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Ωneiloss -夢の世界で変身!-  作者: 薪原カナユキ
4章 -花咲く月下に嘲笑は踊る-
17/52

17.花鳥の舞う天空

 落ちていく。

 閉じた瞳越しに届く、眩しい光。

 意識が重くなる時とは違い、今は全身は軽くはっきりしている。

 水へ沈むのとは全く別の感覚に、理解が追い付かず目を開ける。


 広がっているのは、一面の青空。

 真上も、真横も。

 さらに言えば背中側も、何もかも。

 あるのは青い空と白い雲だけ。


「ええええええええぇぇぇぇぇっ!」


 バタバタと服がはためくうるさい音を通り越して、わたしの声が空に消えていく。


「何これ何これ、えっちょっと待って待てっよ。落ちてるえでも、地面は見えないし……あぁぁもう!」


 これは夢の世界なのは理解できる。

 だけど、今までと違いすぎてパニックになる。


 これまでもよく分からない世界ではあったけど、足を落ち着かせる地面はどこもあった。

 ここはそれが一切見えない。


 落ちる夢にはそんな地面(もの)は不要だとばかりに、前後不覚になる永遠の空。


「またメアもいないし、優月さんもウートさんも……」


 キラキラと太陽へ雫が落ちていく。

 現実の太陽より大きいけど、太陽が出ている方向が上だろう。

 そうでもしないと、気持ちが落ち着かない。


「うぅ……こんなのわたしだけじゃ、どうしようもないよ」


 落ちていることに関しては、もうそれ以上の事はできないので諦める。

 空に身を委ねて、遠ざからない太陽を背にする。


 変身しなくてもパンタスは使えることは分かっているが、こんな所で足場を出しても一緒に落ちていくだけ。

 仮に空に浮かぶ足場を出せても、変身していないので……


(――考えるんじゃなかった)


 想像しただけで気持ち悪くなる。

 ただでさえ、落ちているのを自覚したらお腹の辺りが浮いている感じがして、いい気分ではない。

 上に落ちていく髪も、まとめず伸ばしたままなので、引っ張られて痛い。


「このっ……!」


 本来なら髪が痛むから止めなさいと、お義母さんから怒られるだろうがここは夢の世界。

 無理矢理両手でまとめて、服についているフードを被って抑えつける。

 今回の服装はノースリーブの薄水色のパーカーに、白のキュロットスカート。

 フードがなかったら、雑にバレットとかで留めていたと思う。


 決して、今のまとめ方が丁寧とは言えないけど。


「と、とにかく何か見つけよう!」


 風で飛ばされない為にフードを抑えながら、改めて周りを見渡す。

 目が乾いてたびたび痛くなるけど、そうは言ってられない。


「空、雲、太陽。後はー空、空、空」


 段々とやる気が無くなっていく。

 あまりにも変わらない光景は、落ちている実感を無くしていき、気を抜くと落ちていないと思ってしまう。


「はぁ……ん?」


 正真正銘何もできないと思ったところに、黒い点を見つける。

 わたしよりもずっと下にある点は、しかし一瞬で太陽へ向けて上昇していく。


 かすりもせず、数m先を通りすぎただけだったが、音もなく通った黒い影から突風が吹き付ける。

 すでに太陽の黒点になった影から、遅れて爆音が鳴り響く。


 わたしの体は衝撃波で吹き飛ばされるものの、反射的に体を丸めたお陰か、全身が痛いだけに収まった。

 耳鳴りもひどいけど、音はまだ聞こえる。


「なに、あれ」


 自分の声さえも遠く聞こえる。

 影が放っていた音は聞き覚えがあり、学校とかでも時々聞いたことがある音。


 低くうなる、動物とは違う鳴き声。

 通るときに何かを引き裂く、甲高い音。


 飛ぶ、空、動物ではない空を走る物――


「まさか、飛行機?」

「鳥メア! ナデカ!」


 耳元から大声で、メアの声が聞こえる。

 フードの端を見るとメアの顔の一部が見え、肩には何かが触れている感覚がある。


「えっ、メア!? いつからいたの」

「さっきの奴から飛び移ったんだメア。あれはでっかい鳥メアよ」

「鳥って、でもあんな音を出す鳥なんて」


 もしかして鳴き声?

