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宮廷魔術師メリア

「あの、どちらに行かれるのでしょうか」

 俺はウィリアム王子に恐る恐る尋ねる。

「メリアの家だ。今後の政策について話し合うことがあってな」

 げ。俺は言葉には表しづらいが何となくこいつに対する苦手意識があったので、嫌な気持ちになる。それに先客がいては何かと面倒くさい。とはいえ、逆に話が早いと言えなくもない。

「お二方もメリアに用があるのかい?」

 俺はイリアをちらっと見る。イリアも観念したように頷く。仕方がない、話すか。王子だったら何か手伝ってくれるかもしれないし。


「実は……」


 こうして俺は歩きながらここまであった禁忌魔術の魔符についての事件についてかいつまんで話すことになった。ウィリアムは深刻そうな表情で聞いていたが、話が終わると一つ大きく頷く。

「それは由々しき事態だな。メリアとそのことも話し合おうと思うが、君たちも一緒に来るかい? おそらくメリアならいい知恵を出してくれるはずだ」

「は、はい」

 まさかそのメリアを疑っていましたとも言えず、俺たちはよく分からないながらもメリアの家に向かうことになった。


 メリアの家は俺の予想に反してちょっと広めの普通の邸宅といったおもむきであった。俺の中で高名な魔術師の家と言われると、マンドラゴラ的な危険な植物が庭に群生していたり、侵入者を撃退するようなトラップが仕掛けられていたり、窓に蜘蛛の巣が張っていたりするイメージだったがそんなことはなかった。

 ウィリアムはさすがに顔が知られているのだろう、落ち着いた様子でメリア家に訪問するとそのまま中へ通された。俺たちはウィリアムの付き人みたいな雰囲気でそのまま入っていく。門をくぐると中にはきれいな庭と花壇が広がっていた。普通にきれいな家だな。


 中に入ると案内のメイドに応接室に通される。ややあって、黒を基調としたシックなドレスのような衣装をまとった女が現れた。黒い長髪に落ち着いた表情をしており、いかにも物静かな賢者という感じである。その雰囲気から名乗られずとも俺は彼女がメリアであることを察した。

「お待たせいたしました殿下。今日は別に用があるとお伺いしましたが」

「いかにも。彼らが今騒ぎになっている一連の事件について追っていると聞いてな。メリアなら何か手助けできることがあると思っている」

「なるほど。分かりましたわ。聞かせてくださる?」

 メリアは落ち着いた物腰でこちらに尋ねる。が、目が合った瞬間なぜか俺は意識の奥の奥まで見抜かれるような錯覚に襲われた。


「実は……」


 俺はウィリアムに語ったのと同じことをそのまま語る。メリアはうんうんと聞いていたが、聞き終わると一言。

「常識的に考えてモリ―が第一候補ね」

 モリ―というのは魔法学園で随一とされる錬成師で、イリアの恩師でもある。学園の先生も同じ名前を挙げていた。

「それは能力的な話か? それとも他にも証拠があるのか?」

「いえ、証拠はないわ。ただ禁忌魔術を使用した魔符製作。そんな高度なことが出来るのは彼女ぐらいしかいないと思う」

 やはり証拠がある訳ではないのか。俺は少し落胆する。

「でも、錬成師じゃなくても魔符を作ることは出来るわ」

 イリアが口を開く。


「まあ理屈上はそうね。でも、あなたは分からないかもしれないけれど、錬成師以外は普通魔符を作ることはしない。作ったところで自分ではうまく使いこなせないし、わざわざ売るほど符術師は多くない。まあ一言で言えば割に合わないってことね。だから仮にこのテロの方法を思いついたとして、魔符を作って行おうという思考にはならないと思うわ」

 なるほど、そういうものなのか。とはいえよっぽどマニアックなお店じゃない限り大した魔符が売ってないという現実を目の当たりにしていた俺はさもありなんと思った。


「とはいえここまで分かっていれば事件の解決もたやすいわ。モリ―から順に高名な錬成師を順に家宅捜索していくだけでいいもの」

「確かに。家宅捜索については僕が手配しよう。一介の錬成師相手なら造作もない」

 ウィリアムも強く頷いている。やっぱ国家権力ってやばいな。俺は何とはなしに違和感を覚えたが特に異論の余地はない。強いて言えばモリ―以外が犯人だった場合に対処が遅れることが難点だが、誰が怪しいかを調べるよりは怪しいやつを片っ端から調べる方が速いような気がする。

「迅速な対処、ありがとうございます」

 俺はお礼を言って頭を下げる。

「いえ、当然なことをしたまでよ」

「さて、悪いけどここから国政に関する話をするから席を外してもらえないか?」

「はい」


 俺たちは素直に立ち上がり、メイドに案内されて家の外へ出たのだった。歩いている途中、イリアはずっと浮かない表情だった。やはりお世話になった先生が第一容疑者になるということに釈然としないのだろうか。

「ねえ、ロアンは本当にあの女が犯人じゃないと思う?」

「分からんとしか言いようがない」

 特にさっきの会話で何か材料が増えた訳ではないからな。協力的にも思えるし、犯人だから自分から疑いの目をそらそうとしているようにも見える。

「もし彼女が犯人なら錬成師ローラー作戦では犯人が見つからない訳だけど」

「とはいえさすがに殿下と密談しているところに忍び込むのはなあ……。分かった、とりあえず侵入するにしても間取りや警備を調べよう。魔術師だし、家に何か仕掛けているかもしれない。それでモリ―が無実だったら忍び込もう。それでいいか?」

「分かった」

 俺が提示した折衷案により、とりあえず様子を見ることになった。正直俺はそこまでメリアが怪しいとは思ってなかった(怪しくないとも思ってなかったが)上、あそこまで普通の家みたいな外見だと魔法的な罠が仕掛けられているような気がしてならない。

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