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Ωneiloss -夢の世界で変身!-  作者: 薪原カナユキ
5章 -金月が煌めき花咲き乱れる-
29/52

29.砂漠に咲き乱れるは夢の花

 わたしは両手を胸に当てて、優月さんは鍵を手に持ち空へ掲げる。

 月が見下ろす町の中、わたしたちは旅立つために装いを変える。

 夢と空を取り戻すために、砂漠へ挑む姿に。


「――変身」

「――開門(Gate set)月食よ(Eclipse)閉ざせ(lock)


 初めての一人での変身。

 後ろからメアの声が聞こえないし、いつもとは違い力がみなぎる感覚も少ない。

 わたし一人ではこの程度しか力が無いと実感が湧きあがる。

 メアがいたからこそ今までの力が出せていたのが、ようやく分かって来た。


「また浮かない顔をして。プーケにそんなに好かれたいの?」

「あー、あの好意はわたしもちょっと嫌だな。……そうだよね。今は落ち込んでいられない」


 それに、決して一人ではない。

 昔みたいに一人暗闇の中にいる訳では無い。

 隣には、闇を照らしてくれる優しい月がいるのだから。


「じゃあ、行くわよ」

「うん。――プーケさん。いますか?」


 空へ向けて声をかける。

 現実なら途方もない行為。

 そんなことで反応する人なんてほとんどいないだろうし、声が届くことも無いだろう。


 けれどもここは夢の世界。

 そんな常識は存在しないし、むしろその発想が非常識だ。


「お呼ばれ万歳、久しぶりだね。二人とも」


 空に亀裂が入り落ちてくるのは黒い鉱石。

 わたしたちの目の前で地面へ衝突するかと思いきや、直前で静止して石が割れる。

 中から出てきたのは、相も変わらず眠そうなプーケさん。


 欠伸を手で押さえながら出てきた彼女の恰好は、やっぱりどうかと思うTシャツ一枚のみ。

 ここには女性しかいないとはいえ、部屋着同然の恰好は問題だと思う。

 ドッペルって、やっぱり元人間でないと性別を気にする人が少ないのかな。


「それじゃあ早速行くけど、本当に大丈夫? 特にユヅキ。ザントの世界は一筋縄じゃ行かないよ」

「気合で何とかするわよ。要は眠る前に助けられれば良いんだから」

「わたしも大丈夫。眠くなったら頬をつねってでも起きてみせるよ」


 本当にそれで眠気を紛らわせるかと言われると、たぶん無理。

 だからわたしも、優月さんと同じく助けるまで起きていられれば良いと思っている。


「そっかー。なら、行こうか」


 わたしたちとは違い緊張感の無いプーケさんは両手を合わせる。

 鳴らすまで行かない、やんわりと揃えられた両手。


 それを合図に、優月さんの世界から色が失われる。

 穏やかな夜の街は灰色となり、砂となって崩れていく。

 金色の満月は青白い光を放ち始め、欠けた部分からは砂が零れ落ちていく。

 灰色の世界はやがて色を取り戻し、一面砂漠の海へと変貌する。

 肌寒い気候は問答無用で極寒へと変わり、息が白く吐き出される。


 ――世界は、優しい月を失い全てを奪われた。


「来たか。奪還者よ」


 そして、ここが世界の中心であると棺桶へ座る白銀の老いた巨漢。

 その両脇には無造作に放置されている、眠ったメアとスカイの姿があった。


 胸の中が熱くなる。

 両手を握りしめて、力を込めた両足に花びらが舞い始める。

 視界が狭くなり、メアとスカイに目が行きそうになるのを、さらに熱を上げて彼へ集中する。

 二人を助けるのは優月さんの役目なのだから、わたしは彼を止める。


 たったそれだけで良いんだ。


「プロヴァト=ケール。貴様もこの戦場(いくさば)に馳せ参じた者か?」

「違うよ。戦うのはこの二人だけ」


