深緑の双葉
急遽新パーティーを結成した俺たちは早速冒険者ギルドにやってきた。もう夜遅いし、冷静に考えるとパーティーは二人しかいないし、しかも俺には酒が入っているが、何事も勢いが大事だ。それに依頼を受けるだけなら酒が入っていても出来る。
俺たちが入っていくと深夜のギルドではマスターが眠そうに店番していた。
「お、開けとくもんだな。こんな時間にも人がやってくるなんて……てロアンじゃねえか。お前いつの間にパーティー組んだんだ!?」
俺が住んでいるマルタ村はそんなに大きくない村で、村の中であったことは一瞬で広まってしまう。だから俺がパーティーを追い出されたこともすでに知れ渡っているのだろう。特に冒険者ギルドのマスターならなおさらだ。
「あ、どうも。今日この村に来たイリアよ、よろしく」
イリアは片手を上げて言葉少なに挨拶する。
「まあそれはいいんだが、お前たち二人か?」
「いや、だって他に組む相手いないし」
すでに俺の同年代はあの三人しかいないし、今更一緒になるのは嫌だ。もちろん先輩冒険者もいるが、皆すでにパーティーを組んでしまっている。すでに出来上がっているパーティーに求められてもいないのに入っていくのは結構勇気がいる。
「確かに〈符術師〉と〈錬成師〉だったら相性はいいんだろうが……魔術師系統しかいないぞ? 前衛は? 回復は?」
マスターは真っ当なところをついて来る。とはいえ今更やめたり他の人と組んだりすることはありえない。俺は仲間外れにされていたところを彼女に救われたという気持ちもあるし、イリアも似たような気持ちがある(と信じている)。
「回復も符術で出来るから」
「前衛は私が出来なくもないわ」
言われてみればイリアは剣を腰に差していた。それに錬成師はアイテム作成には特化しているものの、戦闘中は大してすることがない。
「そう言えばイリアはその剣、使えるのか」
「ええ。錬成師の魔法だけで一人旅は出来ないから」
「それで剣覚える行動力すげえな」
俺は素直に感心する。魔術師が普段している勉強とは何の関係もない剣を覚えるのは並の努力では難しいだろう。が、マスターは相変わらず腕を組んで渋い顔をしている。
「そうは言っても危ないって。やめといた方がいいと思うけどな」
「いや、絶対受けるぞ。なあ?」
「うん」
俺たちは固い決意を見せる。そうなればギルドマスターに依頼を受けることを拒否することは出来ないはずだ。
「仕方ねえ、それじゃパーティー名を登録してくれ」
そう言ってマスターはパーティー名、リーダー、構成員と書かれた紙を差し出す。イリアはしれっとリーダーじゃない方に名前を書いて俺に渡す。
「何かいい名前あるリーダー?」
「しれっと俺をリーダーにするな。じゃあこれでどうだ」
『深緑の双葉』
緑は魔術師のイメージカラーらしい。魔導書の表紙や魔道具屋の看板にもしばしば緑は使われているし、イリアの制服も緑である。俺は魔術師が二人、というところからそんな名前を思いついた。それを見てイリアも無言で頷く。
「じゃあこれで」
「お前ら三人目以降入れる気ゼロかよ。いや、三つ葉になると信じよう。もういいや、ほれ依頼リストだ」
前の時は大体ユーゴが選んでいたので俺はいまいち選び方が分からない。イリアもこういうのを見るのは初めてのようで、首をかしげている。
「ロアン、何かいい感じの決めて」
「お、おう」
『深緑の双葉』記念すべき最初の依頼だ。ここでしょうもない依頼を選んでは男がすたる。そういえばユーゴが選んでいるのは大体難易度がDぐらいの依頼だった。だったら最低でもそれよりは上がいい。
しかしちょうどよく難易度Cの依頼がない。採集系とかだったらあるけど、探索できる人員がいないから戦闘だけで片付きそうなのがいいんだよな。うーん、ゴブリン討伐はD、スライムもD、ウルフもD+か。
そこで俺は一つの依頼に目が留まる。
『トロール討伐 難易度B』
「これだ!」
俺が興奮して依頼を指さすとイリアも頬を紅潮させて頷く。やはり最初の依頼だし、これぐらいがふさわしいか……などと思っていると目の前の紙がすっとなくなった。見るとマスターの手に先ほどの紙が握られている。
「おい、何すんだ」
「何すんだはこっちの台詞だ。初依頼で、しかも明らかに人数足りてないパーティーが調子乗ってんじゃねえ」
マスターはあくまで俺たちを弱小冒険者だと思っているようだった。
「でも私の魔符をゴブリン風情で試すのは嫌なんだけど」
が、イリアも一歩も退かない。
「別に試したって死ぬわけじゃないしいいだろうが。段階ってものがあるだろ」
「もういいわ、こうなったら依頼とか関係なくトロール倒そうよ」
考えてみれば符術師を探すために剣の練習をして一人旅をするような女である。見た目は華奢で薄幸そうなところはあるが、実はとんでもない行動力の持ち主だった。もちろん、イリアがそう言うなら俺に否やはない。それに報酬というよりは欲しいのは実績だしな。
「そうだな。さすがに倒したら報酬くれるだろ」
「くそ、まじかよ……」
こうしてマスターが呆れる中、俺たちは勝手に依頼を受けることにしたのだった。