表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Ωneiloss -夢の世界で変身!-  作者: 薪原カナユキ
7章 -悪意が踊る夢の世界-
44/52

44.悪夢の先へ

 青緑の世界では異物であるエンプーサ以外の3人へ、カマキリたちは襲いかからない。

 上位者への恐怖か、それともエンプーサからの指示なのか。

 今も変わらず蟲毒の循環を繰り返している。


「いやいや、待ってよネームレス。女の子? 君の口からそんな言葉が出てくること自体がビックリなんだけど」

「……ただの生き物か、それとも悪夢か。どれなの?」


 興味を持ったのは2人。

 エンプーサは男へ似合わないと半ば笑いつつ話しかけ、プーケは純粋な疑問として首をかしげて問いかける。


 男はたいした抑揚の変化もなく、話を続ける。


「心外だな、エンプ。そう称するのが相応しいからそう言っただけさ。そしてプーケ。実に惜しい答えだね」

「惜しいってどういう意味」

「相手はただの生き物(にんげん)と悪夢の混血児(ダブル)。生き物と入れ替わるDoppel(ドッペル)と掛かっていて面白いだろ」

「――あー、アレ(・・)ね。何だ生きてたんだ」


 独りでに納得し始めるエンプーサ。

 更に首をかしげるプーケとは違い、ザントは目を伏せては静かに自ら出した答えを口にしていく。


「つまりは、貴様が作った実験体の出来を見物か。オレには関係が無いな」


 棺を背負い3人へ背を向けるザント。

 しかしその歩みは、男のたった一言で引き止められる。


「君らの言う、"死神"の妹だとしてもザントは帰るかい?」

「……相も変わらず苛立たしいほど口が回るな、名無し」

「そう、ザントのお気に入り。ナイトメアのオネロス、"死神"こと有栖川藍花をコピーした花の悪夢。それが今回のお祭りの目玉」


 男に表情は生まれない。

 けれども両腕を広げて嬉々として語る彼からは、大いに笑っている事が見て取れる。


「モモカ――いや、今は八重咲撫花と呼ばれている少女。3人とも知っている子だよ」

「ナデカが悪夢とか何を言っているのネームレス。馬鹿な事を言わないで」

「プーケの言いたい事は分かるよ。あの子は今、人間そのもの。証拠は関係者の記憶しか無いから、君が納得できないのは当然」


 でもね……

 そう付け加える男の言葉を、プーケは苦い顔をして待つことになる。


 顔が無い、表情が無い、声にこもった感情をそのまま受け取って良いのか分からない。

 穏やかに笑っていることを彷彿とさせる声も、虚空に描いた夢のように儚く感じる。


「それで良いんだよ。これから私たちは悪夢では無くなるのだから。――悪夢が生物から生まれ、生物と入れ替わり、単身で生物となっていく。そう、悪夢(わたしたち)は現実に行けるんだよ」


 プーケだけが、何を言っているのか分からないと立ち尽くす。

 エンプーサは詰まらなそうに欠伸をし、ザントは依然沈黙したまま。


 生物が夢を見ることで生まれる悪夢が、生みの親である生物と入れ替わる術を手に入れた上、入れ替わる事無く生物として現実に誕生する。

 そんな夢物語を、顔の無い男は平然と口にしていく。


「プーケと撫花は友達なんだろう? 人間になれば今以上にあの子と一緒に居られる。一緒に学校に通ったり、休日に遊びに出かけたり。もちろん"鍵姫"の明日見優月とも一緒になれるはずだ。こんな夢が叶うのは面白いと思わないか?」

「それは……」


 口ごもるプーケは、男の示した提案に思わぬ魅力を感じてしまう。

 友達と一緒に眠りにつけるというのは、彼女にとって見届ける以上に心惹かれる事柄で。

 けれども男の言葉が真実か分からない為、うまく言葉を見つけられない。


「ザントはそうだね。長い付き合いだ。君が天命を全うする事を願っているよ」

「言葉を持たぬのなら疾くと口を結べ、名無し。此度の余興はオレには何ら関りは無い」


 投げかけた言葉を切って捨てるザントに、男は肩をすくめる。

 最後の一人、エンプーサへ顔を向ける男は彼の徐々に崩れていく表情を見るや否や、言葉を紡ぎ出すことを止める。


「"鍵姫"の名前が出るって事は、あの子がそうだったんだ。――どうりでそそる訳だ。ボクまださ、人間の血が混ざった悪夢は食べたことないんだ」

「ここは抑えてくれエンプ。また4年前と同じことをされると私も困る」

「あれはナイトメア狙いだったんだけど、つい先走ってしまってね。うんそうだね、そうなると」


 卑しく歪む笑みがプーケへと向けられる。

 唇を這う舌、荒れる呼吸、熱を帯びて溶けた瞳に彼女を映しながらエンプーサは近寄っていく。


 一歩一歩近寄るたびに青ざめていくプーケの肩を、エンプーサは右手で抱き寄せる。

 空いた左手を彼女の顎に当てて上を向かせては、頬を赤く染める。


「君はアレの友達なんだよね、プーケ。なら君を――アレの前で食べたらどんな風に泣くと思う?」

「……ッ!」


 エンプーサを押しのけるプーケは、一目散に背を向けて走り出す。

 揺らめく黒い風を生み出しては身を包み、青緑の世界から彼女の姿は消えてなくなる。


 笑いの止まらないエンプーサは左足から体を白に輝く青銅へと変えていく。

 全身を青銅に変えたエンプーサは、白から鈍い緑に変色してく体を土へ還すように崩していく。


 取り残されたのは、二人のやり取りを何も言わず見ていたザントと男だけ。


「一応聞くけど、ザントは見に行くかい?」

「知らん。奴らがどうなろうと関係ない。貴様の言う混血があの娘だと言うのなら、語るに及ばず」

「そうか」


 お互いに背を向けて世界から姿を消す。

 残る青緑の世界はカマキリたちを残して少しずつ、少しずつ幕を下ろしていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