 短いやり取りで、冥幽夜会(めいゆうやかい)の二人は立場を示す。

 彼の視線がプーケさんからわたしに移ったその時に、地面を蹴りつける。


 砂と花びらが舞い、赤い直線を描いてザント=アルターへ突撃する。

 スカイと一緒に跳んでいた時よりも遅い。

 けれど、音の速さの一歩手前までは到達している。


「うぁぁぁぁあああああ!」


 繰り出した右こぶしからは桃色の光が放たれる。

 当たる直前で左手で取られたけれど、構わない。

 少しでも彼の気を引ければいいのだ。


「温い。所詮只人(ただびと)か。悪夢(われら)がいなければ、この程度。我が世界法則を超えたからなんだ。超えただけではないか」

「……ッ! ああああああぁぁぁぁぁ!」


 光が消える間もなく握った右手をそのまま握り潰される。

 骨までには至っていない。

 実際には握った指とかが肉に食い込む程度で、我慢すれば動かせる。


 そのまま地面に足を付けず、空間を蹴る。

 右腕のことは考えずに、左手でもう一度殴りかかる。

 次は顔を狙ったのだが、半身を逸らされて虚しく拳が空を切る。


「――……ぅぁっ!」


 そのまま構えを取られて、わたしのお腹に握られた拳がねじ込まれる。

 直前で片手も放しており、大ぶりのストレートでわたしの体が弾かれる。


 一瞬で優月さんとプーケさんの間をすり抜け、何度も砂場を転げて跳ねる。

 ようやく落ちて滑り跡を残した時には、彼の姿が点に近いほどの距離までになっていた。


 他の事が考えられないくらい痛むお腹。

 それを拒否するように頭に霧がかかり始めたので、がむしゃらに頭を振るう。

 この霧を受け入れたら、眠りに落ちることが直感的に分かる。


「来るのは我が同類だけか」

「な訳無いでしょう」

「ほう……」


 足元がふら付いている優月さんは、次々と世界に黄色の炎を灯していく。

 まだ眠っていない。

 でも、灯された火は今まで見た中で一番弱い。


 まだ無事な左手で体を支えながら立ち上がり、一歩でも多く前に進む。

 こんなのは傷の内に入らないはずだと、自分に言い聞かせて。


「アンタ、略奪者なんだって? なら私からも奪ってみなさいよ。天才である私の才能を!」

「自称"天才"、か。哀れな。ただ出来るというだけではないか」


 世界の砂が巻き上がる。

 空が覆いつくされる程の砂嵐が、わたしたちを無慈悲に襲いかかる。

 目をまともに開くこともできないし、灯された炎を簡単に消されていく。


「そう、出来るだけよ知ってるわ。他人の顔を窺って、自分の意思じゃ碌な事出来ない私よ。そんな私なのに、あの子は一緒だったら出来ない事は無いって言ってくれたの。馬鹿でしょう本当」


 ザント=アルターは答えない。

 プーケさんも砂嵐を気にもせず、船を漕いでいる。

 わたしの足は砂にとられて、進まない。

 周りを照らしていた炎も、すでに残り数個。


「そんな訳無いのに。出来ないから、こうして二人を助けに行くことになって。それでも私の手を取ってここまで連れてきて」


 優月さんが後ろへ倒れ込む。

 黄色の炎は消され、砂嵐も止んでいく。

 眠気に対抗して使おうとしたパンタスは、彼の手によって無効化されたのだろう。


「だったら、良いわよ」


 倒れ込む優月さんを、噴き上げた黄金の炎が支え込む。

 現れたのは彼女が変身した際に使っていた豪華な椅子。

 それに背を預けた彼女は、世界に命令する。


「馬鹿と天才は紙一重って言うでしょう。なら撫花(ばか)が出来て、私が出来ない訳無いでしょう。全部試してやるわよ」

「優月さん、ひどいよ。あまりバカバカ言わないで」


 届いているかは分からないけれど、反論はする。


「――開錠(Open)