 まさか、ううんでも、夢ならあり得なくはない。


 飛行機が飛ぶ音で鳴く鳥がいても、おかしくない。


「いや、無理があるって。それなら機械の鳥って言われた方が信じるよ!」

「細かいことは良いからすぐ変身するメア。ほらもう来るメア」

「――っ! 変身っ!」


 太陽へと消えた黒い点がまた見え始める。

 早さを考えると、もう遅いかもしれないけど、しないよりはマシだからガムシャラに叫ぶ。


 わたしの想いに合わせて、いつも以上の早さで変身が終わる。

 終わった頃には、黒い影との距離は肉眼で全体が見えるぐらいに迫っていた。

 いつもなら余裕のある距離。

 だけど今回の相手は瞬きをしただけで、足元にまで来ていた。


「……っぅ、くっ……ぁぁ……!」


 何でもいいと手についた物を握りしめ、ちょうど足元にきた引っ掛かりに足を掛けて、全身に力を込める。


 ものすごい風と、気を抜くと意識を持っていかれる圧力。

 足場と言うには無理があり、かといって離してしまうと次のチャンスがいつかは分からない。


『羽根に、これは金属メア』

(羽根と金属? それじゃあ、さっきわたしが言った、金属の鳥はもしかして間違ってないのかな)

