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第22話 魔剣ベイリン

 黒い煙から現れたのは巨大な四足歩行の獣だ。狼とか犬とかそういう感じの雰囲気を感じる。個体名は【ブラックウルフ】。私が感じた印象は正しいらしい。

 無垢なる王よりも大きい。戦闘フィールドはあの時と同じくらいなので、流石に巨体に走り回られたら少し厄介かもしれない。

 あの時は、ダメ元での戦闘だったが、今回は倒さないとマズイ敵だ。死んで何か大事な武器を落としていけば、きっと再入手は難しいだろう。私はコーディリアリングさえ落とさなければいいのだが、二人はどうか分からない。

 やるなら瞬殺。それしかない。


「エイル。アイツの足止め頼める?」

「もちろんです。ノエルさん、リュドミラさん。攻撃は任せましたよ」

「うん」

「了解!」


 簡単な作戦会議が終わる。

 それを待ってくれていた訳では無いだろうが、ブラックウルフが動き出す。【敵対感知】を使用したエイルに向けて一目散にその巨体をぶつけてくる。エイルがそれを軽々と受け止めた。物凄い筋力をしていらっしゃる。

 私とリュドミラはそれぞれ別の方向から、ブラックウルフの脇を通り抜けた。


「背後! でも、首ってどの辺?!」


 人型ならどこからどこが首なのか正確に分かるが、獣の形をしていたり、異形だったりすると、正確な首の位置が分からないのだ。首が分からないと私の攻撃性は極端に下がってしまう。


「多分、背中に乗れば分かると思う」

「あー、考えてみればそうだよね。じゃあとりあえず……」

「足を落とそう」


 リュドミラは銃を構えると、ブラックウルフの四肢に向けて弾丸を放つ。正確無比な弾丸は動き回るブラックウルフの足を正確に貫く。私も続けて斬り付ける。一応【バックスタブ】は発動しているので、それなりのダメージは稼げていた。ブラックウルフの足にもHPは設定されており、それぞれ倒すごとにブラックウルフの移動速度や攻撃頻度が下がっていく。

 全ての足を倒して、首を斬ればそれで終わりだ。私達三人の巧みな連携はブラックウルフに手も足も出させなかった。


「せいっ!」


 足を三本倒した時、エイルが気合の入った声と共に、盾でブラックウルフを殴りつける。あの巨体を軽々と受け止める筋力がブラックウルフの巨躯を弾く。


「ノエル! お願い!」


 リュドミラの弾丸が敵の最後の足を消し飛ばす。ブラックウルフの四肢が弛緩し、巨躯がぐったりとする。この状態のブラックウルフは完全に無防備だ。だがしばらくするとまた四肢が復活してしまう。ここで決めなくては。


「エイル……盾を!」

「はい! どうぞ使って下さい!」


 エイルが盾を上に向けている。私は盾を足場に跳躍すると共に【縮地】を発動した。

 音を置き去りにするスピードで、私の体は天井すれすれまで飛ぶ。


「うわああああああ?!」


 眼下にはブラックウルフの背中。確かに、こうやって上から見ると首は大変分かりやすい。

 私は武器セット入れ替えで大槌【ハンマーヘッド】を装備した。落下ダメージと【バックスタブ】、【首狩り】の相乗に加えて大槌の攻撃性を増した一撃。今の私が出せる最強の一撃だ。


「おりゃあああ!!」


 黒い獣の首に大槌の一撃が振り下ろされると、獣のHPバーは完全に消えていく。獣は痙攣し、光の粒子となって消滅した。


「……」


 ボス戦が終わったというのに、私の中に残っていたのは漠然とした不足感だった。連携を楽しんでいた満足感よりも、そっちが強い。別にスリルとかを求めていたつもりはなかったが、無意識の内に私はソロプレイのあのギリギリ感を楽しんでいたらしい。

 だからリュドミラとエイルが安心したようにハイタッチしているのを、少し冷めた目で見てしまっていた。


「……はぁ」


 ドロップ品を表示したウインドウが目の前に表れる。私はそれを適当に操作しながら、そしてドロップした武器に注目していた。


「魔剣ベイリン?」

「レジェンダリー武器ですね。ボス自体は強い部類ではありませんでしたが、地図にもない洞窟だけに、いい物が手に入ったということでしょうか」


 武器やアイテムにはいわゆるレア度というものが存在する。コモン、アンコモン、レア、エピック、レジェンダリーの五つだ。上に行くほどに基本的に性能は良くなる。魔剣ベイリンはレジェンダリーに入るらしい。結構な驚きだが、エイルの反応からしてもレジェンダリー武器自体はそうそう珍しい物でもないらしい。それのどこがレアなんだよとは思うが。


「へぇ、そういうこともあるんだ」


 【となりの騎士団】の人がここでプレイヤーキラーにやられたという話だが、もしかしたらこの武器を狙ってここまで来ていたのかもしれない。ベイリンって確かアーサー王伝説で出てくる人だった気がするし。


