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第13話 商人のやり方

 教室の机に並べた魔晶石を一通り鑑定し、男子生徒は満足げにうなずいた。

 ちょっと目つきが悪くて不良風だと思っていたのだが、こうしていると中々気さくな感じでもある。

「よしよし、期待通りってところだな。特にこの石なら金貨3000枚にはなるはずだ」

 彼が指差したのは、最後に髑髏蜘蛛から回収した魔晶石。拳2つ分ほどで、青白い光を放っている。

 教室にいる他の生徒たちも物珍しげに眺めていることから、このサイズの魔晶石はなかなか無いのだろう。

「で、ライル。結局何を売ることにしたん?」

 アーベルが、さりげなく石を男子生徒から遠ざけつつ問う。

 家が商人だというこのライルに作戦を任せ、アーベルとユキは先に資金集めとしてダンジョンに行っていたのだ。資金集めには成功したのだから、作戦もできていないと困る。

「それなんだが……。姫さん、家魔製品の修理はできるか?」

「アーベル様はエンチャント氏族に弟子入りもしたから、大丈夫っすよ」

 問われたアーベルではなく、モトリの方が胸を張る。なんだか前にも見た光景だ。

「前にも聞いたけど、氏族って何?」

「ドワーフは、何を作るのを専門にするかで氏族が分かれてるっす。鉄鋼のスティール氏族とか、石工のロック氏族とか。エンチャント氏族は魔術が専門なんで、家魔製品も範囲内っすね」

「家魔製品ってあれだよね。灯りがついたり、あったかい風が出てきたり」

 エルヴィナの例示で、やっとユキにも理解できた。つまり、電気の代わりに魔術を使うから家電じゃなくて家魔製品なのだ。

「軽く聞いて回っただけでも、使えなくなった古い家魔製品を倉庫に眠らせてるって商人が結構いてな」

「なるほど。じゃあそれを安く買い取って」

「そう、姫さんが修理して、ついでにドワーフ流の彫刻でも施せば、立派な高級品として販売できるってわけ」

 作戦を説明しおわり、ニヤリと笑うライル。

しかし、アーベルの方はしばらく言いよどんだ後に口を開いた。

「あー、それはちょっと厳しいかなぁ」

「ん?」

「ウチの氏族、ティンカーは、鋳掛が仕事でなぁ。穴開いたお鍋とか直すんが得意なんよ」

 ダンジョンで決然と前線をはっていたのと同一人物とは思えない、弱い誤魔化しの笑い。

「その流れで、ものを決まった形に作るんは出来るねん。けど、彫刻とかは、ほら、芸術的センス? あれが無いんよね」

「ある意味独創的で、あたしは好きっすよ。新種の魔物像としてならなんとか」

「なりまへん」

 モトリのフォローをスッパリ断ち切るあたり、アーベルの決意は固いらしい。

 頭を抱えて作戦を練り直すライルにおずおずと助け船を出したのは、石を眺めていたエルフの女子生徒だった。たしか、名前はティカ。

「ええと、形を決めておいたら、その通りにはできるんだよね? だったら、わたしが絵を描くから、それをレリーフにするのってどうかな」

 ティカの提案で、こんどはアーベルが考える番になった。

「それならやれると思うけど、レリーフにせんでも、そのまま絵を描いてもええんとちゃう?」

「絵具って結構手間がかかるから。わたしの私物を使えれば楽だったんだけど……」

「絵具なら買えばいいんじゃないの?」

 絵具なんてそう高いものでもないはずだし、というユキの思惑に、ティカは首を左右に振る。

「売ってる顔料を買っても、それを細かく砕いて、油と練り合わせてからじゃないと使えないし。結構大変なんだよ」

 そう説明されて、ユキは言葉に詰まる。

 ここは、ユキが思いつくようなチューブ入りの水彩絵の具が売っている世界ではないのだ。

「先生としては」

 急に後ろから声をかけられ、ユキは慌てて飛びのいた。

「そういうところを解決するために魔法を使ってほしいんだけどなー」

 後ろに立っていたのは、もちろんリエル先生だ。

「あ、そうか。絵具を作る魔法なんてのもあるんだね」

「無いよ?」

「え、それじゃぁ……」

 なんで魔法で解決なんて言い出したのか。クラスメイト皆に広がった疑問に答えたのは、アーベルだった。

「魔法で絵具そのものをつくらんでも、砕いたり練ったりする作業を魔法でやればええ」

「うーん、アーベルさんが居ると簡単すぎたか」

 リエル先生のコメントが、アーベルの意見が正解だと告げる。

「ドワーフの場合は魔法やのぉて魔術を使うんやけど、考え方は一緒や。すり鉢の棒をとか練るヘラとかを、しばらく同じ動きし続けるようにしたったらええねん」

 色々な道具が勝手に動いているドワーフの工房を想像すると、割とメルヘンかもしれない。実態はユキの世界の工場に近いのだろうけど。

「ほな、うちとティカはその魔法を先生に教えてもらおか」

「よし、じゃあ俺は魔晶石売って中古家魔買ってくる。他にも居るものあったら言ってくれ」

 ライルの言葉に、めいめいが勝手な希望を言い始める。

 ライルはその中で意味のありそうなものだけをメモに取っていった。

 遠慮していたティカも、アーベルに促されてようやく口を開く。

「ええと、図案書くための炭筆と羊皮紙が欲しいかな」

「絵具はええの?」

「うん、何描くのかを決めてから。余っちゃうともったいないから」

「よし。じゃあその分は金を残しとこう。あとは、茶と菓子だな」

「喫茶店でもするの?」

 ユキの世界では文化祭と言えば喫茶店は定番……のはずだ。ユキ自身はまだ中学生だから、漫画とかで読んだだけだが。

「あのな、ええと、ユキだっけ」

 まだクラスメイトの名前を覚えきれていないらしいライル。

 大きな声にちょっと気圧されながらも、ユキは首を縦に振って先を促す。

「俺たちが売るのは、高級品。じゃないと金貨2万枚なんて追っつかないからな。1台で金貨1000枚以上が目標だ。だから、ドワーフ製の一点物を売りにして、装飾としての価値も高める」

 どうやら、ユキの思う家電ほどには家魔製品は安くないらしい。

「そういう買い物をするときは、市場でリンゴ買うときみたいに、ポケットから銅貨を渡して終わりってな風には行かないんだよ」

「つまり、美味しいお茶とお菓子でおもてなしして、製品の良いところとかを色々説明して、その上で買ってもらうと」

「そういう事。わかってんじゃないか!」

 ユキの肩をバンバン叩くライル。

 ユキとしては慣れない仕草にちょっと戸惑っているうちに、がっしり肩を掴まれる。

「よっし。じゃあユキは俺と一緒に行こうぜ。荷物持ち頼む」

「ええっ、力にはそんなに自信ないんだけど……」

「バカだな。それも魔法でやるんだよ!」

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