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第11話 無垢なる王-Encount-

ボス戦いよいよ始まる的な空気出しておいて申し訳ございません。

本格的なバトルは次回からになります!!m(__)m

 【無垢なる王の墓所】に踏み込んだ私達は、たった二人でダンジョンボスに挑むことにした。それがどれだけ無謀なのかは私以上に、ヒルデが知っているはずだろう。彼女だって勝つつもりで戦う訳ではあるまい。あくまで情報収集だ。私と違い、ギルドにいる彼女なら得た情報は武器になる。

 私はいずれ伊織がエンジェルダストを始めた時に土産話にするくらいでしかない。


「二人だからな。HPを2割でも減らせれば上出来だ。気負わずに行こう」

「はい!」


 エンジェルダストのモンスターはボスも含めてタイムラインというのがある。それはこの攻撃の後にはこうしてくるだとかそういうもので、タイムラインさえ見切ってしまえばモンスターの攻撃は食らわない。その分、一撃一撃が致命傷になるのがエンジェルダストの怖いところだ。

 ボスモンスターにもタイムラインはあるが、雑魚モンスターとの違いはタイムラインを見切ったところでようやく戦闘開始となるところだ。ボスのタイムラインは様々な要因で変動する。HPが5割切っただとか特定の状態異常になったとかで。それらの情報を統合してようやく戦える。

 色々な要因を合わせてみても、二人では到底倒せないのは明白だ。


「……ヒルデさん。あのボスは剣で攻撃してくるんでしょうか」

「恐らくな。ここに来るまでに見た壁画では、王の武器は剣だったと記憶している」

「壁画見てたんですか……」


 私は最初くらいしか見ていなかったというのに。ヒルデは奥地に来るまで戦闘をしながらも壁の絵に注意を向けていた訳だ。


「プレイヤーとしての実力差を思い知らされるな……」


 今後はもっと周囲に目を向けることも覚えた方が良さそうだ。思えば、ここに来るまでに何度か空けた宝箱も全部ヒルデが見つけていた。


「この世界の騎士物語……さぞかし面白いのだろうな……」

「あの、もしもーし」


 どうやらゲームの攻略というより趣味で見ていたようだ。目をキラキラと輝かせておられる……。

 忘れていた。【となりの騎士団】は騎士文化を愛する人間の集まりなのだと。私が見ているとヒルデは視線に気付き、夢見る女の子の顔から騎士の顔に変わった。


「あ?! そ、そうだったな……。失礼した」

「別にいいんですよー。結構可愛げのある人なんだなって思いましたし」

「か、可愛げ……。べべ別に私はそんなつもりは」

「そういう反応が可愛いって言うんですよ」

「だからぁ! 私に可愛いって言うなぁ!!」


 顔を真っ赤にしてヒルデは怒鳴った。不思議だ。いつもは人に大声出されると怖いだけなのに。何だか楽しいのだから。人付き合いというものをまともにしてこなかっただけに、色々と新鮮だ。


「全く。ノエルは人をおちょくるのが好きなタイプだったんだな。意外だったぞ」

「そうなん……ですか? いや自覚は無いんですけど。ていうかそもそもここまで誰かと話せたことなんて今まで無いんですが」

「自覚してくれ。君は君が思う以上に、話せるしサディストだ」


 まさか私がサディストだったとは。後で、伊織にも聞いてみよう。伊織がそう言うなら本当に私はサディストということになる。人が怖いからこその攻撃反応的なヤツなんだろうか。分からない。自分の心は深海みたいに深くて理解が出来ない。


「とまあお喋りはこの辺にして」


 ヒルデが先に進む。階段を下りて小さな通路を通り抜けると、そこは円形のドームの様な場所だった。中央には巨大な鎧の人型モンスター。名前は【キングレイア】。膝を付いている体勢でも私より大きい。傍らには巨大な鉄の剣。元は綺麗な剣であったのだろう装飾が付いているが、体を覆う鎧共々錆びてボロボロ。刀身もノコギリの刃のようだ。


「墓ってことは、あれは墓の自動防御システムみたいなものなんですかね」

「さあな。私は名前の通り無垢なる王の無念が形を持って動き出したみたいに認識していたが」

「それ幽霊じゃないですか。大丈夫なんです?」

「……」


 騎士の話だったから意識から置いていたのか、彼女は自分の話していた内容が怪談話に近いことになっていたことに気付いていなかった様だ。改めて考え直して顔を青ざめていた。