 空に金色の流れ星が流れ始める。

 それは月からやって来た黄金の使い魔たち。

 翼の生えた鋏に、首無しペガサスへ乗るデュラハン。

 楽器たちが集う音楽隊に、黄色の炎を蝋燭に灯したカボチャのランタン。


 地面からは口から黄色い炎を噴く狼たちに、銃を持ったブリキの兵隊たち。

 ガシャガシャと開閉して踊るアイアンメイデンに、関節が黄色の炎で出来た人形たちが這い出てくる。


 その数はとても数え切れなくて、あっという間に彼を囲んでいく。


「成る程、多勢に無勢。この世の真理だな。だがどうした。この程度では砂漠に水を撒くのと同義だぞ」

「当然。見掛け倒しなんだから、牽制にもならないわよ。……それじゃあ、後はお願いね。撫花」


 呆れるザント=アルターを他所に、わたしへ投げかけられた言葉を胸に地面を蹴る。

 意図は分からないけれど、こうすればいいのだと思った。

 訳も分からず彼に向けて走り出す。


「……ああ。そういうこと」


 プーケさんが何かを見つけた時、彼の近くに放置されていたメアとスカイの体が黄色の炎に包まれる。

 彼が気づいて目線を配った時には炎は消えて、わたしと優月さんの下に一つずつ炎が出現する。

 わたしの所にはメアが。

 優月さんの膝の上にはスカイが現れる。


「ザント手を抜きすぎ。わざと小さい火種を見逃したでしょう」

「知らんな。老眼に何を求める」

「うわぁ。アタシたちの中で一番目が良い人が何か言ってるー」


 眠ったままのメアを抱えたまま、まだ走る。

 零れる雫を後ろへ流して、浮かび上がった言葉を叫ぶ。

 目を覚まして、またわたしと一緒に夢を歩こうって。

 夢を想う花は、わたしたちでなくちゃ、咲かないんだって。


 また貴方に会えて嬉しいって、伝えたいから。


「――変身!」


 この身を夢に咲き誇る、想いの花に変えよう。

 砂漠の冷たい夜でも、永遠に咲ける、そんな花に。


夢想(むそう)開花(かいか)!」


 再び大地を蹴り、赤い直線を描いていく。

 空へ舞う花びらは遅れた音に吹き飛ばされ、優月さんが呼び出した彼らも申し訳ないけれど巻き込んでいく。

 黄色の炎へ還る彼らを見る間もなくザント=アルターへ到達して、握る感覚が無いけれど右手を握りしめる。


 さっきのは助けるための二撃。

 だから今度は、逃げるために一撃を放つ。


『起き抜けにこれはきついメアよ、ナデカ』

「ごめんね。でも、すぐに終わるから。待ってて、メア」


 片腕で防がれて、放った光もかき消される。

 目の前の彼は特に何もなく真顔のまま。

 取り戻されたから悔しがりもせず、かと言ってナイトメアみたいに面白いものを見たと笑う訳でもない。


 全部が全部予定通り。

 その言葉が相応しい、面白みのない表情。


「らしくもなく人質を取り、プロヴァト=ケールの動向を見逃し、下らぬ茶番をこなしてコレか。まぁ良いだろう」


 反撃は無く、右手が振り払われる。

 そのまま彼は足元の棺桶を拾い上げると、背を向けて歩き始める。


「死神の縁者だ。我が世界を超えただけでも、納得しよう」

「縁者って……。わたしたちはアリスさんに会いに行くことはできないんですけれど」

『そうメア。それにその言い様だと、メアたちを育てたみたいな言い方メア』


 彼は止まらない。

 何もかもが中途半端で、砂漠に針を通す感覚だけが残る。

 起きたばかりのメアも、状況が分かっていないのに疑問を投げかけている。


「教育だと? 貴様の目は節穴か。生き死にを賭けている時点でそれは教えでは無い」


 そう言い残して、巻き上がった砂に彼は呑まれて姿を消す。

 世界も同じく、巻き上がった砂が月を覆い隠そうとしている。


「ザント飽きたのかな。とりあえず、全員この子の世界に帰しちゃうね」

「う、うん。お願いプーケさん」


 椅子に寄りかかって寝ている優月さんの頬を突きながら、プーケさんは力を使う。

 灰色に染まる世界は、ここに来た時と同じ現象だ。


『……誰メア。この痴女は』

「プーケさんは二人を助けるお手伝いをしてくれた、ドッペルだよ。道案内だけだけど」

『ユヅキが認めているのなら、一応大丈夫な奴メアね』

「わたしが頼んだ人じゃダメなの?」

『ナデカはいざとなったら誰にでも頭を下げそうだから、駄目メア』


 そのいざとなった時だから、ザント=アルターと同じ冥幽夜会(めいゆうやかい)のプーケさんがここにいる訳なんだけど。

 なおさら怒られそうなので、言わないでおく。


「それじゃあ、またね。ナデカ、ユヅキ」


 世界が暗転する中、プーケさんは言い残す。

 アタシも帰らなくちゃと、わたしに手を振って。

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