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人間の変異種

「さて、今現在この地下室から脱出するには僕ら二人を倒さなければならない。僕は剣の腕には自信があるし、メリアはこの国最強の魔術師だ。君たちに勝ち目はないと言っても過言ではないだろう。そこで提案なんだが、僕らの仲間にならないかい?」

 王子は胡散臭げな笑みを浮かべる。だが、こんな奴に負けたくはないし、負けるつもりもない。


「あのときあの場にいた野次馬が不満を口にするだけで何もしない者たちだとすれば、お前たちは大義を理由に罪を犯す悪党だ! 大義があれば何をしても許される訳ではない!」

「大義になびかず脅しにも屈しないか。でも考えてみてくれたまえ。君たちかなりの実力だろう? もし成功すれば国の要職につけるよ。権力がいらないならお金でもマジックアイテムでも持っていけばいい。国庫にあるものを何でも大サービスだ」


 王子は大げさに手を広げてみせる。一応イリアを振り返ってみるが、彼女も首を横に振った。


「本当にいいのかい? ここで死ねば死んだという事実すら明らかにはならない。その上死体の脳もなくなる。嫌なことずくしだ」

「猶更そんな奴らに味方したくはないな。大体何で俺たちが負ける前提なんだ?」


 ここまで見た感じだと王子に魔力はない。魔術師の数で言えばメリアと一対一だ。いくら相手が宮廷魔術師とはいえ、こちらにはSSSランク魔符がある。負けるとは思えない。


「あなたも符術師でしょう? だったら最強の魔符を使ってみたいと思わない? 私なら作れるわ」

 メリアが別な視点から切り込んでくる。

「ちょっと、私ならこの女に負けないぐらいの魔符を作れるわ」

 不意にイリアが怒気を発する。

「宮廷魔術師といえど別に魔符は専門じゃない。魔符だけで言えば私に敵う者はいないわ。なんせ学園でずっと一人で魔符だけを作って生きてきたのだから」

 イリアは胸を張るがそれはそれでどうなんだ。


「へえ、この私に魔符作りだけとはいえ対抗するんだ。でもあなたのは所詮ただのSSSランク魔符」

「は? 魔符はSSSランクが最高なはずじゃ……」

 初めてイリアの表情が変わる。

「そんな格付けは通常魔術の枠でしょ? 私は禁忌魔術に手を染めている。だからSSSランクのその先の魔符を作ることが出来る。ね? そんな魔符を使う経験なんて私以外とは絶対出来ないわ」

 メリアは俺の方を見て笑みを浮かべ、一枚の魔符を取り出すとこれ見よがしに見せつけてくる。確かに魔符からはどす黒いオーラがこれでもかとばかりに噴き出しており、そのオーラはSSS魔符にも勝るように思えた。


「だめロアン、私だって禁忌魔術に手を染めればあれぐらい簡単に作れるから」

「いや、そこで張り合うのはやめてくれないか?」

 イリアまでこんな実験を始めたらもう俺は誰を信じて生きていけばいいのやら分からない。


「でも魔術師なら誰もが魔術の深奥に近づきたいって思ってるでしょ? まあいいわ、先ほど殿下はあなたたちを捕えたら私が解体するみたいなことを言ってたけど、そんなことしない。ちょうど最近人の心を操る魔符を作っているから実験台になってもらおうかしら。私の禁忌魔符を使いこなせる符術師の駒が出来れば願ったりかなったりだし。あ、お嬢ちゃんも私と一緒に魔術の深奥を目指すなら大歓迎だけど」

 笑顔で物騒なことを話すメリアに味方のウィリアムですら若干引いている。当然イリアは言わずもがなだ。


「残念だけどあなたのような気色悪い人物と研究なんて御免だわ」

「だそうだ。そっちこそ早く自首してくれ」

「は? 冗談はやめてくれないかしら。こんなことして、処刑以外の未来があるって言うの?」

 罪の重さは自覚しているんだな。

「まあいいわ。あなたも禁忌魔術の力をその身に味わって死んでいくのだから。魔術師としてはまあまあ本望じゃないかしら」


 そう言ってメリアは王子の背中に手に持っていた魔符をぺたりと貼り付ける。あまりに自然な動作に、不意を打たれた王子の表情が青くなる。


「おい、一体何を……」

「何って、単に強くなる魔符だけど」

「いや、全然単にじゃないだろう……う、うああああああ」

 王子の口から出てはいけない声が漏れる。そしてその場にしゃがみ込むと頭を抱えて苦悶する。このとき俺は確信した。この女に味方しなくて本当に良かった、と。


 すぐに王子の様子が変わる。めきめきと皮膚が硬質化し、びりびりと服が破れて背中からは禍々しい黒い翼が生える。また、頭には角が、口元には牙が生えている。そして王子の持つ黒い剣さえもが黒いオーラに包まれている。そして王子はそんな変化に苦しんでいるのだろう、その場をのたうち回っている。


「これは……もしや殿下が変異種に……?」

 さすがのイリアも思ってもみなかった事態に困惑が勝っている。

「さすが、賢いのね。という訳で殿下、元に戻りたければ頑張ってくださいね。私以外この魔術、解けないので」

 メリアは悪魔のような笑みを浮かべた。

気が付いたらマッドサイエンティストになってしまっていたメリアさん。

こんなはずじゃなかったんだ……

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