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第14話 荷車の上で

 石でできた人形が荷車を引いて歩き始める。

 普通の人が歩く程度の速度ではあるが、荷車に荷物と人が3人乗っていることを考えるとかなり早いと言っていいだろう。

「いやはや、エルフ様々だな、こりゃ。俺が使ったらもっとトロいからな」

 荷車に乗ったライルは、買い付けが上手くいったことも含めて上機嫌に笑う。

 石人形は、ライルに教わった魔法をユキが使ってつくったものだ。

「褒めてんだぜ、ユキ」

「あ、うん。ありがとう」

 ユキとしては、言葉遣いが乱暴なライルはちょっと怖い。こういう話し方をするいじめっ子には何度か遭った。

 そんな距離感を見て取ってか、エルヴィナが呑気な声で割って入る。

「ねぇ、ライル。これはなぁに?」

 エルヴィナは箱の一つに腰掛けて壺をいじっている。壺の側面には、エルヴィナに似た羽をもつ女性の絵が描かれている。

「送風壺だな。あと、その箱も冷却箱だから上に座るのやめろ」

「扇風機と冷蔵庫、かな……」

 ユキは元の世界の家電を思い浮かべただけのつもりだったが、口に出ていたらしい。それを聞き逃さなかったライルが目を輝かせる。

「あー、やっぱりお前の世界にも家魔製品があったんだな」

「えっと、似たようなのはあったよ。魔術じゃなくて、電気を使ってたけど」

「デンキ? まあ、何で動くかはどうでもいいんだよ。どんなのがあったか教えろよ」

 メモ帳替わりに小さく切った羊皮紙と木炭の筆を構えるライル。

「家電だと……テレビとかエアコンとか?」

「テレビってのはなんだ?」

 なんだ、と問われると意外と説明しにくい。

「遠く離れたところに映像を送る機械、でわかる?」

「映像か……どういう映像を送るかにもよるなぁ。音だけ送るならアイアンシティのドワーフが開発したって話を聞いたことがあるけど」

電話かラジオかな、と思うが、それまで聞かれるとさらに面倒になりそうなので黙っておく。

「エアコンってのは何ができるんだ?」

「その送風壺に近いんだけど、あったかい風や冷たい風を出せるんだ。夏には冷たい風をだして、冬にはあったかい風を出す」

 そういえば、この世界に夏とか冬とかあるんだろうか。今はちょうど適温という感じだけれど。

 そんな疑問を抱くユキだったが、ライルは喜んでメモを取る。

「いいな、それ。あったかい方は魔術暖炉も買ったから、それと送風壺の組み合わせで出来そうだ。冷やす方は姫さんにお願いしてみるか」

 この反応を見る限り、夏も冬もあるし、それなりに対策をしたい気温にはなるようだ。

 エルヴィナの方は、納得するユキとは別の疑問を抱いたらしい。

「なんで、アーベルの事を姫さんって呼ぶのぉ?」

「あのな、ゴールドティンカーだぞ? ティンカー氏族の氏族長の一人娘だ。人間で言えば中堅規模の国の第一王女クラスだな」

「そんなに偉いの?」

 メイドが付いているのだから低くない身分なのはわかっていた。しかし、モトリも結構ぞんざいな口の利き方をしていたので、ちょっとしたお金持ちぐらいかと思っていたのだ。

「それに、ティンカー氏族は修理専門といいつつ色々な氏族をつないで新しいものを作る動きが盛んだからな。家魔製品というカテゴリ自体が前の氏族長、つまりアーベルのお祖父さんが作ったに等しい。俺は商人として、真剣にティンカー氏族を尊敬している」

 そういえばアーベルも色々な氏族に弟子入りしたって言っていたことを思いだす。

「アーベルは、商人っていうより戦士だったけどね。すっごく強かったよぉ」

「そういえば、ダンジョンではどうだったんだ?」

「どうって……。エルヴィナが言ったように、戦士として頼りになったし、ダンジョン探索の経験も豊富で、本当に助かったよ」

 王女クラスと言われて違和感があるのは、そういう姿を見たのもあるだろう。

 斧をふるって人狼を真っ二つにするのは、少なくともユキが王女と聞いて想像する姿とはずいぶん違っている。

「俺が聞きたいのはそういう事じゃなくて、ロマンス的な話だ」

「……ライル、そういう話が好きなの?」

 エルヴィナが呆れたように問い返すが、ライルはむしろ胸を張って答える。

「商人的な意味でな。プレゼントやら何やらで金が動くんだ、ロマンスは」

 なんというかまあ、納得した。

 納得はしたが、すぐには答える気にならずちょっと天を仰ぐ。

 傾いた日に照らされたオレンジ色の雲が中々きれいだ。

「で、どうなんだ?」

「ロマンスもなにも。どっちかと言えば、クゥちゃんが暴走して迷惑かけちゃったし」

 ユキは、最後の髑髏蜘蛛との戦いを思い出す。音石の大音響でパニクったクゥちゃんは、アーベルにブレスを吐き、モトリの手に噛みつきまでした。

 なお、当のクゥちゃんは今もユキのカバンの中で寝息を立てている。

「クゥちゃんってそのドラゴンだよな。使い魔を暴走させるんじゃねぇよ」

「いや、クゥちゃんはケガしてたのを治しただけで、使い魔じゃないよ」

「……マジで?」

 目を丸くするライルに、ユキもマズいことを言ったかなと口をつぐむ。

 そんな間も、石人形は学園に向かって荷車を引き続ける。

 この街ではそれほど珍しい光景ではないらしく、特に注目を浴びる様子もない。しかし、ライルは声を一段階落として説明を始めた。

「ドラゴンってのは魔物の王。それもかなりの暴君だ。特に理性が発達してないガキのうちはな。使い魔として契約してれば命令で抑えられるから良いんだけど……」

「使い魔の契約ってのをした方がいいのかな?」

 使い魔にすれば今度暴走した時に止められるなら、ぜひともそうしたいところではある。しかし、ライルは眉をしかめた。

「親の許可取ってるか?」

「親とははぐれちゃったみたいで、今は先生に探してもらってるところだけど」

「じゃあ、やめとけ。行方不明になった子供が、戻ってきたとき首に縄付けられてたら、普通の親は気を悪くするぞ」

 人間に置き換えて考えてみたら、確かに気持ちがいい状態ではない。クゥちゃんを使い魔にするのはやめておいた方が良さそうだ。

 そもそも使い魔の契約のし方をユキは知らないわけだが。

「高位のエルフが若いドラゴンと使い魔契約することはたまにあるって聞いたことあるからてっきりそれだと思ってたんだが……」

「ごめん。とりあえず、大きな音とかが苦手なのは分かってきたから、暴走させないように気を付けるよ」

「まあ、そんなとこだろうな。俺の方でも何か対策できるアイテムが無いか探しとく」

「それも商売のため?」

 反射的にそう聞いてしまってから、ユキは内心ビクリとする。ちょっと皮肉すぎはしなかっただろうか。

 しかし、ライルの方は気にした様子もなくニヤリと笑った。

「割引価格にしておいてやるよ」

 夕日に照らされるその顔をみて、ユキはこっそり息をついた。

「それよりユキの世界の家魔製品の事をもっと教えてくれよ。二つだけってことはないだろ」

そういえば荷車勇者の話を書いたことも思い出した。

サルベージしてきて載せようかしら

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