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第20話 地下洞窟での出会い

「にしても、ここはどこなんですかね」


 あの洞窟の落ちた先ということは分かるが、こんなダンジョンみたいな場所があるなんてヒルデからは聞いていない。先に来ているリュドミラなら何か知っているかもと思ったが、彼女もあまり知らない様だ。


「私達も、あそこから落ちて来たから。今、エイルが出口が無いか探しに行ってる」

「リュドミラさんパーティ組んでたんだ」


 まあソロでこんな所まで来るのは私くらいだ。一瞬同類がいたと思って嬉しかったんだけどな。

 エイル。一体どういう人なんだろう。


「エイルは凄い人だよ。きっとノエルも仲良くなれると思う」

「そ、そうですかね……。そうだといいんですけど」


 向こうはともかく私が必要以上にビビらないかが心配だ。

 私は諦めて周囲を見た。

 私達がいるのは洞窟の通路の真ん中くらいの場所だ。天井までは高く、多分10mはある。通路の幅は5mほどでかなり狭い。洞窟を構成する岩肌には一切の亀裂は無い。現実だったらきっと息苦しそうな場所ではあるが、ここはゲームなのでそこまでリアルではない様だ。

 仮に私が追っているプレイヤーキラーもここにいるのだとしたら、ちょっと不利かもしれない。聞いていた話では槍を使うプレイヤーだからだ。槍はリーチが長い。横に逃げ場の少ないこの場所で槍と打ち合うのは勘弁だ。


「あ、そうだ。リュドミラさん。エイルさんって武器何なの?」

「盾だよ」

「盾……」


 とりあえず私が追っているプレイヤーキラーとエイルは他人ということだ。それは良かった。合流したら敵だったっていうのが一番嫌だったし。


「ちなみに私の武器は短剣です」

「うん、知ってるよ。落ちてきたときに散らばってたから」

「ていうか私、レッドプレイヤーなんだけど……」

「それも大丈夫だよ。私達は色でプレイヤーを区別したりはしないと思うから」

「う~神や~、ていうか天使がここにいた……」


 これからは大天使リュドミラ様とでも呼ぼうか。と思っていた時、足音が洞窟に響いた。


「エイル!」


 リュドミラが立ち上がって足音の方へと小走りに駆けていく。安心と信頼。何だか街で伊織を見つけた時の私の様な感じだ。親近感が湧くと同時に、私は街で伊織を見つけるとあんな顔をするのかと少し頬が熱くなった。


「あらあらリュドミラさん。どうかしましたか?」


 現れたのは女の子プレイヤーだ。プラチナブロンドのハーフアップ。背が高く、スタイルがとてもいい。ファッション誌とかで見てもおかしくないくらいの美人だ。


「いや私は大丈夫だけど。……エイルは無事なの?」

「私は無事ですよ。ていうか私達パーティなんですから私が無事かどうかは分かりますよね?」

「そ、そうだけど……」 

「クス。別にいいんですよ。心配してくださってありがとうございますリュドミラさん」

「……うん!」


 どうしよう。声をかけにくい。アレは完全に二人だけの世界にいる人たちの会話だ。

 私が困り果てていると、エイルと呼ばれている少女がこちらを向く。


「リュドミラさん。あちらの方は? 見た所、レッドプレイヤーのようですが」

「彼女はノエル。レッドだけどいい人だよ」


 いい人というリュドミラからの全幅の信頼に私はむず痒くなる。

 まだそこまで信頼を築けていないのではと思っていて少し不安だったのだ。少しは人を疑ってもいいんじゃないかとも思ったが。他人に対する評価が私とは別ベクトルだ。


「ノエルさん」

「は……はい!!」


 突然、エイルから呼ばれてビクリと肩が震えた。エイルが苦笑する。


「そんなに緊張なさらないでください。別に取って食おうとは思っていませんから」

「い……いえそんな」

「ノエルさん。単独でここまで来たあなたの実力を見込んで、お願いします。ここを出るまで協力してくれませんか?」

「それは、私の方こそお願いしたいことで……ていうか私レッドなんですけど本当にいいんですか?」

「リュドミラさんが無事ですから。特に疑う理由もありませんよ。それにPKはゲーム上禁止されていませんし」


 類は友を呼ぶというのだろうか。大天使は大天使を呼ぶとでも言うのか。この二人の慈悲深さに私は涙が零れそうだった。


「何か、本当ありがとうございます」

「ふふ。面白い方ですね。ここはゲームなんですから、もっと気楽にしてもいいのでは?」


 背筋に鉄棒を差し込まれたような感覚があった。それは私が最も苦手にするもので、そしてこのゲームの中で解消したいところだからだ。 


「えっと……」

「すみません。配慮が足りないのは私の方でしたね」


 言葉に詰まる私を見て、エイルは申し訳なさそうに頭を下げた。それに罪悪感を覚えた。

 胸がチクリと痛む。私は慌てて言葉を並べようとした。


「あ、いえ別にそんなつもりは」

「でしたら気楽にお願いします。無理に敬語を使おうとしなくていいんですよ? 私のは地みたいなものですので」

「あー……」


 何か完全に乗せられてしまった気がする。なるほど。こういう感じの人なのか。エイルは。


「えっと……お願いしま……よろしく、エイル……にリュドミラも」

「よろしくノエル」

「はい。よろしくお願いしますノエルさん」


 とても優しくてものすごくいい人だ。しかし、どこか黒いというか容赦の無い人なんだなと私は思った。まあ彼女のこの気遣いにはとても助かると思う私もどこかにいた訳で。

 こういう風に容赦なく心の壁を壊しに来るようなのは伊織以来だ。きっとリュドミラの壁もエイルが壊したのだろう。あの二人を見ていると伊織を思い出す。

 もうすぐ彼女もこのゲームにやって来る。彼女は今の私を見て、何と言うのだろうか。

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