始まりはここから
「…め…………た……あ」
何だ?誰か俺を呼んでいるのか?しかし、その声はかすかに聞こえる程度でなんて言っているのか分からない。
「あ……き…………て……」
「…ぃさま」
「う…ん…」
「お兄さま!!」
「はっ」
俺は目を覚ますとそのままがばっと起き上がった。
「お兄さま、やっと起きましたわね。お寝坊さんです事」
目の前には金髪の美少女が拗ねたような顔でこちらを見つめている。
「えっと…僕は一体」
「まだ寝ぼけてますの?まさかご自分の名前を忘れた〜なんて言わないでくださいね!」
名前…。
「フォレスト…、フォレスト=フラグメント」
「正解、よく出来ました♪、ではこの可愛くて可憐な美少女は一体誰でしょうか?」
自分で言うか?だけど俺は彼女を知っている。
「アリスだろ?」
「ピンポン、ピンポン♪正解したご褒美にいい事を教えてあげます。もうすぐ朝食のご用意が出来ますので早く顔を洗って降りてきてください、その寝癖」
アリスは僕の方をビシッと指さした。
「そのまま降りてこないで下さいませ、使用人に笑われてしまいますよ?」
「分かったよ。すぐに行く」
「お待ちしておりますわ」
そう言い残すと、アリスは部屋を出ていった。俺はベットから立ち上がろうとする。不意に強烈な頭痛が襲ってきた。
「痛っっ…」
しかし、それはすぐに収まると痛みも消えた。
「ったく、朝からテンション下がるな」
俺は顔を洗うと寝癖を治し1階の食堂へと向かう。食堂には既に料理が陳列されておりアリスもニコニコしながら、席で俺を待っていた。
「改めて、おはようございますお兄さま♪」
「おはよう」
「さぁ、早く食べてしまいましょう。この後は大事な行事がありますのよ?」
行事?なんだったっけ…。
「まさか、忘れてたなんて言わないでくださいまし」
「そ、そんな事ないよ。えっと…」
行事…行事、行事。記憶を辿って考えてみる。
「あぁ、王家の屋敷に呼び出されてるんだったな」
「はぁ、良かった。まさかそんな大事な日を忘れたなんて言うのかと思い、アリスは心配しておりました」
「覚えてるって」
「なら、良いのですが。お兄さまならきっとこの国の英雄となって世界を平和に導きますわ」
「英雄…か」
「そして、きっとお父様とお母様の仇を討ってくださいます。アリスはそう信じております」
アリスが見つめるその先には誰も座っていない空席に料理が並べられていた。そうだ、父と母は魔族との戦いで命を落とした。それ以来俺と妹は2人きりなのだ。
「すみません、何だかしんみりしてしまいましたね」
アリスは、滲んだ涙を拭うとこちらを向きニコッと笑ってみせる。
「あ、そうでした。お兄さまにプレゼントがありますの」
アリスはぴょんと席を立つと俺の方へ近寄ってきて小さな箱を渡す。開けると中には綺麗な形のペンダントが入っていた。
「気に入ってもらえると嬉しいのですが」
箱からそれを取り出すと早速首に掛けてみる。
「ありがとうアリス、大事にするよ」
「それを私だと思って、お風呂に入る時以外は外してはダメですよ!」
「お風呂の時はダメなのか?」
「お兄さま…、さすがに私もう14になりますし、そろそろ一緒にお風呂というのは如何なものかと…でもお兄さまがどうしてもと言うなら…」
アリスは何やらモジモジして少し頬を赤らめている様子だ。
「と、とにかくありがとう」
「はい♪あ、もうそろそろお時間ですわ。支度を致しませんと」
支度を済ませ馬車に乗ると王族が住まう城のある方へと向かう。何故かアリスも同じ馬車に乗っているのは気のせいだろうか
「何でアリスも同じ馬車に乗ってるんだ」
「当たり前です、お兄さまの晴れ姿を拝みませんと」
「おいおい、まだ王族に呼び出されただけだって」
「そんなのお兄さまの日頃の勇姿を称えて、勲章の授与をして頂けるに違いませんわ!」
「そんな大袈裟な、それに俺はこの国から出たことがないんだ。まだ何の成果もあげてはいないよ」
「それは、行ってみればわかりますわ」
十分ほど揺られた後、馬車が止まった。どうやら着いたようだ。
「ここが王家の城、アダマンタイト城です」
真っ白な壁と立派な装飾、でかい建造物が目の前にあった。
「少し緊張してきたな」
「もっと胸をはって下さいませ、お兄さまはこの国1番の剣士なのですから」
「最強の剣士か…」
俺は腰にかけてある剣に手をやる。この剣は我がフラグメント家に伝わる名剣だ。お父様の形見の剣でもある。そうだ、俺はさらに強くなっていつか魔王を倒す。そう決意すると、城の中へと足を進めた。
「おぉ、よく来てくれたフォレストよ歓迎するぞ」
「はっ、今回はどういったご用件でしょうか」
「うむ、実はお主にはこの国を出て隣国であるエレメントに行ってもらいたい」
「エレメントですか?」
「うむ、お主も知っての通りわしら人と魔族は、長い間対立しておる。魔王軍率いる魔族達が今直我々を苦しめておる。そして、最近魔族の動きが活発になっておってな。エレメントでは間もなく魔王軍との戦争が始まろうとしておるのだ」
「それは、大変な事でございます」
「うむ、そこでそちに我がアダマンタイト王国の使者としてエレメントへ赴き、その加勢を頼みたいのだ」
「魔族の討伐という訳ですね?」