『鳥と金属が混ざってるメア。半分動物のドッペルメア!』

「……ぇ……ぅっ!」


 メアがおそらくドッペルだと思う相手を見ていると、それを嫌がるように体が振り回される。


 一瞬で前後が分からなくなり、手を離してしまう。

 遠く離れていく相手を見ると、全身を回転させてわたしたちを振り落としたみたいだ。


 数秒で点に近くなっていく相手は、間違いなく鳥ではあった。

 ただその大きさは、よく見る鳥の数倍とかではなく、人間でも言い表せない。

 近いのは何だろうか。


 自分で言った言葉が、しっくり来る大きさ。

 ――そう、飛行機と同じくらいだ。


『何なんだよ、お前ら。アレか。オネロスとかっていう奴かここまで来ても、俺の(ゆめ)を奪うっていうのか』


 空を伝って聞こえてくる、若い男性の声。

 声だけのイメージだが、活発な青年みたいな声だ。


『お前ら悪夢だったら何でも狩るんだろ。俺にこの空をくれた奴から聞いたぞ。――ふざけんなよ。俺はただ飛びたいだけなんだ!』

「ちょっと待って、わたしは――」


 落ちながらも周りを見渡す。

 声は空全体から聞こえるので役に立たず、目で相手を見つけるしかない。

 そうやって戸惑っていると、相手は影も見せずにわたしの傍を通りすぎる。


 またしても衝撃波が襲ってくる。

 慌てて体を丸めるが、空で転がされてせっかく慣れてきた上下の感覚が失われる。


『どうするメア。このままじゃ一方的にやられるメア』

「どうするって言われても」


 何かをする以前に、彼の早さにまったく追い付けない。

 ただでさえ初めての状況で、それに慣れるのが精一杯なのだ。


「優月さんたちは見かけなかった? あの二人がいれば――。ぃっ!」

『いたらこうなってないメア。メアたちで何とかしないとメア』


 話している時でも構わず、衝撃波を打ち込まれる。

 二人がいなくて、何もできないわたしが今できること。


 まぶしい太陽に目を細める。

 そうだ。

 想いをぶつけて、受け止める。

 下を向かず、前を向く。


 こうして丸まっていたら、誓いは果たせない。


「なら、話しましょう! ドッペルさん!」


 両手を広げて、遥かに続く青い空に想いを叫ぶ。

 叶うのなら、この空を照らす太陽と同じくらい、彼に(おもい)が届きますように。


『またやるメアか』

「うん。だってあの人は、人間だから」

『へぇ。狩人が狩猟対象に銃を降ろして話し合うって? 馬鹿かよ。その銃は何の為にあるんだよ』


 前より、彼の姿が見える。

 それでも速いものは速く、黒いがわたしの体を弾く。


 声を上げるや痛いとか思う前に、目の前が暗くなる。

 何も考えられない、何も感じない。


 それでも。


「わ……わたし、は! 八重咲撫花って言います!」


 それで止まるつもりはない。

 声を張り上げて、霞んだ意識を引き戻す。


「高校生で、えっと……好きな動物は猫です!」

『鳥相手に猫が好きって、どうなんだメア』

『おいおい、音速の物体に当たって生きてるとか、オネロスって化け物かよ』

「貴方はどうして、悪夢と入れ替わったんですか。聞かせてください」

『こいつ、まさか……』


 すごいメアね、とメアが何かため息をついている。

 意識を戻せたのは良いけど、代わりに全身の痛みが嫌なほど主張してくる。

 喋る度に痛いし、頭痛もひどい。


「わたしがオネロスをやっているのは、正直成り行きです。大きな目標とか、自慢できる事なんてありません」


 左腕が鈍い。

 動く右腕も無事とは言えないけど、それでも目許から空へ流れ星をこぼす事はできる。


「そして今までやったことも否定しません。事実は変わらない。だから――」


 口にすることが、怖い。

 心のどこかで、そう言うことだっていうのは、自覚していた。

 けど、そこから逃げるのは違うから。


 それから逃げたら、あの人たちの想いが嘘になる。


「――だから、貴方に殺されてもいいです」


 恐怖を笑顔で押し込める。

 消さずに、黒い感情を胸に秘める。


 どっちなんだろう。

 殺したから、殺されるのも当然なのか。

 それとも、彼と入れ替わっても良いと、頷いたのか。

 自分でも分からない気持ちを込める。


『……ハッ』


 鼻で笑われる。

 来ると思っていた影は未だに来ない。

 わたしの体は、秘めた感情と同じく落ちていく。


『そんなに聞きたいなら、俺に追い付いてみせろ!』

「――はいっ!」

『はい、って待つメア。どうやって飛ぶつもりメア』


 かけられた声に、頬が緩み胸が暖かくなる。

 隠した黒い感情が燃えて、愉しい(うれしい)になっていく。


「飛ぶならまず、翼だよね」

『そうだけどメア。メアも手伝うけどうまくいくメアか』

「とりあえず、やろう」


 空を舞う天使をイメージする。

 背中に鳥の翼を生やして、自由にこの空を飛ぶ。


 わたしの体から花びらが散り、思い通りに背中に集まっていく。


「行くよ」


 集まった桃色の花びらは、羽根に変わり空へ散る。

 出来上がったのは一対の桃色の翼。

 赤い光を放ちながら羽ばたく翼は、空へ落ちていくのを和らげる。


『まさかの一発メアか』

「いっけぇぇぇええええ!」


 大きく広げられた翼は、わたしの体を空へ走らせるために力強く降り下ろされる。


 体が浮いた感覚に遅れて、砕ける音が聞こえる。


『あーやっぱりメアか』


 何だっただろうか。

 確か何かのお話に、ろうそくで作った翼で太陽に近付くお話があった気がする。

 そのお話は、ろうそくが熱で溶けて最後は落ちていく、悲しい結末だったと思う。


「ろうそくの翼が溶けて、落ちる話ってメアは知ってる?」

『知らないから後でユヅキとかに聞くメア。それよりどうするメア。追い付く以前の問題メアよ』