「これ短剣だし、ノエルが持っていけば?」

「いいの?!」

「ええ、私達では腐らせてしまうだけですし、それにトドメを刺したのはノエルさんですから」

「いや、アレは二人の援護があったからで……」

「では友好の証ということで、貰っていって下さい」

「……そ、そういうことなら」


 てっきり喧嘩になるのかもとか思ってしまった自分を恥じた。二人はそういうタイプじゃないのに、何でこう私は人の善性を信じられないのだろうか。自分が嫌になる。

 自己嫌悪感マシマシで私は【魔剣ベイリン】を入手した。他のドロップアイテムやお金は三人で分配した。


「レジェンダリー武器には一つか二つ、専用のスキルが付いているものなんですよ」

「あるよ。嘆きの一撃ってやつと後、はてなマークだらけのやつが」

「はてなマークの方は多分、武器を使っていけばその内習得できるスキルだと思う。私のアクケルテにもあるし」

「成長する武器ってことか。私専用武器みたいでカッコいいね」

「その分、落とした時のショックも大きいんですけどね……」

「それは言わないで」


 【魔剣ベイリン】はその名の通り赤黒くて禍々しい見た目をしている。保有スキルは【暗殺技術】【嘆きの一撃】【??????】だ。暗殺技術は、短剣の攻撃力が上がるものだ。私が既に一つ持っているので【暗殺技術Ⅱ】と表記されている。

 嘆きの一撃は魔法攻撃スキルらしい。無属性魔法だとか。消費MPは現在の私のMPの八割ほど。実用的じゃないね。

 赤色が入っていることは、私的にポイントが高い。既に装備している店売りの短剣と二刀流で運用していこう。


「っていうかエイルって盾だけなんだね。武器は持たないの?」

「一応、この盾。剣に変形できるんですよ」

「そういうものもあるのか……文明が滅んだあとのファンタジーだからって色々とメカニカル過ぎでは?」

「でも私、剣をどうも上手く扱えないので」

「まあ分かるよ。剣なんて剣道やってなけりゃ触る機会もないだろうしね」


 剣は長くて重いし女の子には使い難い。たまに街で女の子の剣士を見かけるたびによく使えるよなとか思ってたりするのだ。


「はい。だから盾で殴って倒せるならそれでいいのかな、と」

「ブラックウルフを弾き飛ばしてたもんね」


 巨体を軽々とものともせずに殴り飛ばすエイルの姿はそれなりに衝撃的だった。お淑やかそうな見た目でとんでもない力持ち。さしずめマッシブお嬢様。怒らせたら怖そうだ。

 

「エイルの拳は岩も一瞬で粉々に出来るよ」

「殺人級ボクサー?!」


 青い顔をして言うリュドミラを見て、私は多分本当なのだろうと思った。私と違って下手な事を言わなそうなリュドミラまでもが青い顔をするとは、一体エイルは過去に何をしたんだろうかと興味が出てくる。

 エイルが笑顔でこちらを見ていた。いや笑顔なんだけど、何か黒い。ぞくりと背筋に冷たいものが走った。


「ですから、あまり変なこと考えていると、どうなるか分かりますよねノエルさん?」

「い、いや何も考えてないからね。マッシブお嬢様とか考えてないから!!」


 言ってからしまったと思った。これじゃあ考えてるのバレバレだ。しかしエイルの反応は意外なものだった。


「私、ごく普通の家庭の生まれですよ?」

「ああそうなんだ」


 ってマッシブは別にいいのか。

 まあそうだよね。エイルは怒らなさそうな人だし、大丈夫だよねと私はすっかり安心しきってしまっていた。


「で、マッシブって何のことですか?」

「ひっ」


 再び黒い笑顔になるエイル。私はすぐ逃げ出そうとした。私のAGIはエイルよりも高い。本気で逃げれば無事なはず。


「リュドミラさーん」

「は、はい!」


 パチンとエイルが指を鳴らすと、いつの間にか私の後ろにいたリュドミラが私を羽交い絞めにする。その間、0.01秒。何て連携だ。以心伝心なんてものではない。まるで女王様と忠臣だ。


「あのリュドミラ……? 助けてくれたりは……」

「ごめんノエル。こういう時のエイル逆らったら今度は私が……」


 リュドミラはそこで言葉を切った。私が、何? 一体これから私は何をされるというのか?!

 ここまでの付き合いで二人のことはそれなりに理解しているつもりで、酷いことはされないだろうという確信はある。だから今の恐怖はいつものとは違う。人が怖いのではない。単純にエイルが怖いのだ。


「ちょ、やめ。その手何?! 何をする気なの?! やめて。やだああああああ!!!」


 暗い洞窟に私の叫び声が響いた。

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