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第2話 竜との遭遇(ただし小っちゃい)

「ドラゴンだ」

「えっ!」

 慌てて身を起こしかけたユキを、風がやさしく押し戻す。

 エルヴィナは沈黙のジェスチャーとして口のまえで人差し指を立てた。

 ユキが頷くのを確認してから、指を空に向ける。

 その先には蝙蝠のような翼を持った蜥蜴がいた。

 鱗の色が明るい赤だと分かるほどの距離しか離れていない。 

「子供だね。サイズがちっさい」

 エルヴィナの言う通り、おそらく頭から尾の先まで50cmぐらいしか無いだろう。

 赤い子竜は、そのサイズからしてもゆっくりと飛んでいた。しかも、妙に上下が激しい。

「なんか、フラフラしてる?」

「怪我してるのかもね」

 エルヴィナの呟きが止めになったかのように、子竜はボテッと地面に落ちた。

 駆け寄ろうとするユキの前に、エルヴィナが立ちふさがる。

「やめときなよ、ユキ。子供のドラゴンが一匹だけいるのはおかしいよ。多分、親が捜してる」

 そう言ってエルヴィナは大げさに自らの肩を抱き、体を震わせる。

「ドラゴンってね、ものすごく短気なの。子供とはぐれた時はなおさら。ユキが子供を怪我させたって勘違いしたら、まず焼いて、それからどうする考えるよ、あいつら」

「でも、親はこの辺にいないんじゃない?」

「うー、たしかに、親の姿はないけど」

 空を一周を見回しても、竜はおろか小鳥の姿すら見えない。青い空に、白い雲がすこし浮かんでいるだけだ。

「親がいないのに怪我してるんじゃ、死んじゃうだろ。それは可哀想だよ」

「わかった。でも助けるとしても、あたしは無理だよ。ユキを受け止める魔法でお腹減ってたのに、姿隠す魔法まで使ったからもう限界。ドラゴンを助けようとしたら、あたし消えちゃうよ」

 エルヴィナの小言を背中で聞き、ユキは子竜にかけよる。

 夢の中なのに、何を必死になってるんだろうと一瞬疑問を感じたが、そんな考えはドラゴンに触れた瞬間に吹っ飛んだ。

 つるりとした鱗の感触。

 その奥から伝わるほのかな温かさ。

 夢とはとても思えないリアル。

「どう見てもファイアドラゴンだよねぇ」

 エルヴィナの呟き通り、鱗の赤い太目のトカゲの背に蝙蝠のような羽が生えた、オーソドックスなドラゴンだ。

 その体のあちこちに細かい切り傷があり、翼の皮膜には穴が開いている。これでよく飛べていたものだ。

「あたし、治癒魔法は風のしか知らないけど、いいよね?」

「他の治癒魔法もあるの?」

「あるよー。でも、自分の属性と違うと、効率悪い」

 そんなことを言われても、ユキが火の治癒魔法を知っているわけがない。

「逆にダメージ受けたり、とかはないよね?」

「普通は大丈夫。じゃあ、今からユキに治癒魔法の使い方を教えるから、その通りにやって。それでドラゴンは治るし、おこぼれであたしのお腹も膨れる。うん、完璧」

 ひとしきり透明な胸を張ってから、エルヴィナ先生の授業が始まった。

「まずは、魔力を使って構成を描くの」

 エルヴィナが空間を抱えるように掌を向かい合わせると、その間に光でできた円盤が現れる。円盤の外側には文字のようなものが書かれていて、中央には星型がある。

「同じものを作るのをイメージして」

 見よう見まねでユキが自分の掌を向かい合わせると、光の円盤は直ぐに現れた。星が足りないなと思うとそれも光が書き足していく。

「うん、上手上手。文字もちゃんとイメージして」

 不思議なことに、エルヴィナの構成の文字を見ても意味が分からないのに、ユキ自身の構成に書き込んだ文字の意味はなんとなく分かる。

 優しい風から元気を竜にわけてもらう、とかそんな感じだ。

「エルヴィナのよりずいぶん薄いけど……」

 昼の光の中でもくっきりと見えるエルヴィナの構成と比べると、ユキの構成の光は淡く、ともすれば見失いそうだ。

「元々風の構成は明るいところじゃ見えにくいから、これで十分だよ。あたしはユキに見えやすいように明るくしてるの」

 ユキがすっかり構成をコピーしたのを確認し、エルヴィナは自分の構成を解く。

 また、風の鳴る音がした。発動しなかったとはいえ、構成を書くのにまた魔力を使ってしまったのだろう。

 誤魔化すように羽をパサパサ揺らし、エルヴィナは授業を続ける。

「じゃあ、今度は元素力を構成に注ぎ込むの。周りの風を意識して、構成の中に入ってーってお願いするの」

 エルヴィナに促され、ユキは周りの風が自分の構成の中に吸い込まれていく様をイメージする。

子竜が完全回復するよう、少しでも多く。

 風は素直にそれに答えた。素直すぎるほどに。

 はじめはそよ風程度だったものが、あっという間に強くなり、ユキの髪を、服の袖を、バタバタとはためかせる。

「ちょ、ちょっと。強すぎ強すぎ。弱った火にこんなに強く風を送っちゃ吹き消しちゃうよ」

「で、でも……」

 口から漏れた弱音すら、風に吹き千切られていく。

 強すぎるといわれても、ユキにはどうすれば弱くなるのかも分からない。

 反射的に構成に手を突っ込んで風をさえぎろうとしたが、強まる風に弾き飛ばされるだけに終わった。

「ああもう! あたしが食べるしかないか! ユキはなんでもいいから呪文を唱えて!」

「なんでもいいって……」

「ほんとに何でもいいの!」

 そう叫んで――手が届く距離なのに、叫ばないと声が届かないのだ――エルヴィナは構成の中に飛び込む。

 元々目を凝らさないと見えない透明な妖精が、風に紛れて完全に見えなくなった。

(何でもいいってのが一番困るんだよね)

 有名ファンタジーRPGの呪文名がいくつかユキの脳裏に浮かぶが、却下した。風の要素がない。

「早く!」

「ええと、じゃあ、ウィンドヒール!」

 まるでひねりの無い、そのまま英語にしただけの呪文。

 それでも効果はあったらしく、暴風はパタリと止み、風の力が構成の中を駆け巡る。

 力で満たされ光を放ち始めた構成に、エルヴィナがしがみついていた。

「ふあぁ、力がおっきすぎるぅぅ」

 その手はもう、透明ではない。

ユキの構成に触れている部分から輝く結晶が成長し、エルヴィナの指を、手のひらを、腕を覆っていく。

「エルヴィナ、大丈夫?」

「大丈夫じゃないぃ。魔力転換しても多すぎるなんて。あたし、お腹いっぱいでおかしくなっちゃうよぉ!」

 エルヴィナが悲鳴をあげた瞬間、構成から風がものすごい勢いで吹き出した。

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