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第22話 いじわる問答

主人公が引きこもったので、メインヒロインが動くシーン。

 食堂に器を返した帰り道。エルヴィナは道沿いのカフェに知った顔を見つけた。

「珍しい取り合わせだねぇ」

 アーベル、モトリ、そしてライル。クラスメイトだけど、放課後にカフェでお茶するような仲かというとちょっと違う気がする。

「商談でな。ユキは出てきたか?」

 ライルの質問に、エルヴィナは無言で首を振った。

 ライルは面白くなさそうに鼻を鳴らす。

「そう言えば、肉串余っちゃったんだ。モトリ、食べる?」

 手持無沙汰に座っているモトリに、肉串を差し出す。

 流石にとっくに冷めてはいるが、味は悪くないはずだ。

 しかし、モトリは顔を青ざめさせて力なく首を振った。

「……せっかくですが、遠慮しとくっす」

「ほな、ウチがもろてもええかな」

 そう申し出たアーベルに、エルヴィナは串を渡す。

 アーベルはごく当たり前に串にかぶりついた。

「本人は気にしねーのな」

「本人?」

「つーか、エルヴィナ。お前案外黒いな」

 ライルの論評に、エルヴィナではなくアーベルの方が冷たい視線を飛ばす。

「いや、褒めたんだぜ。使い魔になってる妖精と話したことは何度かあるが、基本お気楽で目の前のこと以外何も考えてないような連中だったからな」

 そう言い訳してから、ライルはアーベルの握っている肉串を指さす。

「その肉串、ユキは食べ残したんじゃなくて食えなかったんだろ。で、モトリも同じか試した」

「ああ、つまり焼けた肉を焦げてたウチと重ね合わせてしもて食べられへんと」

 火竜のブレスにこんがり焦がされていた本人は、もう一口肉串をかじってから、あっけらかんと言葉を放つ。

「本人が無事やねんから、気にせんでええのに」

「……俺は別に肉串食えるけど、お前の今の状況を『無事』とは言えねぇよ」

 さすがのライルも鼻白む。

 長くつややかだった黒髪は、縮れたところをバッサリ切った結果ベリーショートになっているし、左目を中心に包帯が巻かれている。

 両手も、今は普通に動かしているが数日前まで包帯を巻かれていたことをエルヴィナは知っていた。

「生きとるんやから『無事』でええんよ。左目はもうじき治るし、髪もそのうち伸びるわ」

「足は?」

 そう、何より重傷だったのが左足だ。竜の牙にくわえ込まれたままブレスを浴びたせいで完全に炭化して崩れた。

 今のアーベルは車いす生活だ。

「それより価値があるものを手に入れた、ということにしときたいなぁ」

「なんでそこで弱気になるんだよ」

「つこてみたら、意外と欠点も多くて」

 やっぱり、魔法も魔術も何百年も使われ来ただけのことはあるんやなぁ、と感心するアーベル。

「でも、あのドラゴンが言ってたよねぇ。『分かったのなら、やってみせよ。できたならば我が眼を名乗ることを許す』って」

 エルヴィナが巨竜の去り際の伝言を伝えるとアーベルは笑って見せた。

「ほな、なんとかせんとねぇ。でも、『イラズアの眼』はちょっとゴロが悪いなぁ」

「まあ、委員長がやる気なのはいい事だ。となると問題はユキの方だな」

 話題を変えるライルに、肉串を食べ終えたアーベルも続く。

「そもそも、なんであのドラゴンはユキをロキだって断言できるんだ? 見間違いの可能性は?」

「イラズアは、300年以上火竜の代表者をしてるからなぁ。魔竜ナズヘグル退治の時にも参加してて、ロキを直に見て迷惑かけられてる。見間違いをするようなことは、まああらへん」

「見間違いじゃないとすると、異世界から来たっていうユキが、なんでロキと間違われるぐらい似てるんだ?」

 そこで皆の視線がエルヴィナに向く。

「エルヴィナは、何か知っとる?」

 アーベルの疑問に、エルヴィナは少し迷ってから素直に答えた。

「……知ってるけど、ユキがいいって言わないと話せない」

「律儀やねぇ」

「そういう時は、知らないって言っとけ」

 アーベルもライルも、半ば苦笑している。

「嘘を言ったほうがいいの?」

「知ってる情報を話させる手段は色々ある。拷問されたくはないだろ? 俺らはしないけど」

 実のところ拷問が何かはよくわかっていないのだが、エルヴィナは一応頷いておいた。

「みんなは、ユキがロキかもしれないって思わない?」

「可能性はゼロではないわな。あのイラズアがロキやって断言してたぐらいやし」

「あのビビりのお人好しがロキである可能性はほとんど無い。でも、それすらロキの騙しのテクの一部かもしれない」

 厳しい意見を言う二人にエルヴィナの表情が沈む。それを見て取ったモトリが、緩い声でフォローを入れた。

「お二人とも、騙されるわけにはいかない立場の人っすからねー」

「モトリは?」

「会ったことのないロキより、一緒にダンジョン探索したユキさんを信じますよ」

 任せて、とばかりに胸を叩くモトリ。しかし、ライルとアーベルはそこにも容赦なく冷や水を浴びせる。

「だが、学園内でもほとんどの奴はユキと話したこともねぇからな」

「もっと学園になじんでからなら別やったんやろうけど、今のところうちのクラス以外ではユキがロキやと思てる人らの方が多いわな」

「教師陣もだいたいそんな感じだな」

 さらに沈んでいくエルヴィナ。結局のところ、ユキの味方がほとんどいないというのは事実なのだ。

 流石に沈めすぎたと思ったのか、アーベルは少し声を緩めて、こう助言してきた

「そういう人らにユキはロキじゃないって説得しようにも、事情を知らんウチらではどうにもならんわ。知ってる人に相談してみたらええんとちゃう? リエル先生とか」

「そうだね、そうしてみる!」

 提示されたかすかな希望を胸に、エルヴィナは早速学園に向かって飛んで行った。彼女が去った後、こんな会話が交わされているとは知らずに。

「カマかけ成功か?」

「せやね。まあ、まだ状況は見えへんけど、教室じゃなくてここで商談したのは正解やなぁ」

休みのおかげか昨日のPVが妙に多かったので、二匹目のドジョウを狙ってみます。

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