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第12話 決戦! 髑髏蜘蛛

「なんか、あのへん嫌な感じがするぅ」

 エルヴィナが声をあげたのは、洞窟の奥に突き当りの壁が見えた時だった。

 アーベルはデコイの後をついて歩きながら、一つ頷く。

「せやね。ユキもわかるやろ」

 突き当たりは曲がり角になっており、向こう側から光が差している。

 その光に、ユキも確かに何とも言えないイヤな雰囲気を感じていた。

「私には分からないっす。ただ、臭いが」

「臭い?」

「死臭っす。人間サイズだとしたら、5体分ぐらい」

 モトリが中々に嫌な情報をくれたので、一旦足を止めての作戦会議となる。

「精霊除けの結界と、死臭。あの曲がり角の向こうに魔力溜りとそれを守ろうとしてる何かがおるんやろうね」

「なんで精霊除けの結界が?」

「魔力溜りは精霊のご飯だから。でも、魔物にとっても美味しいご飯なんだよねぇ」

 溜まった魔力を自分だけで使うために、取り合いの相手を排除していたということらしい。

エルフもドワーフも精霊を祖先に持つので、若干の影響があるのだ。

「エルヴィナは、大丈夫なの?」

「妖精のころだったら、近づけなかったと思う。今は大丈夫」

 心配するユキに、精霊王は胸を叩いて見せた。

 アーベルも頷いて、

「デコイ先行させて、ウチとモトリが前衛。結界の中は精霊がおらん分、元素力が少ないから、魔法使うときは気ぃ付けて」

「これまでと大体一緒だね」

「それでええねん。細かい戦術パターンは、後々覚えていけばええ」

少なくとも、アーベルは『後々』があるつもりだ。ユキとエルヴィナは、ダンジョン探索の仲間として及第点ということになる。

 にっこり笑うアーベルに、ユキもぎこちなく笑みを返した。


 先行したデコイの首に、剣が打ち込まれる。

「惜しい、4体。今は3」

 剣の下をかいくぐり、斧を横なぎにふるうアーベル。

 鎧の継ぎ目に正確に打ち込まれた刃は、魔術の炎で加速されて剣士の胴を両断した。

 しかし、剣士がそれで死んだわけでは無い。なにせ、最初から首が無かったのだから。

 残るは3体。

短剣を二刀流した皮鎧の男、メイスを構えた僧服の男、杖を持ったローブの女。

いずれもそろって首がない。

「ゾンビっすか。レアものっすね」

「おるわけないやろ、そんなん」

 主従の軽口を金属音が遮る。短剣がアーベルの鎧を擦る音だ。

 続いて鳴った鈍い音は、僧服の肘が破壊され、メイスが地に落ちる音。

 僧服は落ちたメイスを拾おうともせず、ちぎれかけた腕をふりまわした。

「多分、雷属性の魔法で筋肉を動かしてるんすね。切った手ごたえが意外とフレッシュ」

「そういう事なら!」

 エルヴィナは大胆に距離を詰め、モトリのすぐ後ろで大きく息を吸う。

「雷の精霊さんたち! しばらく誰にも力を貸さないで!」

 精霊王の命令に従い、雷の元素力の供給が途絶える。

 魔法の効果が失われ、死体は死体に戻って糸が切れたように倒れる。

 その時だった。まだ、後ろに離れていたユキの目に、前に見たのと同じ音石が落ちてくるのが見えたのは。

「耳ふさいで!」

 とっさに指示は出すが、間に合ったのはユキだけだった。

 天井から、ちょうどエルヴィナの真後ろに落とされた音石が、爆音を奏でる。

 至近距離で聞いてしまったエルヴィナは完全に意識を失ったらしく、ボテッと地面に落ちる。

アーベルとモトリは辛うじて意識は保ったようだが、すぐには動けないだろう。

 そして、もう一匹耳をふさげなかった者がいた。

「ギャアアァオオオン!!!」

 ユキの肩掛けカバンが、猛烈に吠え、ボコボコと変形する。

中で眠っていたはずのクゥちゃんが飛び出そうとしているのだ。

「え、ちょ、落ち着いて」

 ユキが戸惑う間に、カバンは中からの爪攻撃でズタズタに引き裂かれる。

 自由になったクゥちゃんはそのままの勢いでアーベルの背中に激突した。

「きゃぁ!」

 これまでの歴戦の戦士ぶりとは違う可愛い悲鳴が聞こえたが、クゥちゃんは意にも介さない。

 そのままアーベルの鎧を連続でひっかき、傷がつかないと見るや炎のブレスを吐きかけた。

「クゥちゃん、やめぇ!」

 制止の声など聞きもせず、地面に転がるアーベルに再攻撃を仕掛けようとするクゥちゃん。

 それを掴み止めたのは、モトリだった。

