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Ωneiloss -夢の世界で変身!-  作者: 薪原カナユキ
2章 -αlice in I-
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8.明ける悪夢。そして

「お菓子の町に、紙に埋もれる夢、ねぇ……」


 学校のチャイムが鳴る。

 まだまだ日は高く、授業が終わりとは思えない明るさだが、終わりは終わり。

 わたしは帰る身支度をしながら、友達と話していた。


 話題は、わたしが見た夢の話。

 この前の土曜日には、お菓子でできた町の夢。

 そして今朝はいっぱいの紙に埋もれる夢。


「お菓子の町は撫花らしいけど、紙に埋もれる……? 夏休みの宿題そんなに大変だった?」

「大変だったのは美友(みゆ)のせいでしょう」

「ごもっとも。大変お世話になりました」


 朗らかに笑って謝罪するのは、(やなぎ)美友(みゆ)

 面倒だからと髪を短く整え、ご飯と運動が大好きなわたしの親友。

 彼女がいなかったら、わたしはずっとあの頃のまま塞ぎ込んでいたに違いない。


 そして美友ちゃんに呆れ顔で話しかけているのは、入野(いりの)はる。

 肩まで伸びた髪をシュシュで簡単に一つに纏め、乱視だからと深緑の眼鏡をかけた、もう一人の親友。


「夢見が悪いなら、アロマとかハーブティーとかでも試す? 気休め程度だけど」

「うーん、どうなんだろう……。今朝も起きたら右手首と左肩が痛かったし」

「撫花はお世辞にも寝相は良いとは言えないからね」


 激しい動悸と関節の痛みって、寝相のせいなのかな。

 はるちゃんなら、何か思い当たるかなと思ったんだけど。


「寝相、か。あながち否定できないかも。うん、カナデなら有り得る」

「ええぇー。はるちゃんもー……?」


 勝手に納得するはるちゃんに、わたしは頬を膨らませる。

 撫花を逆にして花撫(カナデ)というあだ名で呼ぶのは、出会ったばかりの時にナデカは言いづらいということで、美友ちゃんが呼び始めたものだ。

 今はそう呼ぶのは、だいたいはるちゃんばかり。


「でもこの前はビックリしたね。夢を見たらお店に行きたくなったって言って、穴場の洋菓子店見つけるし」

「そう思ってたら今度は変に関節が痛い、と」


 二人の視線がわたしに集まる。


「……昔よりはマシか」

「美友の影響のお陰でね。本当によくここまで明るくなれたよ」

「そうかな。二人は昔から変わらないね」


 事あるごとに二人には昔の事を持ち出されるので、苦笑いしてしまう。

 でも過去を笑いあえるだけ、前には進めている。


 何もかも嫌いだったあの時よりは、ずっと。


「そうでもないよ。どこかのお人好しのお陰で、色んな事できるようになったしね」

「そうそう。今や笑顔の眩しい相談役の誰かのお陰でね」

「うん、二人ともいつもありがとう」


 美友ちゃんは困ったように笑い、はるちゃんは肩を竦める。

 高校に入ってから、何度もやって来たお馴染みの会話。

 美友ちゃんは困った振りをして、はるちゃんはわたしたちを楽しそうに笑う。

 そして当然わたしはお礼を言う。


 この二人がいたから、今のわたしはいるんだ。


「八重咲さん、今良いかな。聞いて欲しいことがあるんだけど」

「うん、良いよ。何をすれば良いの?」

「いやだからいつも言ってるでしょう。せめて内容を聞いてから受けなさいって」


 声をかけてきた男子生徒に間髪入れずに返事をする。

 ため息をつく美友ちゃんに、わたしは笑って誤魔化す。

 忘れている訳じゃないんだけど、結局は受けてしまうのだから、ついやってしまう。


「今日も変わらず学校のためにカナデと慈善活動、か。本当飽きる暇もないね」

「しょーがいよ。撫花だから」

「わたし一人で平気なのに、無理に付き合わなくても大丈夫だよ」

「何言ってるの。撫花だけじゃ、問題が悪化するか停滞するだけでしょう」

「私は面白いから参加してるだけ。所謂趣味だよ」


 はるちゃんの言い分はともかく、美友ちゃんには何も言い返すことは出来なかった。


 体が気持ちに追い付いていない、というべきなのか。

 人の役に立ちたい、そんな気持ちが心に溢れているのに、現実は失敗ばかり。

 勉強は特別できる訳でもなく、体は動いても勘が悪いのかスポーツとかの競技は中々身に付かなかった。

 ただ諦めず前を向く。

 それしか出来ないわたしを、二人は昔から手助けしてくれている。


「それじゃあ行きましょうか。今日の仕事に」

「仕事か……。じゃあ私たちはカナデの指示で動く、部下と言ったところか」

「はる。その表現は止めて」

「実際はわたしマスコットみたいなものだよ。わたし指示とかできないし」

「「確かに」」

「ええっ! 二人ともそれは無いよー!」


 荷物を持って三人で歩き出す。

 今日は何が起こるのだろう。

 何が見れるのだろう。

 そんな期待を胸に前に進む。


 何気無く笑いあえる、この夢見心地の生活を何時までも続けられれば良いのに。

 夢が続けば――


 夢?


 わたしの、夢。


(……メア、ナイトメア、悪夢)


 連鎖的に単語が彷彿する。

 お菓子、紙、夢、悪夢。


(――アリス)

「撫花? どうかした?」

「カナデ?」

「――ううん。何でもない、行こうか」


 たぶん、何かあったことは二人にはバレている。

 でも、何があったのかわたし自身がうまく思い出せないので、言うに言えない。


 この場は流してくれる二人に、心の中でお礼を言いながら、わたしは今日も人を助けに歩き出す。

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― 新着の感想 ―
[一言] 甘いお菓子の筈が、緊張感の走る、たいへん興味深く拝読させていただきました。かなり書きなれていらっしゃられるようで、すらすらと読み進められました。 引き続き楽しませていただきたく存じます。何卒…
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