【イリアの基礎から分かる楽しい魔法講義】そもそも魔法って何?【不定期】
世界観説明補足的な
「どんな子かな、ちょっと緊張する」
王立魔法学園に通うイリアは王都の中級貴族エトワール家の前で珍しく緊張していた。王立魔法学園は生まれや身分は一切関係なく、魔法の技能と知識のみで入学を判定する。イリアもしがない平民の生まれだったが、その猛烈な知的好奇心によりほぼ知識のみの実力で入学を果たした。
そんな知識や技能があってもお金がない学園生に目をつけたのが貴族の家である。ガチな魔法使いに育てるならともかく、一般教養としての勉強なら学生で十分である。そんな訳でイリアもとある家の家庭教師に招かれていた。
イリアが意を決して呼び鈴を押すと、メイドが一人現れて案内してくれた。イリアの家の十倍ぐらいの大きさはあるが、王立魔法学園の内装を見慣れてしまったのでそんなに驚くほどでもない。
通された部屋にいたのは五歳ぐらいの子供だった。ちょうど本を読んでいたとこ
ろのようで、利発そうな顔立ちに見える。
「こんにちは、私が魔法を教えるイリア。よろしく」
イリアはあまり慣れない作り笑いを浮かべる。が、少女の方は試すような目でイリアを見る。
「ふーん。私ジェニファー。先生学生なのに本当に魔法詳しいの?」
「え? 私これでも筆記試験だけで言えば入学時トップなんだけど?」
二秒で作り笑いは消滅した。思わず相手が貴族の娘であることも忘れてマウントをとろうとしてしまう。
「じゃあ、早速私に魔法の何たるかを教えてよ」
「いいよ。まずそもそも魔法っていうのは魔力を現象に変換する手段なんだけど。あ、現象って分かる?」
「それくらい分かるよ。火が出たり傷が治ったりとかでしょ」
ジェニファーは頬を膨らませる。
「そうそう。それで魔力っていうのは何にでも宿ってる。炎とか水とか魔導書とかだけじゃなくて私たち自身にも」
「じゃあこのクッションにも宿ってるって言うの?」
そう言ってジェニファーは自分が座っているクッションを指さす。
「そうよ」
「じゃあ先生このクッションの魔力で魔法使ってよ」
「ちょっと待って。魔術師はみんなどんな魔力でも魔法使えると思ってる?」
「違うの? 先生実は魔法使えないんじゃないの?」
「違うって。専門職の魔術師はどの魔力を魔法に使えるのかっていうところで差別化されてるから。例えば一番王道とされる属性魔術師は炎とか水とか自分が使える属性に対応するものの魔力でなら魔法が使える」
「先生は何の魔力なら使えるの?」
「私は錬成師だから……とにかく、もし成人の儀で〈クッション魔術師〉に進化する人がいたらその人はクッションで魔法使えるんじゃない?」
ちなみに錬成師は魔力を持つ物質を変質させることは出来るが、自身で魔法を使うことはあまりない。
「あ、話題そらしたー! やっぱ魔法使えないんだ!」
「と、とにかく魔法使えなくても魔法の知識を教えるのに何の支障もないから! とにかく、将来属性魔術師を倒そうと思ったら炎も水も風も地面もない空間に閉じ込めれば勝てるよ」
「それ出来るなら大体の人に勝てると思うけど……」
「じゃあ次は黒魔術師を倒そうと思ったらどうしたらいいと思う?」
「真っ白の部屋に閉じ込める?」
「天才? ……と思わせて、別に黒魔術師は黒い物の魔力を使う魔術師じゃないんだ。黒魔術師は魔導書や杖などの魔道具の魔力を使う魔術師。魔道具は黒系統が多いからそう呼ばれてる」
「なーんだ」
「じゃあそれを踏まえて、魔術師と僧侶は両方魔法使うけどその違いって何だと思う?」
「僧侶は物じゃなくて神様から魔力を授かっているってことでしょ?」
「それは僧侶サイドの考え方だね。私たちの考えは違う。魔術師は自分以外の魔力を魔法に換えて、僧侶は自分の中の魔力を魔法に換えているだけ」
この辺は諸説あるが、魔術師内ではおおむねこの見解が支持されていて、僧侶の中ではジェニファーが言う説が支持されている。
「よく分かんないけど要するに周りに何がなくても魔法使える分、魔術師より僧侶の方が強いってこと?」
「斬新な解釈だけど間違ってはないかな。もし僧侶の暗殺者が現れたら手足を縛って安心しちゃだめだよ。きちんと意識を奪っておかないと」
「すごい、ためになるね」
ようやくジェニファーがイリアを尊敬の眼差しで見つめる。
(いや、これで尊敬されるのもどうなんだ?)
こいつなかなか癖があるな、とイリアは舌を巻いた。