「うーん」


 空を飛ぶ、宙に浮く。

 それに近いのは見たことがあるような、そうでないような。


 冷や水をかけられた気分で考えていると、そもそも人が飛ぶのは無理なんじゃないかと思えてくる。

 それをできるようにするのが、夢ではあるのだが、実際飛べないので頭を抱えてしまう。


「……じゃあ」


 思い当たった事を即座に実行に移す。

 わたしも頭が悪い方法だと思うし、もうこれは飛ぶじゃない。


 わたしの想いを感じた花びらが、足元へ集まっていく。

 作られたのは、刺繍の蝶の羽。

 靴の側面に作られた羽は、踵に合わせて飾られたのでデザインの一種にも見える。


『靴の強化メアか。でも足場なんて無いから――。まさかメア』

「飛ばない、跳ぶよ。メア」


 足に力を込める。

 足底に赤い波紋が波打ち、落ちているけどしっかりとした感触がある。


 もう彼の姿は見えない。

 跳んでも追い付けないだろうから、もう一つ()んでみようと思う。


 わたしの周りを散らばる花びらが、赤い光を強めていく。

 空を蹴るわたしの視界には、次の瞬間には彼の全体の姿を見つける。


 体の所々が機械に置き換わった、巨大で凛とした半金属のワシ。

 足からは飛行機の物と似た噴射口が見え、背中にも鳥には絶対にない機械が取り付けられている。


『なっ、瞬間移動!? ふざけんじゃねぇぞ!』


 機械に覆われた頭から見開いた目が一瞬だけ見える。


 初めて夢の世界に来たわたしと、似ている反応。

 これでも見つけただけなので、それが証拠にまたしても距離が離される。


 綺麗な直線を描く飛行機雲を見送り、彼の気持ちを考えると懐かしくも悲しい気持ちが沸き上がる。

 おそらく彼はドッペルと入れ替わったばかりなのだろう。

 そんなところにわたしが落ちて来て、冷静になる時間が無い。

 逃げるので精いっぱいで、さっきの攻撃は当然のこと身を護るため。


 よく分からないものが突然現れて、追いかけられて、抵抗しても諦めてくれない。

 本当、嫌だよね。


「あの人も、本当はこんな気持ちだったのかな」

『最初の彼を思い出すのはいいメアけど、追いかけるのなら早くするメア』

「うん。後ろは任せたよ、メア」


 足に力を込めて跳躍する。

 一歩では足りないから、もう一歩、またもう一歩。

 これでもかと空を蹴る。


 赤色の定規で引いた直線が空に書かれていく。

 白く柔らかい曲線を、曲がることを知らない線が不格好に追いかける。


『まだまだ足りないメア』

「うん、まだまだ行けるよ!」


 彼に追い付きたい。

 その一心で空を蹴り続ける。

 足りない、まだ足りない、まだだ、もっと、速く、その先へ――


「回り道なんて知らない、真っ直ぐ一直線に」


 暗い気持ち(ざつねん)を空へ向けて燃やし尽くそう。

 灰になって、わたしに残るのは明るい気持ち(ほんしん)であれと。


 彼にちゃんと伝えたい。

 わたしの想いを。


「――跳べえええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


 花びらが舞い、赤い流れ星が白の軌跡に食らいつく。

 初めは曲線をたどり、何度も、何度も。

 速度の限界を超えて流れ星を輝かせる。


 鮮やかになっていく赤色は、その度に奇跡の先にいる鳥に迫っていく。



『ハッ、どうした。さっきの瞬間移動は使わないのか。あれを使えば一発だろう』

「使わない。少なくとも、もう貴方には。わたしは貴方に速さ(これ)で追いつきたいの!」

『狩人は何でも使うべきだろ。そんな意地はいらねぇだろ』


 先に行くドッペルから、10以上の光が別れる。

 ドッペル本人より遅く、一見投げ出されたのかと思ったがそれは違った。

 速度を上げてこちらに向かってくる光は、筒状の鉄の花火。


「ミサイル……」

『あれ何メア。とりあえず避けるメア、ナデカ』

「分かってる。メアはミサイルの位置だけ教えて」


 後ろ髪に付いているのに全体が見えているメアに、ミサイルの方向だけを見ることに専念してもらう。

 わたしも前に進むことだけに専念する。


 わたしの速度もありすぐに迫ってきたミサイルたちを潜り抜ける。

 真っ直ぐ跳び、当たりそうな物だけを蹴って足場にする。


 過ぎ去ったミサイルたちは爆発し、後ろの方で地味な花火となっていた。


『ナデカ、前メア! さっきのは囮メア!』

「――このまま行くよ!」

『メアアアアアァァァァァ……!』


 振り向いた時点で、飛んできてたミサイルたちは目前。

 今度は予想でもしていたのかすれ違う前に爆発が起こっていく。


 広がっていく炎色の花。

 飛び散る灰色の破片たちが、空にまかれる種子となる。


 わたしは構わず火の花へ飛び込み、突き抜ける。

 全身が熱い、飛んできた破片が全身を切っていく。

 でも、この程度で止まる気はない。


『――』


 ミサイルの爆発を抜けた辺りで、メアの声が途絶える。

 何かを言っているというのは分かるけど、肝心の声が聞こえない。

 せめて表情とかがあれば分かりそうだけど、今は髪型なので無理は言えない。


『ふざけんなよ。何当たり前のように音速を超えてるんだよ』


 音速?

 つまり、音の速さだよね。

 それを超えたってことは、音よりも速いってこと。


 それ以上の速さで動いているドッペルの声が聞こえるのは、たぶんこの世界の主だからだろう。


(でも、音を超えたぐらいじゃ彼に追い付けない)


 声では、想いを伝えられない事が沢山ある。

 それこそ、空に光る星の数だけ。


 なら音を超えたくらいじゃ伝えられないことは沢山ある。

 空に光る星の数よりも想いを伝えるのなら。


 ――光を超えるしかない(・・・・・・・・・)

