第25話 交渉と裏切り
何の魔法が使われたのかはエルヴィナの位置からは見えなかった。
ただ、校舎の中で騒ぎが起きたのが聞こえる。
一拍遅れて、校舎から幾人かが飛び降りてきた。
それらはいずれも、エルヴィナが対峙していた一人目の男と同じ、濃茶のスーツと頭巾で身を固めていた。
「コロカム筆頭教官排除成功」
「クロッカン警備隊長他2名排除成功」
「チャネルズ副学園長排除成功」
「学園長室は空だった。情報通り会合に出ているとみて良いだろう」
「外も配置についてる」
口々に寄せられる報告に、一人目の男は満足そうに頷く。
「よし、結界を発動させるぞ」
襲撃者のうち6人が、中庭の端々に散る。
「な、なにする気?」
エルヴィナの問いに、襲撃者たちはもちろん答えない。
ただ、視線も外さないまま一人目の男が懐から拳二つ分ほどの魔晶石を取り出した。
「猛き風よ。隔てるものよ。泡のごとくあれ」
「猛き風よ。隔てるものよ。泡のごとくあれ」
見れば、他の襲撃者たちも同じような石を出し、同じ呪文を唱えている。
活性化された魔晶石から光の筋がまっすぐに立ち上がる。
中庭から6本、そして校舎の外から6本。
その光が空に魔法の構成を書くと、風が壁となって広がっていく。
「これで、まあ丸1日は中と外の行き来はできないってわけだ」
一人目の男は、ようやくエルヴィナから視線を外すと校舎から顔を出している生徒らに向かって呼びかけた。
「学生諸君、君たちもロキの悪逆さについて聞いたことはあるだろう」
「ロキ……!」
校舎がざわつく。エルヴィナとティカも、それとは違う意味で息を飲んだ。
「我々は、そのロキが今、このニオルム魔法学園にいることを突き止めた。
諸君らも見たはずだ。学園祭に現れた火竜イラズアを。彼の眼は正しい」
襲撃者は魔晶石から手を放し、中庭中央に向かって一歩進み出る。
魔晶石は、地震から発せられる魔力によって浮いたままだ。
「我々の目的はロキの排除だけだ。大人しく彼を引き渡してくれれば、他に危害を加えるつもりはない」
「さっき、魔法でぶっ飛ばしてただろーが!」
校舎から誰かのツッコミが響く。
だが、襲撃者は動じることなく答えを返す。
「校舎の外に退去願っただけだ。彼らの実力はよく承知している。命に別状はあるまい。
そして、今や教官や警備隊の主だった面々は校舎にいないわけだ」
正副の学園長も、警備隊の隊長も、武闘派で知られた筆頭教官もいない。
その状況下で、いずれも達人と思われる複数の襲撃者と戦うのは困難。
そうした背景をもって、襲撃者は交渉を続ける。
「もう一度言う。ロキを」
「ロキなんぞおらんよ」
石畳の上をほとんど音もなく車いすがすべる。
車いすを押すのはすました顔をしたメイドのモトリ。
その横にはライルが並んで歩いている。
「アーベル……!」
「名簿見はったら、すぐ分かるわ。ロキなんて学生も、教官もおりまへん」
車いすに座っているアーベルの顔には、もう包帯は無かった。
皮膚の色が左側だけ少し白いが、ほとんどわからない。
少し伸びた髪は、むしろ勝気な瞳に良く似合っている。
「偽名を使っていることは分かっている。1年のリエル教官が担当している、ユキという学生。その正体がロキだ」
「うちは1年のリエル組の委員長、アーベル・ゴールドティンカー。ユキについてはよう知っとる」
「ならば、彼を引き渡せ」
襲撃者の要求に直接は答えず、アーベルは肩越しに後ろを見やった。
「ライル。ユキを呼んできて」
「ちょ、ちょっと、アーベ……」
抗議しようとしたエルヴィナだったが、途中で言葉を途切れさせる。
いつの間にかモトリがすぐ後ろに立っており、喉に何か冷たいものを当てられている。
「静かにし、精霊王。あんたも疑われてるんやで」
「そんな……」
言葉を詰まらせるエルヴィナ。悲しさと悔しさに視界がにじむ。
ライルはそんなエルヴィナを一瞥し、小さく肩をすくめた。
「じゃ、行ってくるわ」
ちょっと短いけど、視点をユキに戻すのでここで切り。
参加していたイベントの方は一区切り。
まあ、これから感想への返答を書かないといけないのだけど。
感想もらえるのは嬉しいもんです、はい。




