表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/70

第18話 PKK稼業

「さて……と」


 【ランダル平原】へとやって来た私は、目的の洞窟の前に到着していた。

 ここに今日の獲物がいるらしい。


「やるか」


 短剣を構えて、私は暗い洞窟へ踏み込む。青空の下の平原から、光も届かない暗所へ。草木は一切生えておらず、露出した岩肌。少し蒸し暑い洞窟特有の感覚がある。仮に現実なら汗だくになること間違いなしだ。

 進むごとに暗くなってくるが、【暗視】スキルは取ってあるので、問題なしだ。約3分間持続する。クールタイムは10秒ほどだが、戦闘中にクールタイムに入ってしまうと、普通に殺されてしまうだろう。戦闘前に一度スキルを使い切った方が良さそうだ。


「……声も反響する……」


 コウモリでも出そうな雰囲気があるが、ここにモンスターがいないことは聞いている。だからこそ獲物が潜伏するのに使うのだろう。

 私の獲物はプレイヤーだ。それはそうだ。だって私はプレイヤーキラーなのだから。でも今日はいつものと違って依頼されて行うPKとなる。プレイヤーキラーを殺すプレイヤーキラー。PKKとか言うんだとか。

 これで私が殺されればPKKKだ。意味が分からん。


「……しかしヒルデさんめ……依頼料ケチるとは」


 おまけに使用したアイテムの代金は払ってくれない。まあ殺し屋では無いので、そこまでお金にがめつくなるつもりは無いが、これに味を占めたらもっとがめつくなってもいいかもしれないとは思った。

 私に依頼をしたのはヒルデだ。私が蜥蜴亭でお茶をしていたところにやって来て、「名案を思い付いたぞ!」とか言って私に依頼してきたのだ。どうやらギルドのメンバーがPKに殺されてランダムドロップ――PKされると持ち物、装備からランダムでアイテムがドロップする機能だ――で奪われた装備が結構いいものだったらしい。

それならそれで、奪い返しに行けばいいとは思った。一度殺されて反撃で殺し返すなら復讐システムによってレッドプレイヤーになるのは防げるからだ。奪われた装備だって復讐システムにより一発で取り返せる。

 だが、その彼。どうもプレイヤー戦が苦手らしい。そこでヒルデが手練れのプレイヤーキラーの知り合いをということで、私を抜擢してくれたらしい。

 手練れのプレイヤーキラー。良い響きだ。

 復讐システムにはクエストとして依頼に出す機能もある。依頼に出すと、彼はもうそいつを殺せなくなる。つまりは殺された人間の復讐の権利を他人に渡す機能も復讐システムに備わっているのだ。


「こんなシステムがあったなんて知らなかったよ。よく今まで無事でいられたな私」


 確かに何度か復讐されかけたことはあるが、何とか全て返り討ちにしている。最近は、私と会ったのが運のツキということなのか復讐されることも減って来た。ここいらで私からPKを探し出す側に回るのもいいかもしれない。最近は、森を徘徊してても逃げられるし。

 ほぼ道なんか存在しない場所をたまに滑りながらも進んでいく。

 最近、ズボンをショートパンツに変えたので、結構滑ると痛い。擦り剝けたりはしないのが、アバターのいいところだが、しかしごつごつとした岩に膝やら腿やらをダイレクトに擦るのは中々精神的に参るものがある。

 それに合わせてこの見通しの悪さ、どこに敵が潜んでいるか分からない状態。なるほど、これは確かにそこそこPK慣れしていないとダメかもしれない。

 卵の様な岩が大量に連なっている所を何とか抜け、ようやく道らしきところに来れた。道というか、無理やり空けたような感じだ。岩の断面が何かに斬られたようになっている。ゲームシステムが修復しない辺り、ここは元からそういう場所らしい。

 どこか君の悪さを感じつつ、私はその作られた道を通る。

 すると、突然地面が消えたかのように思えた。

 

「おお?!」


 ずざーと音を立てながら私は滑り落ちる。

 どうやらこの地面は斜面になっていた様だ。周囲の岩に気を取られ過ぎていた。ただでさえ滑る岩肌が斜面になっているのだから、何をしても止まらない。短剣を突き刺そうにも岩は貫けない。

 これはマズイ。多分、敵はこういう心理的な隙を突いてくるだろうからだ。

 攻撃に備える。意識はクールに。何が起きても取り乱さないことがプレイヤーとの戦いでは重要となるのだから。


「ってちょ、ヤバいヤバいこれヤバい?! 止まらないんだけどぉ?!」


 この道はどこまで落ちるのか。

 何てキメた感じに考えていても仕方ない。とはいえこのまま落下死なんて洒落にならない。

 それにクールにならなければ。

 落ち着いて、周囲をよく見る。斜面には所々岩が隆起している。当たったら痛そうだが、幸か不幸か、私の滑るコースに岩は無い。

 でも岩があるのなら、何とかなる。私が【ジエンマ廃坑街】で学んだ各種生産スキル。鍛冶、道具作成を使ったロープ付き投げナイフ。それを使う時だ。

 

「いっけぇ! ほりゃああああ!!」


 映画を見て勉強したロープ技術で、ナイフの付いたロープは岩肌に巻き付いた。ナイフがロープがほどけないように固定してくれている為、力を入れても問題は無い。


「……ふぅ、助かった……」


 ロープに右手首を吊られる形で、私はどうにか滑り落ちるのを止められたが、ここからどうしよう。結構落ちて来てしまっているし、ロープを使って一つ一つ、上っていくしかない。ここまで落ちても襲われないのだから、きっとプレイヤーキラーも上の方にいるのだろう。どこかで追い越してしまったか。


「はぁ……これは追加報酬貰わなきゃだね。洞窟がこんな作りになっているなら、教えてほしかったよ」


 ミシッという音が聞こえた。まさか私のショートパンツの音か?! と思い、左手でショートパンツを整える。どうやら違うみたいだ。となるとあの音はどこから鳴ったのだろうか。

 考えるまでもないね。

 私が頼りにしている隆起している岩からだ。


「あぁ……」


 全く最高だ。

 プレイヤー相手ではなく、まさかフィールドに翻弄されるとは。

 岩の割れてゆく音と共に、ひび割れがどんどん激しくなっていく。ちょうど私のロープがあの岩にトドメを刺したようだ。岩が完全に割れる。

 私の体はまた滑り落ちていく。


「バカなァァァァァァ!!!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