 邪魔されたクゥちゃんは、今度はモトリの手に噛みつく。

「こんのクソドラゴン! しばらく寝てろ!」

 モトリの右手が魔法の構成を描く。その内容を読み取って、ユキは首を振った。

「その魔法じゃダメだ!」

 しかし、さっきの音石のせいで、モトリの耳は聞こえる状態ではない。

 モトリが使おうとしたのはスタンの魔法。雷属性で体をしばらく痺れさせる魔法だ。

 雷の元素力は、さっきエルヴィナが封じてしまったのだから使えるわけがない。

 元素力が全然構成に入ってこない事で、モトリも失策に気づいたらしい。

 構成を切り替えようとしたところで、モトリの頭は地面に叩きつけられる。

「なぁんだかクリティカルヒット~」

 モトリの頭を踏んだのは、甲殻に覆われた太い足だった。

 天井に貼り付いていたのが落ちてきたのだ。

「音石がよっそお外にきぃたわね」

 足の主は、妙なイントネーションでしゃべりつつ、エルヴィナの背も踏みつける。

 2人を踏みつけても、バランスが損なわれることはない。なにせ、そいつは足を8本も持っているからだ。

 巨大な蜘蛛の顔に8つの顔が貼り付いている。4つは古く朽ちたしゃれこうべだが、4つはまだ新しい。

 男の首が3つと、女の首が1つ。さっきのゾンビもどきの首に違いあるまい。

 その女の首がしゃべっているのだ。

「あっとは、そこのエルフね。おとなしく降参したら、痛くないように首を落としてあげるわよん」

 まるで交渉にならない条件に、ユキは攻撃魔法で応える。

「ウィンド……」

「そぉい!」

 構成が形になるかならないかのところで、蜘蛛は身をたわめて尻をユキに向ける。

 その先端から飛び出すのは、糸では無くて雷の矢。

 1本は構成に当たって相殺されるが、残り2本がユキの足に当たる。

 痛みはそれほどでもないが、しびれのせいで力が入らず、ユキはその場に膝をついた。

「なんで雷がっ」

「べっつに、精霊王が雷封じするんなら、魔力から転換して作ればいいだけだしぃ? 魔力はたっぷりもっさりあるしぃ?」

 蜘蛛の背に、青く輝くもやが乗っているのが見えた。あれが、この洞窟の魔力溜りなのだろう。

「あ、そぉだ。精霊王なんだから魔力もたっぷり蓄えてるわよね。ラッキー♪」

 エルヴィナの首に向けてもう一本の足を振り下ろそうとしたところで、炎がその足を焼く。

「ちょっ、なぁんなのよ、ガキドラゴン。この髑髏蜘蛛さまに味方したいんじゃなかったの!? 助けてやったのに!!」

 そんな訳はない。クゥちゃんは単に音石の音でパニックになっていただけだ。

 我に返ったクゥちゃんの爪が蜘蛛の足をひっかく。鎧よりは柔らかいらしく、細かい傷がいくつも入る。

 しかし、その足をそのまま蹴り上げられると、クゥちゃんは避けられずに吹っ飛ばされた。

「たぁく、後で塩かけて頭からかじってやる!」

「あんたに」

 蜘蛛のセリフを遮ったのは、ドワーフの声と、吹き出す炎の轟音。

「後とかあらへんわぁ!」

 一回転するように振るわれた斧が、蜘蛛の足を2本まとめて斬り飛ばす。

 おかげで自由になったモトリは、地面に転がったまま呪文を唱える。

「触手にょろにょろ、みにょろにょろ~」

 地面から伸びた3本の触手が蜘蛛に絡みつく。

 蜘蛛はまだ無事な足で触手を切っていくが、その途中で気づいてしまった。

「ひっ!」

 ユキの手に、直径1mはある大型構成。既に十分な元素力がため込まれている。

 普通に使えば味方も巻き込みかねないサイズだが、幸いにもユキはさっき膝をついているし、蜘蛛は十分に大きかった。

「ストームキャノン」

 蜘蛛の身体を下からえぐりこむように捕らえる。

 まだ残っていた触手を引きちぎりながら蜘蛛の身体は宙を舞い、勢いを増しながら洞窟の天井に叩きつけられる。

「そん、なば、か」

「アースランス!」

 ユキのもう一つの呪文で、洞窟の天井が変形し、大きな槍が生える。

 その槍に頭部を破壊され、蜘蛛は完全に沈黙した。

人間しか神を信仰しない、という原案者様の設定があるので、

信仰的なモンスターは割とレアということにしています。

アーベルがゾンビなんているわけないと言ってるのもそれが理由。

人間の悪い僧侶しかゾンビを作れないので、魔力黙りがあるだけの洞窟に居る可能性はほぼ無いって事。

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