Ep.8
short wArmth
ちょうど日付を超えた頃だった。
突然電話が掛かってきた。
電話なんて普段誰ともしないし電話番号を知ってる人なんて限られている。
緊急かと思い急いでスマホを手に取る。
掛けてきた相手はドクターくん。
またこれは珍しい。
「もしもし」
「ああ、やっと出た」
「何よ割と早めに出たつもりだけど」
出るなり嫌味を言われる。
この男はほんとにこういう所まで変わらない。
「そんな事言ってる場合じゃないんだよね、ジャックが焦って出てったけどなんかセンセイのとこ向かうみたいだったから」
「は、今から??メール来てないけど」
「俺もよく分かんないの、今作戦終わって帰ってきたとこなんだから」
ドクターくんまで駆り出されるとはそんな大きい作戦だったのか。
怪我ならこの男に任せるだろうしジャックくんが焦って来るような用件なんてあるのか。
疑問がたくさん出てくるがドクターくんを含む組織の人間に頼らないあたりムックの事だったりするんじゃないか、と思いついた。
思いついた途端、嫌な予感がして冷や汗が出てくる。
どうかこの予感よ外れろ。
「とりあえず、センセイ伝えないとドア開けないでしょ、俺は伝えたからね」
「…うん」
「何か知らないけどセンセイが出来る事尽くしてよね、ジャックを頼んだよ」
この男はどこまで見えたんだろうか。
電話の向こうが見えるのか。
でもいい、今はその言葉通りにするしかない。
ジャックくんが来るまで願うだけ。
「教えてくれてありがとう、切るね」
「はいはい、またね」
電話が切れた後、静かな部屋にしゃがみ込んで祈ってみた。
神様に見放された私じゃ意味無いかもしれないけど。
どれほどしゃがんでいたんだろう。
インターフォンが鳴る音で気がついた。
モニターすら見ずにドアのロックを外す。
「先生っ!!どうしよう!!」
初めてムックを連れてきた時より何倍も焦っているジャックくん。
その腕にはぐったりしたムックがいた。
ああ、嫌な予感が当たってしまった。
やっぱり私は神様に見放されている。
どうして??つい数時間前で元気だったのに。
怪我だって悪化してなかった。
「ねえ先生!!何か出来ないの!?」
もう何も出来ない。
言葉を必死に探すけど、生と向き合ってこなかった自分には見つけられなかった。
「…まだ、生きてたんださっきまで」
「うん」
「まだ、温もりだってあるし」
「うん」
「なのにさ、何でなんだよ」
答えられない。
ジャックくんの涙が私をナイフのように突き刺していく。
「どうして、たくさん人を殺した俺が生きてんのに」
「どうして必死に生きてるムックがさ、」
どうして。
いつもなら答えを返してあげられるのに。
「…ごめん、先生」
「君は、悪くない」
「…座ってもいい??」
「ああ、リビングに行こうか」
夕方と同じようにソファに座る。
違うのはムックだけ。
どうしてなんだろうな。
「…コーラ飲みたい」
「今、入れるよ」
静かな部屋にコーラを注ぐ音だけが響いた。