見つけた何よりも大切なもの
少し暗い中を少し屈んで進んでゆく。 絶え間なく流れてくるぬいぐるみを避けながら。
幸いなことにベルトコンベアの進む速度はわたしが歩く速度よりも遅く、少し早歩きするだけで充分に進めた。
工場、ということで色んな歯車とか、大きな機械がいっぱいあるのかと思っていたけど、そんなことはなく、ただ薄暗い中をベルトコンベアが通っているだけだった。
「……本当にあるのかな。」
少しだけ不安になる。ここにわたしのさがしものは本当にあるのか。ここでは作ってないんじゃないか?
頭を振って悩みを振り払う。弱気になっちゃ駄目だ。大丈夫、大丈夫。ちゃんとあるんだ。なくしものが流れ着く街って言ってたもん。諦めなければ……
流れてゆくぬいぐるみを見ながら歩く。未だ目的のものは見当たらない。
疲れてきたな……意外とベルトコンベアの上を歩くのは疲れる。ちゃんと歩いてるのにあまり進んでる気がしないからかな。
歩いて、探して。 単純な行動に慣れてきたその時、それは起こった。
「あれ?」
前に出した足が宙をさまよう。身体がバランスを崩す。
「あっ……」
気づかなかった。目の前に暗い穴が広がっていた。
ゆっくりと景色が流れる。傾いた身体はもう元の場所には戻らない。落ちる感覚、伸ばした手は何も掴めずーーー
「っっ…! あっぶな! 何やってんのよ!!」
強く握られる感触。
「かなちゃん!」
そのまま引き上げられる。
「な、なんでここに?」
「それは……私の願いごとが……その……」
「願いごとが……何?」
「な、なんでもないわよ! で、あなたのさがしものは?」
「ああ、えっと……大きなくまのぬいぐるみ。」
「そう。じゃあさっさと見つけて帰るわよ。」
そう言ってさっさと先に行ってしまう。なんだか分からないけど、さっきまで避けていたかなちゃんが助けてくれたことを実感して、少しはにかんでついて行った。
ベルトコンベアから離れてみると、他にもいっぱいぬいぐるみが置いてある場所があった。そこにはさっきまで歩いていたところには無かったぬいぐるみもあって、ここならあるかも、なんて思えた。
「じゃあ私はこっちを探すから、さなはそっち探して。」
「うん!」
ぬいぐるみの山を掻き分けて目的のものを探す。大きいサイズだから見つからない、なんてことは無いはずだけど……
「「いてっ」」
いつの間に同じような所を探していたのか、頭と頭がぶつかった。なんだか可笑しくなって笑ってしまう。見ればかなちゃんも笑っていた。
「ふふっ……ごめんね。下らないことで怒っちゃって。」
「こっちこそ、あの時わたしがムキになって言い返したりしなければ……って、なんで喧嘩してたんだっけ?」
「えっと、なんだったかしら……」
また顔を見合わせて笑い出す。きっと忘れてしまったのならそこまで大事なことではなかったということ。そう思うとなんだかわたし達が馬鹿みたいで笑えてきた。
「ふふふっ……あれ? かなちゃんなんか光ってるよ?」
「そっちこそ、なんか光ってる。 もしかして帰れるんじゃない?」
「ええ!! まだ何も見つけてないのに!……まぁいいや。 それで、結局かなちゃんは何をお願いしたの?」
「えっとね……恥ずかしいな……」
少しづつ、意識が薄れてゆく。
「私が願ったのは……」
消えゆく世界でその言葉は確かにわたしの耳に届いた。
「あなたとの仲直りよ。」
じゃあきっと、わたしのほんとうのさがしものも………
目が覚める。カーテンから漏れた光が目に当たって眩しい。
「ん……そうだ、プレゼント……」
首を傾けると、わたしが頼んだ大きなくまのぬいぐるみがそこにあった。
「夢……だったのかな……」
目を擦りながら思い返す。かなちゃんと一緒にこのくまを探したことを。仲直りできたことも。
……でも、夢の事だったし、ちゃんと今日謝らなきゃな。
「さなー! かなちゃんから電話よー!!」
お母さんの声だ。なんで?と思いつつベッドから出てお母さんのところに行く。ちょっとだけ期待しながら。
「なんか約束でもしてた? こんな朝早くにかかってくるなんて……」
「わかんないけど、とりあえず代わって?」
受話器を渡される。僅かな期待を込めて、もしもしの代わりにこう言った。
「ねぇ、かなちゃん。 夢の事、覚えてる?」