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調査

 その後俺たちはメリアの家の周りをうろうろしながら、不自然でない限りのことを調べた。まず警備の兵士はいない。中には住み込みのメイド二人と執事二人がおり、もしかしたら彼らが多少の使い手の可能性はあるが。そしてそれ以外の来客も一日一人以上はいる。物理的なセキュリティはほぼない。鍵ぐらいだろうか。

 問題は魔法的なセキュリティである。これが全然分からない。魔法探知の魔法を使うと邸宅全体が反応するようになってはいる。だからおそらく何かはあるのだろうが。かかっている魔法を調べる魔法を使ったところ、“オリジナル魔術”という結果だけが分かった。


「そろそろ手詰まりか」

 一通りの調査を終えた俺たちはメリア家周辺にある空き屋の中で作戦会議をしていた。勝手に入るのは良くないのだろうが、俺たちはイリアの魔符で姿を消し、メリア家の監視に使わせてもらっている。

「困ったわね。なかなかモリ―先生の捜査が行われないわ。あの王子、あんなに見栄をきっていたくせに……」

 さすがにモリ―の調査が行われる前にメリア家に突入して実はモリ―が犯人でしたでは許されない。


 さて、そんな話をしているところにメリア家にまた新たな客が現れた。だがおかしい。なぜなら今メリアは外出中だからである(ずっと張り込んでいる俺たちはメリア家の出入り情報を知り尽くしていた)。単にアポなしで突然やってきただけなのだろうか。しかし、よく見てみればその客は町人の変装をしているが先日会ったウィリアム殿下である。

「おい、あれ……」

「不倫かしら」

 イリアも王子の姿に気づいたようである。その感想はどうかと思うが。


「仕方ない、こうなったら追うわ。殿下の後なら難なく侵入出来るはず。証拠を掴んでおいて、もしモリ―が犯人じゃなければ不倫を暴露して動きを封じるのよ」

「お、おお?」

 確かに王族との不倫は大問題だが……それで動きを封じられるのか? そもそもメリアか王子の最低どちらかは結婚しているのか? いや、メリアの家を数日間見張っているが夫らしき人物はいない。

 とはいえ王子の動きが怪しいのは事実である。ちょうど今は透明化しているし、王子の後について忍び込めばセキュリティも発動しないかもしれない。メリア不在で来客があるという状況はなかなか発生しない。

「最悪、ばれたら殿下が怪しかったことにするか」

「それならついでにこれも使っておいて」

 俺は渡された魔符を使う。


「サイレンス」


 すごい、動いても音がしない。これで物理的には俺たちの姿を認識されることはないはずだ。俺たちはそれを頼りに空き家を出る。

 一方の王子はきょろきょろと周囲を伺ないながらメリア家の門に辿り着くと、慣れた手つきで合鍵を取り出して門を開ける。本当に不倫っぽくなってきてるなこれ。俺たちは緊張しながら王子の後をついていく。

 サイレンスをかけている以上何をしても一緒なのだが、つい忍び歩きをしてしまっている自分が少しおかしい。王子は特に何かのセキュリティに遮られることもなくドアまでたどり着く。もしかしたらあの合鍵にはセキュリティの解除機能もついているのだろうか。


 王子はドアの前までくるとしばしの間ポケットをまさぐっていた。そして一瞬後ろを向いたのでどきりとしたが、よく見ると俺たちの後ろを見世物の猛獣を連れたサーカス団が通っていたのでそのせいだろう。

 結局鍵を見つけた王子はドアを開けると、この前行った応接室とは違う部屋に入っていく。そこも応接室だったのか、内装はそんなに変わらない。家の主もいないのに応接室に入ってどうするのだろうか、と思っていると王子は不意にドアの近くにあった本棚を動かしてドアを塞ぐ。もしかしたらここでこれからやましいことでもするのだろうか、と思っていると目にも留まらぬ速さで剣を抜いた。


王子の剣が凄まじい勢いで迫ってくる。

「バリア」


 しかしサイレンスのせいで詠唱が出来ない。俺が無詠唱で張った貧弱なバリアは王子の一撃で呆気なく壊れる。おかげで王子の剣が俺の肩の辺りをかすり、かすかに血がにじむ。

「痛っ」

 そして俺にかかっていた透明化の魔法が解けた。この魔法は攻撃を受けたり激しい動きをしたりすると効果が解ける。まあ、ばれている以上解けてもいいが。

(おい、室内でいきなり剣を振り回すなんて危ないぞ)

 残念ながらサイレンスのせいで声にならない。俺はサイレンスを解除してもう一度言う。

「おい、室内でいきなり剣を振り回すなんて危ないぞ」

「……今一回口パクしたよね」

 うわ、王子にばれてる。めっちゃ恥ずかしいんだが。ちなみにイリアは透明になったままじりじりと王子と距離をとっていた。


「奇遇だね、こんなところで会うなんて。何か怪しい奴がいるのは分かってたけど。いくら平民の子でも王子ともなると、色んな人に命を狙われるから気配を感知するのは自信があるんだ。だけどまさか君だとは」

 王子はいつも通りの微妙に上から目線のうっとおしいしゃべり方をしている。うざい。

「いや、お前も十分怪しいだろ。不倫か?」

「あいにく僕もメリアも伴侶はいないんだ。だから不倫ではないよ」

 何だと。もしこれがただの自由恋愛だったら俺たちは単なる不法侵入者だぞ。いや、不倫だとしても不法侵入が許される訳ではないが。


「そうか。てっきり殿下はもうご結婚なされているものかと。では俺はこれで」

「まあ待ってくれ。せっかく会ったんだからもっとゆっくり話そうじゃないか」

 王子は俺に剣を突き付けながら言う。まあ、帰してくれる訳ないよな。

「……何だ? 俺は単に殿下と宮廷魔術師の不倫を取材しに来ただけだが?」

「いや、その言い訳は全く無罪になってないけど。何だ、てっきり君もこの前言ってた事件の犯人がメリアじゃないかと睨んでいたんじゃないかって思ったけど違うのか」


 王子が残念そうにため息をつく。何だ、王子も味方だったのか。あまりにも怪しいから忘れていたが確かにその可能性はあった。

「ああそれそれ、実はそうだったんだ、良かった、殿下も同じ考えで」

「この上なく怪しいんだけど」

 おかしい、俺の素直な反応がなぜか怪しまれている。

「ま、まあいいじゃないか。一緒にこの家を探索しないか?」

「確かにそれもそうか。じゃあ手前の部屋からしらみつぶしに探して行こうか」

 こうして俺たちは奇遇にも一緒に調査を始めることになったのであった。

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