 だから音なんかに、手間取ってる場合じゃない。


「行……き……ます!」


 聞こえたかは、伝わったかは分からない。

 それでも掛け声と共に力を込めて、この広い空を蹴る。


 瞬間。

 雲が消えて、一面に青い空だけが残る。


「――わああああぁぁぁぁ……」


 ため込んでいたものが一気に抜きだされる。

 追いかけていた白い雲も、機械の鳥も、何もかも。

 この空のように一切の暗さを置き去りする。

 明るく、眩しくて、ヒマワリの笑顔が降り注ぐ永遠の空。


 いつまでも跳んでいたくなる、真夏の地平線。


 嬉しくて嬉しくて、この想いを共有したくて堪らなくなる。

 こんな世界があったんだと、苦しくて辛い想いの先には、こんな世界が待っているのだと。

 教えてくれた人に振り返る。


「この世界は素敵です! ずっと、ずっと! 跳んでいたい!」


 今なら、本心から言える。

 貴方に殺されてもいいと、こんな空にわたしという花を咲かせられるのなら、迷うことは無い。


 ――嘘。

 今だけは、この人と跳んでいたい。

 願うが叶うのなら、美友ちゃんとはるちゃん。

 それにお義父さんお母さんに、優月さんとウートさん。

 お菓子の人やテンシさんとも、この空を見たい。


 できるのなら……


「お願いします」

『な、何だよ』

「わたしに、この空の跳び方を教えてください」


 この想いに雲がかからない内に、胸の中からさらけ出す。

 両手を両足を、大きく広げて花になろう。

 こんな風に空に咲く大きな花を咲かせたいと、彼に全身で伝えよう。


「これがわたしの(はな)です。受け取ってくれますか」

『――ったく。敵かと思えば、俺に飛び方を教えて欲しいって……』


 彼はわたしの横を通り過ぎて上へ上へと上昇する。

 綺麗な円を描いて、それは遊園地のジェットコースターを思わせる、とても大きな白い円。


『仕方ねぇ! 空を知りたいなら付いてこい!』

「はいっ!」


 そのまま一瞬でわたしを追い抜いた彼を、無邪気に追いかける。

 難しいことなんて考えない。

 中学校の時から分からなかった、元気いっぱいに遊ぶが、今分かった気がする。


『追い付くどころか追い抜きやがって。約束だ。俺の名前は……そうだな。"スカイ"とでも呼んでくれ。こんな姿になっちまったんだ。自由にやりたい』

「分かりました、スカイさん」

『さん付けなんていらねぇよ』

「はい、スカイ」


 それからも、ずっとずっとスカイの後を追い続けた。

 何十分も、何時間も。

 飽きるまで、満足するまで。


 この変わらない青い空を、いつまでの。


『俺はな、航空自衛隊のアクロバットチームに入りたかったんだ。ひたすら勉強も運動もして。――でも、駄目だったんだ』

「だからドッペルと、悪夢と入れ替わったんですか」

『丁度良いタイミングさ。最後のチャンスを逃して、もうどうでもいいやってところに、自由な空をくれてやるって。二つ返事で受けちまった』

「それで、この空ですか」

『ああ。俺の……俺だけの空。なのに突然お前が落ちてきて』

「ごめんなさい。わたし、夢を自由に行き来することができなくて、いつも知らない所なんです」

『俺も済まない。気が立ってたとはいえ、自衛官目指してた奴が女の子に手を上げるなんて、試験に受かる以前の問題だ』


 話しながらでも、スカイは色んな飛び方を見せてくれる。

 ヨーヨーにシザース、エルロン・ロール。

 インメルマン・ターンやループ。


 どれがどれかはまだよく分かってないけど、動きだけは目に焼き付ける。


『なぁ、俺はこれからどうなるんだ』

「……わたしは、貴方を倒したくないです」

『俺も、お前と争う気はもうない』


 赤の直線と白の曲線が、緩やかに空を描く筆を細める。

 丁寧に白の尾を引く鳥の周りを、わたしが飛び跳ねているので、青のキャンバスに赤いイタズラ書きが書かれ始める。


 紅白の曲芸は、もう終わり。

 後に残るのは澄んだ青い世界だけ。


『争うも何も、スカイはもうポベトルメア。仲間と戦う理由は無いメア』

『俺が、お前たちの仲間?』

『そうメア。こんだけメアを置き去りにして、二人だけ楽しそうに飛んでも仲間じゃないというつもりメアか』


 メアの言葉に、わたしとスカイは目を合わせる。


『現実に戻るつもりが無いのなら、今だけでもナデカの手をとるメア』

「……どうですか。スカイ」


 勢いをつけて彼の前へ跳ぶ。

 振り返り、手を差し出して、何度も体験してきた気持ちを思い出す。


 この気持ちは、そう。

 初めて出会った友達と、また次も会おうと約束する。

 終わりで始まりの帰り道。


『ああ、良いぜ。花を守る為に空を飛ぶ。――最高だ』


 日の暮れない真夏の空で、わたしは天を駆ける鳥と出会った。

 鳥の名前は、(スカイ)

 空の空から花を見守る、自由の鳥。

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