「そうだ、不満か?」
「いいえ我が父の仇を晴らす機会を与えて下さり、光栄で御座います。必ずしや国王の期待に答えてみせましょう」
「うむ、お主ならそう言うと思っておった!流石我が友、バレット=フラグメントの息子だ!」
「では、早速明日にでも出発するとします」
「期待しておるぞ」
まさか、こんなに早く父の仇を討つ機会が回ってくるとは。
「お兄さま!!」
「アリスか」
部屋の外で待機していたアリスがすぐに駆け寄ってきた。
「エレメントへ向かわれるのですね?」
「あぁ、ようやく俺の剣が振るえる時が来た」
「この、アリスも全力でサポートいたします」
「へ?お前も来るのか?」
「勿論です、お兄さまのサポートをするのが私の役目。こう見えて、魔法の才能はあるのですよ?」
「ははっ、そうだったな」
屋敷に帰るとベットに横になる。あの後、色々な手続きをあれやこれややっている内に既に外は暗くなっていた。
「明日は早い、もう寝るか」
「……も……………せ……」
なんだ?小さく誰かの声が聞こえた気がする。俺は起き上がると部屋を見回すが、部屋には誰もいない。
「気のせいか」
「お……………………せ…」
今度ははっきりと聞こえた。
「誰だ!!姿を表わせ!」
しかし、部屋には誰の気配もしない。
「空間感知」
俺は目を閉じると集中する。この技は極限まで五感を研ぎ澄まし、魔法などで姿を消しているものや、気配を消しているものを感知するものである。
2階にはメイドが2人…とアリス、2つ前の部屋を掃除しているのと衣服室に1人。アリスは自分の部屋に居るようだ。1回には食堂に1人、廊下を掃除しているのが1人。
俺はゆっくりと目を開ける。おかしい、やはりこの部屋には俺しかいない。気のせいか?
「気のせい…で…はない」
再び聞こえてきた声と同時に俺は素早く剣を抜く。馬鹿な俺の空間感知でも分からないやつなんて、まさか上級魔族?しかし、例え上級魔族であっても俺の空間感知を躱すことなんて出来ないはず。俺の空間感知は、ホコリが天井から地面に落ちた事すら見逃さない絶対感知だ。
「こっち…だ」
俺は、ベットの横にあった鏡に目をやった。鏡には俺の姿が写ってこちらを睨みつけている。
「お前は誰だ」
「オレ…は……オマエダ」
これは、魔法か?もしかして何か怪しい魔法をかけられている?しかし、俺の感知には魔法の発動にも対応出来るはず。なら、これは一体なんだ?
「めを……さま……せ」
「何を言っている」
「オマエは………まえではない……」
言っている意味が分からない。だがその時だった。いくつかの映像が脳裏にフラッシュバックした。
キ―――――ン
物凄い耳鳴りと映像が頭の中に流れる!
ザ―――――――
「あ……め…」
「に…………さん、………す………けて」
「痛い……よ」
「………いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
ピ―――――――
「うわぁぁぁ!!」
ガシャァァン
気が付くと俺は鏡に剣を突き立てて、床に座り込んでいた。
「ハァハァ」
頭が、割れる!俺はふいに妹から貰った首飾りを握りしめた。すると段々痛みは和らいでいった。
「お兄さま!!どうしました!?」
慌てた様子でアリスとメイドが部屋に飛び込んでくる。
「すまない、ちょっと疲れていたみたいだ。急に頭痛がして。でももう大丈夫治まったよ」
「しかし、この剣は…?」
フォレストの剣は見事に鏡に突き刺さり、粉々に粉砕していた。
「すまない、錯乱していたようだ。アリスがくれた首飾りを握りしめたら何とか痛みは消えたよ」
そう言って剣を引き抜くとさやに収めた。
「首飾り…ですか。そうですか」
「どうかしたか?」
「いえ、お役に立ったなら良かったです」
「フォレスト様、ここは片付けておきますので今日はお隣の部屋でお休み下さい」
「あぁそうさせてもらうよ」
俺は着替えるとベットに横になる。さっきのは一体何だったんだ。敵の精神攻撃か何かか?魔族が俺に先手をうってきたとか、考えてもしょうがないか。もう忘れよう。
コンコン
急に部屋のドアがなった。
「誰だ」
「アリスです」
「いいぞ」
「失礼します」
ドアが開くとそこには可愛いパジャマに着替えたアリスが枕を手にちょこんと立っていた。
「どうした?」
「いえ、先程は取り乱していたようでしたので心配で」
「もう何ともないよ」
「しかし、不安です。明日は重要な任務がありますし。ですので、今日は私が一緒に寝てあげます」
そう言うとアリスは俺の寝ているベットに潜り込んできた。
「ちょ、お前」
「お兄さまは、アリスと一緒に寝るのが嫌なのですか?」
そんな泣きそうな顔でこちらを見ないでくれ。はぁ、こういうのは断れないんだよなぁ。
「分かったよ」
「ふふっ、お兄さま暖かい」
なんかすごいいい匂いがする。女の子ってこんなにいい匂いがするのか…、待て、これは妹だ。確かに美少女だがこれは俺の妹なのだ。変な気など起こさない。
「大丈夫ですお兄さま、安心してお休み下さい。アリスが横にいますよ…」
あぁ、なんだろう物凄い眠気が襲ってくる。さっきまでの緊張が嘘のようだ。
「お休みなさい…私の………お兄さま…」