表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/29

変異種

 さて、依頼は受けたものの夜遅かったので、俺たちは一晩休んで翌朝ギルドの前で待ち合わせすることにした。

「おはよう」

 俺は朝があまり強くないのであくびをしながら向かうと、そこにはすでに目を充血させたイリアが待っていた。

「おはよう」

「どうした?」

「ようやく私が魂込めて作った魔符が使ってもらえると思うと、興奮して興奮して」

 まるで遠足前の子供みたいだ。だが、彼女は興奮していただけでなく徹夜して魔符を作っていたらしかった。

「じゃあこれをどうぞ」


 イリアが差し出した魔符を受け取る。俺はカスみたいな魔符しか見たことなかったが、イリアの魔符は違った。基本的に魔符は手のひらより大きい長方形ぐらいの紙である。そこに複雑な魔法の術式が描かれている。

 だが、Dランクなどのカスみたいな魔符とは密度が違うのだ。何かよく分からない記号でびっしり埋め尽くされている。ちなみに俺は魔術師とはいえ使える魔法を使うだけで理論には疎いので何が書いてあるのか分からない。


 そして一番の違いは魔符の周囲に魔力のオーラのようなものが醸し出されていることだ。何となく赤いオーラのものは炎属性魔法で、青いオーラのものは水属性魔法のような気がする。そしてオーラが特に濃いものが高ランクなのだろう。この魔符があれば難度Bの依頼もこなせそうな気がした。


 さて、俺たちが受けたトロール討伐の依頼はいたってシンプルだ。村から少し離れた山の中に、時々魔物がやってきては巣を作る場所がある。そのため定期的に討伐依頼が出て、誰も行かなければそのうち村長が遠くから腕の立つ冒険者を呼んでくる。

 なのだが、実際に歩いて行ってみると遠かった。今までオークとかを狩っていた場所は村の近くだったということを思い知らされた。

「疲れた……むしろトロールの巣に行くまでが大変だ」

「ほら頑張って。何か作ろうとしてる痕跡がある」

 イリアが指さすと、遠くに木造で砦のようなものが築かれている。その周辺にゴブリンらしき低級魔物がうろうろしている。気味の悪い緑色の皮膚をした一メートルほどの小さい棍棒を持った奴らである。これが見張りだろうか。

「とりあえずあいつらやっとくか」

「うん」

 試しに俺はそんなに強くなさそうな赤色の魔符を選ぶ。

「なんか無造作に選んでるけどそれ一応Aランクだから」

「え、まじかよ」

 確かにそもそもCランクにはオーラなんてなかったからな。俺が魔符を握りしめると脳裏に飛来する火球のイメージが浮かんでくる。


「ファイアーボール」


 俺の言葉とともに魔符が赤い魔力の塊となり、ゴブリンたちの方へ飛んでいく。ゴブリンたちは突然現れた濃密な魔力に本能的な危機を察したのか慌てて飛びのこうとするが遅かった。


ドカーン!!


 次の瞬間、炎が炸裂した。爆発に巻き込まれたゴブリンたちは木っ端みじんに吹き飛ばされる。

「うーん、オーバーキルしてしまったな」

 さて、ゴブリンを倒したついでに爆風で砦っぽい建造物の門も破壊されたので俺たちはその中に入っていく。木が焦げるにおいがかすかに漂っている。建造物は魔物が作った割にはしっかりしており、俺は多少違和感を覚えたがトロールだしそれくらいはやるのかもしれない。

 進んでいくと、不意に遠くからかすかに悲鳴が聞こえてくる。

「ん? 誰かいるのか?」

「行ってみよう」

 俺たちは小走りで奥の方へ向かう。近づいていくにつれ、徐々に戦闘音が聞こえてくる。


「うわああああああ」


 悲鳴まで聞こえてきた。というかその悲鳴聞いたことがあるんだが。そう思って砦っぽい建物の中に入るとそこには驚きの光景が広がっていた。

 一体の黒光りする鎧を身に着け、俺たちの身長よりも高い棍棒を振り回すトロールと、そいつから逃げ回るように戦う四人組。ユーゴ、アカネ、マリーとあと知らない魔術師っぽいやつだ。あれがアカネの知り合いの魔術師だろうか。あまりの穴埋めの速さに俺は少しむっとする。


「ユーゴ!?」

「え、お前ロアンじゃねえか!? 何でここに!?」

 ユーゴは俺を見て驚く。が、すぐに真顔になる。

「おいここはお前みたいな奴が来るところじゃない、ただのトロールでさえかなりの強敵なのに、こいつは変異種だ! 通常よりずっと強いぞ!」

 ご丁寧にも説明してくれるユーゴ。今もトロールの棍棒が振り下ろされ、ユーゴが必死で避けると今までユーゴが立っていた地面に穴が空いていた。


「じゃあせっかくだし一番強いの行ってみようか」

「おう」

 俺は持っている魔符から一番強そうなものを選ぶ。これか? 纏っている魔力は青色だった。手に取ると、頭の中に目の前で氷漬けにされるトロールのイメージが浮かぶ。


「絶対零度」


 俺が唱えると魔符は青色の魔力の塊となり、トロールの方へ飛んでいく。変異種は魔法も使えるのか、トロールは何か対抗魔法のようなものを発動する。が、そんな魔法を紙でも破くように打ち破り、魔力の塊はトロールに命中した。瞬間、離れたところにいる俺たちまで寒気を感じた。トロールの体中の水分という水分が氷結する。そしてそのままゆらりと倒れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