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僕が君を愛すから  作者: T
2/3

目覚め

「ラン!!」


 全力で腕を伸ばす。彼女を離してはいけない、そう思ったから全力で。そして腕は確かに彼女を掴んだ。彼女の小さな胸を・・・。


 ______



「アオトの変態!!せっかく起こしに来てあげたのに!!寝ぼけて胸を掴むなんて信じらんない!!」


「そうだぞアオト、いくらランちゃんが好きだからっていきなり胸はダメだ。いいか、最初は腰から触っていくんだ。そしてだんだん手を上にあげていって・・・」


「ちょっと父さん!!変なこと言わないでよ!!だいたいあれは事故で・・・」


「事故だったからって、乙女の心を傷つけた罪は重いわよ!!」


「いいねぇ若いってのは見てるこっちまで元気になれる。お!もう七時半か。ほら、二人共早く行かなきゃ遅刻するぞ」


「本当だ!!アオト!!行こ!!」


「わかってるよ。朝からうるさいな。」


 二人で家を飛び出し学校への道を歩く。この村は田舎なのであたりは民家と畑しか見えない。ここら一体の領主様が住むゴルド街なら市場やギルドなどもあるのだろうけどこの村にはそんなものない。


「今日は待ちに待った花調べの日よ!!アオトは何の花がいい?」


「うーん僕はタンポポとかスミレがいいな。ちっちゃい花好きだし。」


「タンポポ?・・・アオトって意外と肉食系なのね!?」


「え?なんで?」


「・・・たぶん今日学校で習うわよ。」


 気まずい空気のまま学校につきあっという間に午前の授業が終わる。そしてランが楽しみにしていた花調べの授業が午後の始まりのチャイムと同時に始まる。


「えー本日より君たちの花の授業の教師となったカズラ・サオトメです。よろしくお願いします。」


 大人しそうな男の先生が丁寧に挨拶する。どこかで聞いたことがあるような低い声に少し違和感を持ちながらも授業に耳を傾ける。


「まず、花の授業の基本として、みなさんはなぜ人類がこの広い地球の上で生物たちの生存争いに勝つことができたか知っていますか?」


 先生の質問に皆当然だと言わんばかりの顔をする。だが、この教室の中で、一人だけピンとこず、困り顔をしている生徒がいる。そう、僕だ。昔から数学や理科は得意だったが歴史や国語などの勉強がまったくとっていいほどにできない。なので五教科の成績は常に中の下。歴史的な歴史嫌いとまで言われたこともあった。そんな僕には子供でも分かる簡単な歴史さえわからない。


「はーい!!先生!!わたしわかります!!」


「では、えーと・・・ランさんどうぞ。」


「はい!!」


 僕と逆で歴史と国語だけは得意なランは堂々と手を挙げ、簡単だと顔で言いながら答える。


「遥か昔の地球上で、最も弱かった人類は植物という強力で神聖な生命体と共存することで強い魔物たちから身を守ってきました!そして、植物の中でも特異な力を持った『花』と契約を結ぶことでより人類は高度な進化をすることができました!!で、私達は今から自分がどの花と契約を結べるのかを調べるんですよね!!ね!!」


「・・・はい。そうです。よく出来ました。」


 ランのあまりの勢いに少し先生が引いている。クラスメイトはみんな慣れているが、今日が初日の先生にはきついようだ。


「・・・今、ランさんが言ったように皆さんには今から自分に適した花が何かを調べてもらいます。まず、黒板を見てください。」


 先生は黒板にカッカッカッとチョークを走らせ、恐ろしい程綺麗な文字と何かの枝を描く。そしてゴソゴソと持ってきていた自分のカバンをあさり黒板の枝と同じものを取り出した。


「えー皆さんには今からこの神木の枝というものを握ってもらいます。この枝は神木という王都の中心にある特別な木の枝で、人の魂の本質を見抜くことができます。なので強く握ることで皆さんがどの花と契約を結ぶことができるのかを知ることができます。」


 先生はそう言ったあとポイッとそれを一番前の席の子に投げ渡す。


「さぁ、握って見てください。」


 言われた通りにその子は枝をギュッと握る。するとポンポンポン、と音が鳴り枝の先に三つの花が咲く。百合、薔薇、タンポポ、とどれも別の花だ。どうやら、どの花と契約を結ぶかはある程度は自分の意思で選べるらしい。先生は授業を続ける。


「えーこのように自分が契約できる花の候補がいくつかでてくる。ただ、花ごとの能力はこれから授業で教えていくのでまだ契約せず、授業をしっかり聞いてから契約しろ。」


「先生~花の能力って例えばどんなのがあるんですか~?」


 生意気そうな奴が言う。正直後から聞くのだから今聞かなくても・・・と思ったが僕にそれを言うほどのコミュ力は無い。先生は少し悩んだ後、黒板にタンポポの絵と人とライオンが混ざったような絵を黒板に描いた。なんだこれ、と皆不思議そうな顔をしたがそれはこのあとの説明で直ぐに驚きと笑顔に変わった。同時にさっき何故ランが僕に「意外と肉食系なのね!?」と言ったのかも知る事になる。


「タンポポの能力はライオンの牙と言って、その名の通り犬歯と四肢が発達しライオンのような四足歩行の戦闘に特化した姿になることができるようになる能力です。先生も一度あったことがありますが、まるで、本物のライオンのように恐ろしかったです。」


 みんなが「おお!」と歓声を上げ、その中の元気のいいやつが手を挙げる。そして当てられていないのに先生に質問を飛ばす。


「先生!!それってつまり僕達もそれぐらいすごい能力が使えるようになるってことですか!?」


「はい、そうです。全員がタンポポというわけではありませんがどの花も個性的で素晴らしい能力を持っています。そして、皆さんにはそれを使いこなす可能性が眠っています。」


 ・・・そこからの教室の騒がしさは本当にすごかった。皆が一斉に騒ぎ出し「私、どんな能力かな!すっごい楽しみ!」とか「やべー遂に俺様の才能が開花しちまうぜ!!」とか、様々な声が教室に響く。そして神木の枝は席順でだんだんと回ってゆき自分の花の能力を聞いて一喜一憂する声で教室は騒がしかった。そして大半の生徒たちが枝を握り終わり遂に僕の番がやってきた。


「ラン、なんか僕緊張してきちゃった。」


「大丈夫よアオトならきっとすごい能力持った花と契約できるから!!」


「そうかな?」


 隣のランは自分の番が待ち遠しいのか僕のことを、早く!早く!と急かすように僕を見つめてくる。ゆっくりと大きく深呼吸をし、覚悟を決めて僕は、ギュッと力強く枝を握る。クラスの視線も僕に集まり、一体どんな花が咲くのか皆ワクワクしている。ドキドキ、ドキドキと心臓が跳ねる。僕は目を枝の先に集中させ期待を最高潮まで膨らませた。


 だが、僕が握った枝に、花が咲くことはけしてなかった。










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