腕が肩に当たって、私のHPが減った。脆すぎるだろ私。

 それでもなお、彼女を抱きしめて離さない私をエイルが恐るべきパワーで引き剥がした。


「ノエルさん。あまりリュドミラさんを困らせないであげてください。彼女、人との距離を掴むのが苦手なんですから」


 リュドミラを見るとまだ顔を真っ赤にしていた。何だか申し訳ないことをした。衝動的とはいえ人に抱き着くとか、私は獣か。しかし人との距離を掴むのは私も不慣れなことで、なにせ今まで自分から人との距離を縮めたことがないのだから、どこまでやればいいのか分からないのは当然のことだ。人を殴った経験の無い人が、ちょっとした気の弾みで人を殴って手加減が出来ずに殺してしまったようなものである。


「それはまあ私もそうなんだけど……」

「ノエルさんの場合、苦手というより分かってなさそうなんですよね」


 どうやらエイルに隠し事は出来ないらしい。私という人間を看破されている。


「ダンジョンの出口が見えてきました。……!」


 ふとエイルが立ち止まる。

 私は彼女の背中に鼻をぶつけそうになったが、何とか止まった。


「どうしたの?」


 エイルの顔に緊張の色が見えた。ボス戦の広場を発見した時とはまた違う。

 これは私案件かもしれない。


「外にプレイヤーが多数。ざっと10名は超えています」


 エイルが持っている【索敵】スキルの効果だろうか。彼女は外にいるのがモンスターでなくプレイヤーだと言った。


「待ち構えてる感じ?」

「はい」

「なるほど。ボスドロップした後を狙うって感じか。やり方が姑息だなぁ」


 私も見習おう。とは思ったが言わなかった。

 これは直感に近いもので全く信憑性の欠片もない憶測だが、となりの騎士団の団員を倒したプレイヤーキラーはその集団だと思った。しかしヒルデの話では複数ではなく一人の槍使いだと聞いていたが……。


「行くの?」


 リュドミラが言う。転移アイテムなんて高価なものは私は持っていないし、二人も持っていないという。となるともういくしかない。


「行こう。私はもとよりそいつ狙いで来てるんだし」


 どちらにせよ、そのプレイヤーをどうにかしないことには戻れないのだから。

 ダンジョンを出るとそこは砂浜だった。砂浜の先には一面の青い海。強い陽の光が差し込む。絶好の海日和といったところだ。私はあまり海に行かないけど。


「へぇ……結構、キレ……い?」


 海、砂浜、日差し、そして筋肉。最後の一つだけ何かおかしい。

 だが実際にいるのだ。筋肉がたくさん。性格には半裸の筋肉マッチョの群れだ。私は目を疑った。こんなものがこの世界にいていいのかと。

 しかし仕方がない。この世界にはモヒカンだっているのだ。筋肉の一人や二人いてもおかしくはない。目の前にいる筋肉は10名は超えている。

 そしてその中央。筋肉男子が馬になって出来た玉座に鎮座する女王様の姿があった。


「……ナンダコレ」


 私は思った。強制ログアウトしてくれと。

 だが現実は非情なもので、いつもは過保護なくらいなセーフティ機能も今は働いてくれない。私の意識は依然、ゲーム内にいるままだ。


「ふーん、一人、二人、三人。三人ぽっちであのボスを仕留めたのね。まあとりあえず伝えておくわご苦労様。それじゃ剝ぎ取らせてもらうわね」


 玉座の上の女王様は悪戯気に笑うと、ふわりと浮かぶように玉座から降りる。

 すとんとつま先が砂に触れる。赤いハイヒール。深紅のドレス風装備。金色のツインテール。そうした全てが彼女の人格を表しているような気がした。あれは過激なヤバい人だ。

 そしてつま先から着地した彼女は、


「あっつ……!」


 ずてんと音をたてて盛大に砂浜に顔面から着地した。

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