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第31話 新しい約束

「「「かんぱーい!」」」

 木のジョッキが打ち合わされ、ポコポコ楽しげに音を立てる。

 普段は整然と机が並ぶ教室だが、今夜はそのほとんどが隅の方に押しやられていた。

 残されたいくつかの机にはテーブルクロスがかけられ、軽食や飲み物の瓶が乗せられている。

「あのドラゴンさえこなけりゃ、もうちょっと良いところが借りられたんだがな」

 ジョッキのジュースを飲みほしたライルが悔し気に愚痴る。

 彼はイラズアが襲撃してきた混乱の中でも、進みかけていた商談を無理やり終わらせて目標金額の金貨2万枚をギリギリ越えさせていたのだ。

 間違いなくファインプレーと言っていいのだが、本人はもう少し時間があればもっと値を釣り上げられたと思っているらしい。

「ごめん」

 そのドラゴンが襲撃してきた切っ掛けであるユキとしては、素直に謝るしかない。

 しかし、下げた頭をジョッキで小突かれた。

「ドラゴンの事はお前が謝る事じゃねぇよ。謝るなら、今日までパーティーが遅れたことを謝れ」

「ライル、ユキを叩かないで」

「大丈夫だよ、エルヴィナ。みんな、ごめんね」

 クラスメイト達からは口々に「気にすんな」とか「大丈夫だよ」とか温かい言葉が返ってくる。

 ライルもジョッキを持ったままの手をユキの手に回してこうつぶやいた。

「でもまあ、誰もお前抜きでパーティーやろうなんて言い出さなかったけどな」

「ありがとう」

 ちょっと涙声になってしまったことを恥ずかしく思っていると、後ろから柔らかい声がかかった。

「あら、もう始めてもうたん? 酷いなぁ」

「あ、アーベル。ってええっ!!」

 驚きの声を上げたのはユキだけではなかった。

 それもそのはず。右足を失ったはずのアーベルが、普通に歩いているのだから。

「アーベル、なんで、歩いて」

「ウチの氏族はティンカーやで。欠けた剣直して、鍋の穴埋めるんが生業や。ちぎれた足も同じこと」

「竜魔術の応用で、ある程度は思ったように動かせるんすよ、この義足」

 モトリの言う通り、足元をよく見ると左足は普通の靴だが、右足は全体が金属で出来ている。その表面には、瞳孔が縦に裂けた爬虫類の目がレリーフとして刻まれていた。

「じゃあ、このレリーフは」

「本竜の許可付きやからね。これからは“竜眼の”アーベルとでも名乗らせてもらうわ」

 最後に襲撃者たちを倒したのはユキの魔法だけれど、その下準備はアーベルの指揮でクラスメイトらが竜魔術で行ってくれたわけで。

 イラズアが去り際に出した「分かったのならやって見せよ」という条件は十分以上にクリアしているはずだ。

「そう言えば、みんなが使ってた、あの追尾してた魔術も竜魔術?」

 ユキの疑問に答えて、モトリがカードを取り出す。

「カードに刻んだ構成に仕掛けがあるんすよ。通常状態だとこう」

 そう言いながら、魔力を少し通して構成を浮かび上がらせる。

 風の矢をまっすぐ打ち出すという内容だが、よく見ると当たった後にしばらくマークが残ることになっている。

「で、ココとココの間を魔法の構成と同じ要領でつなぐと」

 カードの模様の2カ所が魔力の光線でつながると、これまで光っていた構成の一部が消え、構成全体の意味が変わる。

「なるほど。まっすぐ飛ぶんじゃなく、マークを狙うように変わるんだ」

「最初の1発は当てへんとあかんから、魔法と同じ使い勝手とはいかへんけどね」

「ライルも良く作ったな」

「金属細工師は伝手がある。親父の知り合いだがな」

「じゃあ、俺のカード改造してくれよ。ちょっとアイディアがあってさ」

 皆が口々に話し始めたところで、ユキはシャツの裾を引かれて振り返る。

「どうしたの、エルヴィナ?」

「ユキ、この世界のこと、好きになった?」

 珍しく床に降り立って、上目遣いに訊くエルヴィナ。

 その青い空色の瞳をまっすぐに見つめ返し、ユキはうなずいた。

「よかった。じゃあね」

 するりと教室から去っていくエルヴィナ。

 少し違和感があったが、それが何かを考える前にティカから声がかかる。

「ここをちょっといじったら、ユキくんがやってた連射型になると思うんだけど、どう?」

「ああ、連射にするならこうやって」

 カードに魔力で構成を書き加えようとした瞬間、左足に痛みが走る。

「なにしとるねん、ユキ」

「何って」

 義足でユキの足を踏んだアーベルは、ユキが何もわかってないと気づいて大きくため息をつく。

「精霊王ってゆうんは、普通はもっと僻地に居るんよ。ヤバい魔物が生まれへん様に調整するのが仕事やもん」

 最後にもうひと踏み込みしてから、アーベルはユキの足を解放する。

「でも、エルヴィナはここに居った。ユキとの約束を守るためや。ユキ、あんたさっきなんて答えた」

 空になっていたジョッキを投げ捨て、ユキは教室を飛び出した。

 この時間、正門は既に閉められている。

 守衛は居るので一言いえば通してもらえるが、それは違う気がした。

 一番近い螺旋階段を一気に3階まで駆け上がる。

 その気になれば、空を飛べるエルヴィナはどこからだって出ていける。

 窓を一つ開けて、中庭から空に舞い上がればいい。

 でも、本当にただの直感に従ってユキは走った。

 短い期間だが、一緒に住んだ自分の部屋へ。

 

 果たして、彼女はそこにいた。

 部屋の寝室の窓を開け、その枠に足をかけ、まさに今飛び立って行こうという姿勢。

「エルヴィナ、どこに行く!」

「だって、約束、終わりだし……」

 灯りの無い寝室の中で、エルヴィナの表情は見えない。

 ユキは、少しずつ、エルヴィナを刺激しないように歩を進める。

「俺が好きになったのは、エルヴィナがいるこの世界だよ」

 走ってきたせいで高鳴る鼓動が、静まるどころかさらに激しくなる。

「だから、一緒にいてくれないと、その」

 雲が晴れたのか、月明かりが青白くエルヴィナの顔を照らし出した。

 相変わらず綺麗で、でも今は少し儚げで。

 目じりに浮かぶ涙の玉が見えて、ユキはそれ以上言えなくなってしまう。

 一呼吸の沈黙ののち、口を開いたのはエルヴィナの方だった。

「この世界の事、嫌いになっちゃう?」

「……かも」

 ちょっと違うんじゃないかと、もう一歩ちゃんと踏み込んで言うべきなんじゃないかと思いながらも、ユキはそれに同意してしまう。

 だが、優しいエルヴィナはこの答えでも許してくれた。

「じゃあ、仕方ないなぁ」

 彼女は目じりの涙を拭うと、ユキの胸に飛び込む。

「ずっと一緒にいてあげる。ずぅっとね。約束だよ!」

というわけで、これにて無事完結でございます。

最後まで読んでくださった読者の方々、未だ見つからない原案者の方に感謝します。


最初の方の展開がスムーズでないので直したい気持ちはあるものの、

別作品を書きたい気持ちもあって迷い中。

「ちゃんと直せやゴラァ」とか「さっさと新作書けや」とかご意見ありましたらお気軽にどうぞ。

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