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Ωneiloss -夢の世界で変身!-  作者: 薪原カナユキ
6章 -αlice in Nightmare-
35/52

35.Sister

 青い空からは暖かい日の光が降り注ぐ。

 緑が芽吹く地面には、鮮やかな草花が咲いている。


 白い花を咲かせ、四つ葉を揺らすのはシロツメクサ。

 紅紫の花を踊らせるのは、レンゲソウ。

 それらを飾り立てるのは、転がるアクアマリンに崩れた大理石。

 透いた水色の花びらが風に舞い、海色の小鳥たちは伸び伸びと空という大海へ翼を広げる。


「ねぇ、お姉ちゃん」


 肩まで伸びた黒髪の背中へわたしは呼びかける。

 水色と白の清廉なエプロンドレスに、赤いパンプス。

 胸元には青い宝石で作られた一輪の花が、リボンと共に飾られている。


 でも、目元に陰がかかり大好きな人の顔をちゃんと見ることができない。


「なに、■■。……ああ、これね。■■にあげようと思って作ってたんだけど、うまく出来なくて」


 振り返ったお姉ちゃんの手元には、お世辞にも綺麗とは言えないシロツメクサの花輪が握られていた。

 所々解れていて、、今にもバラバラになってしまいそうな、不器用な花輪。


 姉なりの努力は感じるし、精一杯の気持ちが入っているのは見ただけでも伝わってくる。


「**ちゃんはやり方だけ言うだけ言って、どっか行っちゃうし。手伝ってくれても良いのに」

「じゃあわたしがお手伝いする!」


 頬を膨らませてむくれるお姉ちゃんに抱き着くと、頭を撫でてくれる。

 それじゃあ■■の花輪は一緒に作ろうか、と今持っている花輪を自分の頭へ乗せるので、今度はわたしが頬を膨らませる。


「むぅー、わたしはお姉ちゃんのが欲しい」

「わたしは■■にはもっと綺麗なのを付けて欲しいの。二人で一緒に作ったものの方が、■■も嬉しいでしょう?」

「わたしが作ったのをお姉ちゃんにかぶって欲しかったのに」


 困らせているのは分かっている。

 それでもわたしはお姉ちゃんが作ったものがこの世で一番欲しいもので、でもお姉ちゃんと一緒に作ったものもそれと同じぐらいに欲しくて。


「じゃあ、二人で一緒に二つ作ろう。そうすれば、お揃いだよ」

「うん! 大好きお姉ちゃん!」


 悩み困っていた顔は次第にはにかみ、その答えにわたしはさらにお姉ちゃんへ抱き着く。

 猫のように頬をすり合わせて、額を合わせては口と口が触れ合うぐらいに見つめ合い、思いつく限りの大好きをお姉ちゃんへ伝える。


「わたしも大好きだよ、■■!」


 それに応えてくれるお姉ちゃんも、ちょっと苦しいぐらいに抱きしめてくれたし、手と手を繋いだり耳元で何度も何度も大好きって言ってくれた。


 わたしとお姉ちゃんしかいない、青く澄んだ不思議の国。

 まるで空と海が繋がっていて、幸せを運ぶ青い鳥が祝福を歌い、生える花々がわたしたちを優しく包み込んでくれる。


 大好きな人と、ずっと永遠にいつまでもどこへだって、手を繋いで寄り添って一緒に入れる夢の楽園。


 いつまでもお姉ちゃんを好きだって言える。

 いつまでも大好きなお姉ちゃんを見ていられる。

 いつまでも大好きなお姉ちゃんへ想いを伝えられる。


「わたしと■■なら、どんなことでもできる」

「お姉ちゃんと一緒なら、何でもできるよ!」


 そう、いつまでも。

 例えこの世界が深く深く沈んだとしても、瞳に映る■■が笑い続けている限り――



 体を揺すぶられる。

 目を開いた先に見えてきたのは、変身を解いた優月さんの顔。

 髪を二つに分けて結われた黄色とピンクのヘアゴムを見ると、不思議と口元が緩む。


「わたし、気を失ってた……?」

「ええ、ほんの数秒だけど。私は失敗したけど、貴女はどうだった」

「わたしは――」


 あれは確かにわたしの記憶なのだろう。

 実感が薄いからまだ飲み込めてはいないけれど、あれを嘘だというには覚えがある。


 だからこそ、あれしか思い出せなかったのが悔しい。

 あの世界はきっと夢の世界。

 だとしたらわたしは昔に明晰夢を見ていて、ドッペルと会っていたのだろうか。

 それにわたしがお姉ちゃんと言っていた、あの女の子は誰なのか。

 本当に姉妹なのだとしたら、二人でオネロスをやっていたのかもしれない。


「少し思い出せた、と思う。思い出せたと言っても、わたしにお姉ちゃんがいたって事と、昔も夢の世界に来ていたって事ぐらい」

「それはまた、先程の話に戻りそうな記憶ですね」

「ウート、ちょっと待ちなさい。それなら撫花の姉の線は無い? 現実で会ったのもその姉なら有り得るわ」

「だったら、何であの人はどこかに行っちゃったんだろう」


 わたしのお姉ちゃんなのなら、記憶の通りなら、思いっきり抱きしめてくれてもいいはずだ。

 それが苦い顔をしてわたしから距離を取る理由が分からない。


「ナデカなら自分の姿をコピーしたドッペルを、姉と呼んでもおかしくないメア。幼い時だったら尚更メア」


 変身を解除したメアが、名案とでもいうように胸を張る。

 そう言われるとそうかもと思ってしまったわたしは、そこまで頭は悪くないと無言でメアの全身を撫でる。


「ひとまず八重咲様の仰っていた方の実在が、真実味を帯びてきましたね。姉にせよドッペルにせよ、探してみる価値は有りそうです」

「探すと言っても、私たちは学校があるから休日ぐらいしか動けないわよ」

「平日の間は情報を集めるのですよ、お嬢様。何事も準備は必要です。ただ足で探すだけでは非効率です」


 わたしと優月さんの目が合う。

 情報と言ってもわたしが覚えている範囲しかないのだが、どう集めろというのだろうか。


 それをみんなで考えるだけで、今夜の時間が過ぎていった。

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