凱旋
「お前、いつの間にそんな強い職業になったのか!?」
トロールを倒した俺たちに対して、ユーゴたちは驚きっぱなしであった。最初は安堵の色が濃かったが、徐々に俺への悔しさや驚愕、そして理不尽ながら怒りのようなものが満ちてくる。
「違う、符術師のままだ」
「何だと!? そんなに強い魔符を一体どうやって……くそ、それならもう一度パーティーを一緒に組まないか?」
さすがの俺もユーゴの言葉には唖然とする。と思ったら、
「え、嘘だろ、俺は!?」
パーティーの新参魔術師らしき男も動揺していた。そりゃそうだろう、せっかく新パーティーに加入したのに自分と同じ基本職の奴がスカウトされているのだから。だから俺は余裕を見せつつ答えてやる。
「おいおい、パーティーメンバーは大事にしてやれよ。それにパーティーは同じぐらいの実力の者同士で組む方がいいだろう?」
「……」
俺の言葉にユーゴは真っ赤な表情になったものの、沈黙した。そんな彼を見て俺は溜飲を下げる。
「行こうぜイリア」
「うん」
去り際、俺はトロールを倒した証である棍棒を奪い取っていると、ふとトロールの近くに紙きれが落ちているのを見つけた。一瞬それが何なのか引っかかったが、それよりも気分の良さが勝った。
「重い死にそう……」
トロールを倒した証として奪ってきた棍棒だったが、めっちゃ重かった。肩に担ぐようにして持っているが、肩が壊れそうな痛みがある。よくぞこんなものを振り回している奴を討伐出来たものだ、と謎の感慨がこみあげてすらくる。
「私持とうか?」
イリアが心配して声をかけてくれるが、一応こちらにもプライドがある。
「いや、絶対ギルドまで持っていくからな」
「……もう少し私のこと頼ってくれてもいいのに」
「何か言ったか?」
「いや、別に」
そんなこんなでようやくギルドまで戻って来た時には俺は疲弊しきって一歩も動けなくなっていた。
「なるほどな、こりゃ確かに難易度Bだ……」
そんなことを言っていると、奥からマスターが出てくる。
「お、ユーゴたちか。よくトロールを倒したな、てお前たちかよ!?」
マスターはトロールの棍棒を持ってきたのが俺たち二人だと知って驚愕する。思わず棍棒を凝視している。そんなに信じられないか。
「確かにしんどかったぜ……肩が壊れるかと思ったからな……」
「し、しかもこの棍棒は並みのトロールでは持てない、変異種が使うものではないか!」
「道理で重かった訳だ」
「いや、そう言う話じゃないと思うけど」
イリアが何か言っているが疲れすぎて耳に入ってこない。
「変異種のトロールなら難易度Aクラスの依頼だぜ? それをこんなに簡単に達成しちまうなんてな……全く、飛んだ番狂わせだ」
マスターはしばらく信じられないように俺たちと棍棒を交互に見る。そして観念したようにはあっと息を吐く。
「まあ実力は認めよう、報酬は報酬だ。それに変異種が出たんだから危険手当もプラスだし、この棍棒の料金も含めると……ほれ」
そう言ってマスターは金貨が入った袋を俺たちの前に置く。
「おおおおおおおおお!」
そもそも俺にとって金貨は一枚でも大金である。それがこんな……この袋だけで百枚ぐらいあるんじゃねえか!?
「すごいすごい、これだけあればまたすごい魔符が作れる!」
「俺も杖とか買っちゃおうかな!?……ところで二人パーティー、一ついい点を見つけたぞ」
「何? もしかして私と二人っきりとかそういう……」
なぜか顔を赤くするイリア。そんなイリアに俺は二人パーティーの単純にして明快な利点を告げる。
「二人だと報酬の分け前が多い」
そんなにお金が好きなのかな、と思って俺が理由を告げるとなぜかイリアはすごい嫌そうな顔でこちらを見てきた。
「金の亡者」
「何でだよ! さっきまでイリアも一緒に喜んでたじゃん!」
「自分で考えてみたら?」
「お前ら俺の前でイチャつくんじゃねえよ」
俺たちは結局、マスターに追い出されるようにしてギルドを出たのだった。