表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/70

第16話 ノエルとフェルマータ

 【ジエンマ廃坑街】は、いくつかの区画で分けられている。廃坑を元に作られた街だけあって、狭い上に通路でつながっているところが、【廃墟都市ルミナリエ】との大きな違いだ。鉱山と繋がる部分もあり、より良い鉱石を入手しやすいことから鍛冶屋さん的にも嬉しい場所みたいだ。

 廃坑の外は火山灰が降り積もる危険地帯となっている。とはいえゲーム的にはそんな危険地帯を歩く必要もなく【ランダル平原】まで帰れるのだけれど。

 設置途中の線路や黒い石が山盛りになっているトロッコを横目に私はフェルマータと一緒に歩いていた。疲れたから酒場で休んでいたら、ディランとか言う人に話しかけられ、そこからなんやかんやあってフェルマータにパーティを組もうと言われて断らずに今に至っている。

 つい一時間くらい前のヒルデとの共闘と言い、今日は人と関わり過ぎている気がする。ここまで関わっているのだからフレンドを作らなくても伊織に怒られなさそうだ。

 でもフェルマータは何で私なんかに声をかけたのだろうか。彼女くらい凄いプレイヤーなら私なんか眼中にないはずなのに。

 

「……」

「ふふふふ、楽しいわね。私こうして友達と一緒に歩くのとか憧れてたのよ」

「は、はぁ……」


 まだ知り合って10分も経っていない相手から友達と言われる恐怖。コミュ力ゼロの私には耐えがたい拷問だ。しかもフェルマータはそれを理解してやっている節もある。やめてくれ、とか言うと多分もっとくっ付いて来るだろう。

 助けてくれ、伊織。


「むぅ……」


 しかもフェルマータはこっちを見て、頬を膨らませているし。

 何だ。私が何をしたと言うんだ。いや多分何もしていないのが問題なのだろうけど。


「もう! 私ばっかり楽しんでるじゃない! これじゃあ友達とは呼べないわ」

「……えと、ご……ごめんなさい」

「謝らないの!」


 追い詰められて涙目になる私。

 この人は一体、私の何を求めているんだ。とはいえ、こちらからも言い分というものはある。何せ、状況が全く理解できないのだから。少しは説明してくれてもいいだろう。と言わねば。


「あ、あの……何で私を、パーティに誘ってくれたんですか?」

「それは単純よ。私はあなたと遊びたかったからに決まってるじゃない」


 確かに単純だが、そうじゃない。もう一歩何でを踏み込んでほしい。


「全く。プレイヤーを殺す時の勢いをもっと普段も使えばいいのに」

「え?」

「別にそんなに意外でもないでしょ。今のあなたに価値があるとしたら、あの完成されたPKくらいじゃない」

「……」


 これはきっとかなりの暴言だ。しかし私はこの言葉に喜びを感じてしまっていた。篠宮綾香に価値は無いのは自分でも分かっている。しかしノエルには、こんな凄いプレイヤーから見ても価値がある。それが分かっただけで、私の心は幸福に満たされてしまうのだ。


「えっと……ありがとうございます」


 私は自然と頭を下げていた。


「私、それなりに酷いことを言った自覚があったのだけど、大丈夫? 頭でも打った?」

「いえ、あなたの言葉は十分に褒め言葉ですよ。だからありがとうございます。ああ、お礼ついでに。さっきの決闘素晴らしかったです。特に最後の一撃が。あの速さを正確に捉える技量は並大抵の努力で身に着くものではないと思いました」

「へぇ。やっぱり見る目あったのねノエル。本当、殺したくなるくらい好きだわ」


 フェルマータはまるで熟れた果実を見るかのように舌なめずりしながら、悪魔の微笑を浮かべていた。本当に綺麗だ。額縁に飾りたいくらいに綺麗なアバターだった。


「……」


 まあそうなんだろうなと思った。私に用があるプレイヤーがまともなプレイヤーではないことくらい、最初から分かっていた。フェルマータとやりあうイメージはまだ浮かばない。それは信じられないとか勝てる訳が無いとかでなく、まだ彼女の底を見ていないことに起因する。


「まあ別に今日は殺し合うとかそういうつもりは無いわ。それにあなたと本気でやるならもっとムードを大事にしたいじゃない。初めてだもの、ここまで心から殺したい相手と戦うのは」


 戦いの日取りの相談のはずなのに、何だか初夜を迎える男女の会話の様なニュアンスすら混じっている。フェルマータにとってはどちらも同じことなのかもしれない。

 理解が出来ない。してはいけない。それが私の中でのフェルマータ評だ。

 そして本当に理解が出来ない。さっきまでの悪魔はどこに行ってしまわれたのか。


「見て見てノエル! あの焼き鳥空を飛んでるわ!」

「いやまあ鳥なんだし空くらい飛ぶ……え?」


 出店で売られていた羽の生えた焼き鳥に一喜一憂していたり、焼き鳥に逃げられた私を見て腹抱えて笑っていたり、こうして見ていると普通の人だ。私なんかとは不釣り合いなほどに。

 でもさっきの殺しという言葉にただのPK以上の意味合いを持たせていたように見える彼女も同じ彼女だ。本当に理解が出来ない。

 そして私はこの理解の出来ない人と、誘われるがままにフレンドになってしまったのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