 だがしかしこれは怪談というよりはロマンに近いのは確かではある。設定上、私達は天使の塵から生まれた人間ということになっている。それと一度滅ぶ前の世界の人間の王が戦うというのは、世界観的にどういうことなのだろうか。


「よし、ここから一歩入れば、ボス戦だ」

「セオリーとかってあるんですか?」

「君は私とは別方向から攻めてくれ。決して私の傍には近寄るな」

「なるほど。ヒルデさん狙いの範囲攻撃に巻き込まれるからってことですよね」

「そういうことだ。範囲攻撃の時には地面が赤くなるからそこから離れるようにしてくれ。いざと言う時は私が指示を出す」

「了解!」

「今回は回復役ヒーラー不在だ。私が君のHPも管理するから、君は気にせず攻めてくれ」

「ありがとうございます。えっと、私の持ってる回復薬も渡しておきますか?」

「そこは気にしないでくれていい。今回持って来たのはギルドの持ち物じゃなくて私個人の物だからだ。貴重な物も置いて来ている」

「デスペナルティ対策か……そういえば考えてなかったな」


 別に無くなって困るものは持ち合わせていない。プレイヤーキラーなのでよく復讐にも合うし、今着ている黒兎コスだって三代目だ。店売りの普通の装備というのもあってそこまで貴重ではない。この装備自体も黒兎の証、ある種の復讐対象と広まってしまったせいで、今は私以外に着ないけど。顔がある程度割れていると言っても一部の話。しかも黒兎コスはどちらかというと女の子向けなので、黒兎コスの女プレイヤーとなれば、私と勘違いした人に襲われるのも仕方がないだろう。

 なんにせよ、特にデスペナルティの対策をしたことがない私にとっては、こういう話自体が初めてのことだった。

 

「そういうことなら、今から戻ってギルドの応援を待つのもありか……」

「いや行きましょう」


 ギルドの応援。しかもボス戦だ。たくさん来るだろうなというのが簡単に想像できる。強制ログアウトは免れないだろう。


「しかし……死んでしまったら君の持ち物が」

「いいえ行きましょう」

「そ、そうか……確かにこんな所に長居していたら私の気がおかしくなってしまいそうだからな。気を遣ってわせてすまない」


 ……私の我儘に突き合わせてしまっている感があったが、まあ彼女がそれで納得できるのなら……それでいいや。

 ヒルデが先にボスとの戦闘フィールドへ入る。するとヒルデと私の間に青い光の線が通った。線はそのまま弧を描き続けて一周する。青い光の線の中の中央にはボスが。つまり戦闘フィールドが可視化された訳だ。

 私も続けて中に入る。

 

「……私が奴のヘイトを取ったら合図するから、背後に回ってくれ。くれぐれも合図するまでは攻撃しないように」

「合点!」

「……ノエルも何かロールプレイを始めたのか……?」


 そうは言われても短剣は抜いておく。不意の飛び道具が飛んで来ても、適当に振り回せばどうにかなるかもだし。何より、敵意を向けられている状況で無手でいることのプレッシャーに私は耐えられない。

 キングレイアは、のそりと立ち上がる。奴の体が動くごとに錆びた鎧の接合部がぶつかりあい、嫌な金属音が鳴る。巨大な鉄の剣を片手で悠々と持ち上げたその巨体は、教室の屋上ぐらいの高さがあった。横にも大きく、まるで目の前にトラックがいるかのような感じだ。

 ボスだけあって、段違いの迫力。

 ソロだったら相対しただけで諦めていたであろう。今も勝てるとは思わないが、それでも勝負にはなるんじゃないかくらいの予感はある。

 そしてボスが完全に立ち上がると、奴の頭の横に緑色のHPバーが現れた。このゲームはPKも可能なので、モンスター、プレイヤー問わずこのHPバーが可視化されている。グリーンなのかレッドなのかもここで判別が出来る。このHPバーは通常一本だけだ。実際の数値は不明だが。しかしボスのHPバーは6本もある。この6本のHPバーを消し飛ばさなければ、こいつを倒せないという訳だ。

 緊張する。これがリアルの肉体なら今頃、汗だくだろう。

 ボスが動き出す。それに反応してヒルデも動き出す。

 そして、私の初めてのボス戦が始まる。

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