第29話 決着! そして・・・・・・
「ユキっ!」
エルヴィナに引っ張られ、ユキの身体が宙を舞う。
その一瞬、緑の雲とすれ違った。
一呼吸にも満たない一瞬の事だったのに、目と喉に刺すような痛みが走る。
「毒!?」
あふれ出る涙を拭って、ユキは中庭を見渡した。
毒々しい緑色をしたガスが中庭全体を覆っている。
空気よりよほど重いガスなのだろう。下の方ほど濃くなっており、地面はほとんど見えない。
「味方ごとかよ、テメーら!」
ぐったりしたクラスメイトを抱え上げ、ライルが立ち上がる。
負傷して、地面に倒れていたものほど被害が大きい。その中には、ライルの罵声の通り襲撃者も含まれている。
「ロキを消すためなら、命も名もいらぬ。そう誓った仲だ」
まだ無事な襲撃者の一人が、ライルの足を払う。クラスメイトを抱えたままでは避けることもできず、ライルは体勢を崩される。
それはつまり、顔が比較的ガス濃度が高いところまで下がるということだ。
刺激に耐えきれず咳き込めば、さらにガスを吸い込んでしまう悪循環。
「ええと、毒を風で吹き飛ばす? それとも回復?」
何からすべきかを迷うエルヴィナ。しかし、ユキの腹は決まっていた。
「毒を浄化させて、回復。一度にやるから、エルヴィナはサポートを頼む」
「一度に!? どんな毒かも分からないのに!」
エルヴィナは驚きの声を上げる。だが、ユキには勝算があった。
まだ立っているガラドともう一人の襲撃者は、まるでガスの影響を受けていない。顔の周りに浄化の魔法を使っているのだ。
その構成を応用し、回復魔法も組み合わせ、構成を即興で編んでいく。
だが、その完成を襲撃者らがじっと待ってくれるわけがない。
「バラクワの矢羽根よ!」
いつの間にか校舎の屋根には新手の襲撃者らが立っていた。毒の魔法も、彼らが唱えたものに違いない。
彼らが矢継ぎ早に放つ攻撃魔法を、エルヴィナが防御魔法で防いでいく。
出来上がった構成に元素力が充填されていくのを見ながら、ユキは小さく笑った。
「どうしたの?」
「いや、何でもないよ」
ただ、最初に使った魔法とほとんど同じだったから、ちょっと懐かしく思っただけだ。
あの日、エルヴィナに教わりながらたどたどしく作った風の回復魔法の構成。
今のユキはそれを拡張した魔法も容易に編むことができる。
「ヒールウィンド!」
構成から吹き出す風が、緑のガスを打ち消しながら広がっていく。
毒から回復したライルが襲撃者に向かって剣を振る。襲撃者はバックステップで逃れるが、左腕に大きな傷が入った。
それをカバーするかのように、屋根の上に居た6人の襲撃者らも中庭に降り立つ。
「かくなる上は、てめぇら全員覚悟してもらうぜ!」
激昂するガラドに同調し、8人の襲撃者らが攻撃魔法の構成を編み始める。
しかし、それをずっと待っていた主従がいた。
「流石に、これで打ち止めやろ。モトリ」
「はーい。触手にょろにょろ三にょろにょろ~」
モトリの気の抜けるような呪文により、中庭の地面から3本の緑色の触手が生える。
以前ダンジョンで見たのは指ぐらいの太さの触手だったが、今回のは一抱えはある。
長さもそれに見合っており、複雑に折れ曲がりながら中庭外周を蹂躙していく。
よけきれなかった襲撃者の一人が、腹を打たれて吹き飛ばされる。
だが、それで終わりでは無かった。
「合わせてにょろにょろ六にょろにょろ~!」
さらなる呪文によりもう3本の触手が生え、最初の3本より少し内側の空間を埋める。
ちょうど避けたところに触手が伸びたせいで、2人の襲撃者が巻き込まれた。
広範囲への2連続魔法で流石に顔を青くしたモトリが、まだ上空にいるユキに呼びかける。
「さて、ユキさん。そこからなら見えるでしょう? 使ってください」
「使ってくださいって……」
躊躇したのは、何のことを指しているか分からなかったからではない。
一目でわかったからこそ、自分がそれをしていいのかと思ってしまったのだ。
「こんなバカでかいのに魔力を入れられるのなんて、ユキ以外にはおらへんよ」
「ユキならできるよ。あたしも手伝う」
二人の言葉に背中を押され、ユキは地上に降り立ち、触手を掴んだ。
腹の底から魔力を絞り出し、触手に伝えていく。
魔力の青い光が中庭を満たし始める。
それが何を意味しているのかに気づいたガラドが悲鳴を上げる。
「ちょ、ちょっとまて。これ全部が構成だってのか!?」
「そういうことや。別におかしくはないやろ。魔術では構成作るもんと実際発動するもんが違うのは良くあることやし」
モトリが触手で構成の形を作り、ユキが魔力を通す事で魔術が使える状態にする。
そこに、風と雷の精霊力が流れ込んでいくのを確認し、ユキは発動の呪文を唱える。
「スタニングドラゴン!」
ユキの頭上に、構成から放たれた風と雷が集まり、子竜の姿を作る。
どこか懐かしい姿に、エルヴィナが思わずつぶやく。
「あれってクゥちゃん?」
「モデルはそうですねー。属性違うんで再現度は微妙ですけど」
子竜は小さく身を震わせると、消える。
違う。飛んだのだ。その姿は今や中庭の端にあった。
飛ぶ姿すら見えない雷速の飛行。その軌跡上にいた3人の襲撃者が倒れる。
さらに右に飛んで2人、左に飛んで2人。
「ロキめ! ふざけやがって!」
最後の1人となったガラドは悪態をつきながら防御魔法を重ねる。
しかし、風雷で出来た竜はあっさりとその魔法の盾を壊してガラドに爪を立てた。
「ふざけてなんかいない。これがロキじゃなくて俺たちの力だよ」
ガラドが倒れたところで、校舎から中庭に繋がる扉が開いた。
「みんな、大丈夫!?」
駆け込んできたのは、パンツスーツに身を固めたエルフ、リエル先生だ。
息を切らして皆を見回した後、ユキを見つけた先生は近づきながら声をかける。
『ユキくん、心配したわよ』
その言葉には、奇妙にエコーがかかっていた。
奇妙なエコーって何? と思った方は第6話を読み返すんだ!
(といってPV増やす作戦)




