Ep.6
lAte-night work
「…終わった??」
私が縫う手を止めたと同時にジャックくんが声を上げた。
「うん、これで大丈夫ではあると思う、あんまり動いちゃいけないけど」
子犬は痛そうに呻いていたが暫くすれば痛みも止まるだろう。
私の後ろから見ていたジャックくんは解剖台に駆け寄って子犬を潤んだ目で見つめた。
「お前よく頑張ったな~偉いぞ~!!」
「うん、随分賢い子みたいだね」
「先生ほんとありがとう!!」
ありがとう。
感謝したり、礼を言ったりするときに用いる言葉。
この仕事をしていて感謝されたのは初めてな気がした。
こんな仕事でも役に立つ事があった。
「…ううん、こちらこそありがとう」
「俺なんか感謝されることしたっけ…??」
「それより子犬くんどうするの」
「あっ!!そうだった!!」
彼は大事そうに子犬を抱えてこちらに向き直った。
「俺が飼う!!」
「ふー…ん!?え、組織的に大丈夫なの!?」
「ボスの許可さえ取れば大丈夫っしょ」
ボス…彼らのトップ。
あの人は飄々としているのにじっくり観察するような目付きで見てくるから苦手だ。
あの人は許可を出すのだろうか。
ルークがいたら恐らくジャックくんは怒られているはずなのだが。
「ボス、狗は大好きだからね!!」
「嗚呼そう…ならいいけど」
「ね、たまにここに連れてきていい??」
犬が好きなのは知らなかった。
あの人と世間話はした事もないし当然だが。
ジャックくんから抱えられた子犬に目線を移す。
痛みはマシになってきたのか少し眠そうだ。
「構わないけど、メールはしてね」
「やったあ!!」
「はいはい、はしゃがない」
こんな事で喜べるとは本当に裏社会の人間かと疑うくらいに純粋みたいだ。
彼が顔が広く皆に好かれるのはこういう所が理由だろう。
「名前どーすっかな~」
「決めてなかったの??」
「焦って治してくれる人探してたからね」
確かにインターフォン越しに見た時も説明する時も焦っているのがとても伝わってきていた。
決める暇がないのも納得出来る。
「ちゃんと君が付けてあげなよ」
「…ムック、とか??」
「どうして??」
「いや、ジャックとお揃いにしたくて」
なんとも可愛らしい理由だ。
ここが解剖室でなければどれほど癒されただろう。
兎にも角にも名前は決まったし子犬の傷口も塞ぐ事には成功したから一件落着だろう。
「本当に先生ありがとう!!今日はさすがに迷惑かけたしさっさと帰るよ」
「そこまで気にしてないけどまあ夜も遅いからね、気をつけて帰るんだよ」
「じゃあまた来るね~」
大きく左手を振り右手には大事そうに子犬が入ったダンボールを抱えて帰っていった。
「…機嫌良いし仕事するか!!」
虚しい。