第13話 今後について
【無垢なる王の墓】の攻略後、私はヒルデと別れた。彼女はルミナリエにいるギルドメンバーの元の所へ向かうそうだ。最初から私を追ってここまで来たのだろうな、と思ったが別れてから彼女は周囲に怯えながらへっぴり腰歩いていた。たまに悲鳴も聞こえたり。
怖がりなのは本当に素らしい。
そして私が入手したコーディリアリング、私達が倒したあのボスの情報は全て私の名前を出して流してくれるとか。【黒兎】の情報などPKの罠だと思われるのが関の山だが、【となりの騎士団】が情報を元に攻略をしたという後ろ盾があれば信用もされるだろう。
ヒルデ曰く、
「ノエルにフレンドがいないのは、謎のプレイヤーキラーだからだ。レッドプレイヤーにだってグリーンのフレンドがいる人は多い。そしてそういうレッドは狙う相手が分かりやすいからまだ信用されるんだ」
とか。確かに。PKをする時に相手を選んだ記憶は無い。文面にすると今すぐ精神科にでも行った方がいい文章になってしまうが、今まで私は通りがかったプレイヤーが強そうだろうが、弱そうだろうが、とりあえず見かけたら殺しに行っていた。
「あのダンジョンの情報が広まれば私の信用もちょっとは回復ってところかな。これでフレンドが作れれば……ってヒルデに頼むの忘れてた」
まあまた会った時にでも、頼めばいいか。そういうことにして私は歩き始めた。目的地は【ジエンマ廃坑街】。大斧と大砲を解体する為ではなくなったが、【鍛冶】スキルは取っておきたい理由は残っている。
「へぇ、川とかあるんだ。あ! 魚泳いでる……」
そういえば【釣り】もスキルにあった。釣りなんて現実でやった経験が無いのだが、やれるのだろうか。このゲーム、バトルといい各種生産スキルといい現実のスキルを求められるケースが多すぎる。その人の人生の豊富さがゲームに表れているようだった。
「伊織は、すぐに順応しそうだよね……」
確かアウトドア趣味もあったはずだ。各種オタク知識も備えているのにアウトドア好き。最近はそういう人も増えているらしい。このゲームで何をしたいのか、それは明確にした方がいいのかもしれないと思い始めてすらいる。伊織と遊ぶ為でもあるし、私の対人の弱さを治す為でもある、それはそれとして何をしたいのか。この先、やっていくには必要な思考だ。
家族からも私の対人スキルの無さや、趣味の無さに関して苦言を呈されたことはあるので、あまりやめるという選択肢は無い。
「いっそ料理マスターでも目指してみるかー」
素材はバトルで十分集まるし、料理にはバフ効果があって良い料理にはやはり良いバフが付く。現実では兄に技量で大きく劣る私だが、この世界でくらい夢見たっていいんじゃなかろうか。
私は傍を流れる川を再度見た。
水はとても澄んでいて、下が見えるほどに綺麗だ。魚もいっぱい泳いでいるし、普通に入って遊んでも気持ちがいいだろう。水面には仮初の星々が反射していて、まるで天の川のようにランダル平原に延びている。
そしてそんな川のすぐ近くに、一人のプレイヤーがいた。そいつは一言で言うならモヒカン頭だった。クラリエさんの紹介をしてくれたあの親切なモヒカンとは違う。あれは赤髪だったが、今いるモヒカンは紫髪だ。
モヒカン。流行っているのだろうか。しかし天の川の様な綺麗な風景に何と邪魔な。色々な意味で殺さなければならない気がしてきた。
そいつはこちらを見ていて、しかもレッドプレイヤーだ。武器も構えている。つまり御託は良いからさっさとかかってこいということだろう。
「だったら、面白いもの見せてやる……」
私は腰の裏に差している短剣を抜くと、モヒカン頭目掛けて走り出した。道は少し斜面になっていて、私の速度は流れるように速くなっていく。そして私の視界がモヒカン頭の全身を細かく判別可能な所まで近付いた時、地面を蹴る足の勢いを少し強くした。
「俺は、【東京モヒカン同盟】。第三特攻隊の……ぎゃあああああ!!!!」
相手が名乗る前に決着が着いた。それもそのはず。相手は私の武器が短剣と思っていたから、名乗っていたのだ。接近しなければ私は戦えないと踏んで。そいつの武器は例の如く大斧だったが、そこはどうでもいい。
私は加速を速めたタイミングで、武器セットを短剣から大砲へと変えた。私の武器はストレージ操作を介さずに大砲に変わり、そして相手がそれに気付き動揺するまでもなく、消し炭にしたと言うわけである。
こういう不意打ちもありらしい。コーディリアリングの情報が公になると使えなくなる手だが、それまではこれで稼がせてもらおう。
しかし……
「【東京モヒカン同盟】……。まさかそんなギルドがあるのか……この世界に」
世界は広いな、私はつくづくそう思った。が、世界の広さを私程度が体感できるということは、やはり世界は狭い気がしてきた。




