第21話 地下洞窟の探索
地下洞窟に三人分の足音が響く。
以前、ヒルデと【無垢なる王の墓所】を探索した時と同じだ。私の背後を見てくれる人がいる。私が一人ではない安心感。これがパーティというものなのだろう。
それに私の視界の左上には私のじゃないHPバーが二本ある。リュドミラとエイルのものだ。数値を見た感じ、エイルのHPがダントツに高い。
彼女の右手には青白い宝石の装飾が施されたラウンドシールドが付いている。彼女がタンクで、リュドミラがアタッカーをしているのだろう。
「この洞窟って何なの?」
「あ、そうだよ。エイル。何か分かったの?」
「ずっと歩いていたのですが、同じところを往ったり来たりしているような感じがあったので、慌てて戻ったのでよく分かってません」
「まあ不安になるよね。この道。風景も変わらないし」
「せめてモンスターでも出てくれれば、分かりやすいんですけどね」
「ちょっとエイル。そういうこと言うと出るからやめてよ……!」
リュドミラの言葉がよりフラグをフラグ足らしめるのではないかと私は思った。そして、私のこの思考がより最悪の結果を引き起こした。
「?!」
洞窟が揺れる。エイルが前に出て盾を構える。私は真ん中で横を見る。リュドミラは背後を。特に事前に相談をしていた訳ではない。私が二人の連携に付いていけているのでもない。ただ三人が三人共、己が得意とする戦場を理解しているだけだ。
「敵は洞窟の岩肌の中にいます! すぐ近くなので、ノエルさんお願いします」
「い、いえっさー!」
エイルが【敵視集中】スキルを発動すると岩肌を突き破ってモンスターが現れた。モンスターの形状は人型のゾンビみたいなやつだ。個体名もグールと来た。
【敵視集中】のおかげで、グールの狙いは真っ直ぐにエイルへと向いていた。
「ノエル!」
「リュドミラは大丈夫。周囲を警戒していて。アイツは私が殺す!」
普段なら敵が一匹しかいない時、必要以上に警戒しながら攻めつつ、一瞬でケリをつける必要があるが、今はその心配は無用だ。守りはエイルが警戒はリュドミラがやってくれる。なら私は敵を倒すだけだ。
「……!」
短剣を構えて駆け出す。グールの攻撃は全てエイルに向かっており、彼女はそれらを完璧にいなしている。吹き飛ばさず、それでいて向きを変えさせない。
エイルの緻密な盾捌きと空間把握能力には驚かされる。私ではああも周りを見ながらの戦闘は出来ない。
「これがパーティプレイ……」
二人で戦った時とはまた違った連携がそこにはあった。
「楽しいかも……!」
短剣を振るう力が籠る。誰かと一緒に何かをする楽しさ。
それを初めて実感できたような気がした。
「流石、ここまでソロで来るだけのことはありますね」
戦闘が終わった後、エイルが言った。私の短剣捌きを見ての感想だ。
少し楽しいなと思い始めたというのに、もう終わってしまったのか。まあ雑魚敵だし、普段も今も一撃で倒すのには変わりがない。
「ありがとう。エイルもリュドミラも助けてくれてありがとうね」
「私は何もしてないよ」
「リュドミラが周りを見ていてくれたから私は何も考えずに突っ込めたんだ。だからありがとう」
「……そ、そういうことなら……どうも」
リュドミラが頬を赤くして、しどろもどろになる。
「あははははは。何だかリュドミラと話していると安心するよ。他人じゃないような気がする」
「あらあら、私は仲間外れですか?」
「えぇ?! ち、違うよ。エイルはお姉さんっていうかなんて言うかさ」
「私に妹がまた増えるのですね……」
「……!」
エイルがため息を吐く。リュドミラが肩をビクリと振るわせる。色々と疑問に思ってリュドミラを見る。彼女は私と目が合うとブンブンと首を横に振る。何が違うのか? エイルはそんな私達をほほえましそうに見ている。本当にお姉ちゃんみたいだ。
「……ああ、なるほど」
妹がまた増えるというのはそういうことらしい。しかし私とリュドミラではエイルに感じている姉みにも差がある気がするのだが。
「……色々察したかも」
「さ、察したって……?」
「応援してるよ!」
「ノ、ノエル……」
暗い洞窟に女の子三人の笑い声が響いていた。
人と関わるひと時。私が私らしくない一瞬。
少し怖いけど、何だか楽しい。
この二人となら友達としてやっていけそうな気がしていた。
「……! お二人とも、洞窟の出口が見えてきました」
「本当?!」
出口が見えたのは素直に嬉しい。しかし私が狙うプレイヤーキラーは果たしてどこにいるのだろうか。これで実はルミナリエにいるとかだったら、完全な取り越し苦労……いやまあエイル達に出会えたのはラッキーだけど。
そのまま進んでいくと、何やらやたらと開けた円形の場所に出た。広場だ。
奥には出口の光が見えているが、そこまでは遠い。この場所はあの墓所と似ている様な気がした。
「やっぱりボス戦か……」
「ダンジョン攻略と言えば、ですものね。警戒は怠らずにお願いします」
タンクが一人に、アタッカーが二人。例の如く長期戦をするわけにはいかない組み合わせだ。
コーディリアリングを使う時がやって来たのかもしれない。
私は装備セットの変更方法を頭の中で反復する。リュドミラも何も言わないが、この場所が何を意味するかは分かっている様だ。
広場に入ると、青白い線が周りに走る。
空気が振動する音が鳴ると同時に、黒い霧が広場の真ん中に立ち昇る。煙とは違う。あれは何かがやって来る前兆だ。
「来ます! 出現と同時に攻撃してくるかもしれません」
エイルが私とリュドミラを庇うように前に立つ。ゆらゆらと揺れる煙の中に、何か異形の存在がいるのが見えた。
段々と煙が晴れていく。
戦闘が、始まる。
 




