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王立魔法学園

 王都レノールに近づいていくと、バザールの時と同じように大量の人が出入りしていた。とはいえ、純粋な人の数で言えばバザールと同じぐらいだろうか。王都がすごいのは遠くから見ても一目で分かる、高層建築の数々だろう。中心には王城がそびえたっており、それを護衛するように教会や役場、ギルド本部などが立ち並んでいる。王立魔法学園もそんな建物のうちの一つだった。


「イリアは毎日こんなところに通っていたのか?」

 学園も単体で小さな城のようであった。四方を囲むように壁がそびえたっており、何か所かに壮麗な門がある。他の建物には大量の人の出入りがあるが、ここだけは周囲に人気がなく、静かな空間となっていた。

「中で暮らしていると案外何も思わないわ」

「そういうものか」


 イリアは正門と思われる門へと歩いていく。自らの知識や技量への自信がそうさせるのか、脱走してきた割には堂々とした立ち居振る舞いで、ちょっとした外出から帰って来た学園生のようであった。

 門の前に小さな小屋のようなものが建っており、そこに守衛と思われる人物と硬直した岩のゴーレムが立っていた。魔法学園だけあって警備もゴーレムなのか。

「どのようなご用件でしょうか?」

 尋ねてきた守衛は普通の人間のようであった。このときだけ少しだけ恥ずかしそうにイリアが答える。

「在校生です」


 イリアの答えに守衛は少し呆れ顔になる。

「君ねえ……。在校生は長期休暇以外は敷地内での生活が義務付けられてるから外出申請しないと外に出られないんだよ。だからそんな嘘ついてもすぐ分かるから」

「いえ、勝手に脱出してしまったイリアと申します」

 イリアは顔から火が出そうで、声も消え入りそうだった。まあ事情を知らない人に話せば勝手に飛び出してきてどの面下げて帰って来てるんだ、て思われそうではあるからな。そう言えば飛び出してきた的なこと言ってたが、本当にひと悶着起こしてきていたのか。

「ああ、そう言えばちょっと前にそんな事件もあったな! あの時は大騒ぎだったんだよ全く……。若いから色々あるとは思うけど」

「すいません」

 普段強気なイリアには珍しく、しゅんとしている。

「とにかく先生呼んでくるからちょっと待ってて。それでそっちの男の人は?」

「冒険者の連れです。仕事の都合で聞きたいことがありまして」

「はいはい」

 そう言って守衛は門の中に消えていった。後にはうつむいているイリアだけが取り残されている。


「あんなに恥ずかしがるなんて、一体どんな出ていき方をしたんだ?」

「私が魔符ばっかり作っていて学校の課題をしないから怒られて。だから『符術師のいない学園には用がない!』て。そしたら先生も売り言葉に買い言葉で『そんなに言うなら自分で好きなところに行け』て。それでそのまま……」

 確かにそのテンションで飛び出して戻ってくるのは恥ずかしい。

「その、まあ、何だろう、ちゃんと符術師も見つかったことだし堂々と凱旋すればいいじゃないか」

「じゃあさりげなく大魔術使って先生にマウントとってよ」

「いや、大魔術ってさりげなく使うものじゃなくね?」

 しかも魔法学園の先生ともなればきっとかなりの大魔術師だろう。そんな人物相手に下手に魔術マウントを挑んだら大恥をかきそうだ。大体魔符って使ったらなくなるからもったいないし。しかし舐められたままでは話を聞きにくいのも事実である。


「おお、イリアじゃないか! まさかこんなに早く帰ってくるとはね。もう帰って来ないかと思ったよ」

 そこへ一人の丸眼鏡に黒ローブのいかにも魔法学校の先生といったいでたちの杖を持ったおっさんが現れた。その言葉からはそこはかとなく「あんな勢いで出ていったのにすぐ帰ってくるのwwwだっせwww」という雰囲気が感じられる。俺は少しむっとした。仕方なく何もない方向に手をかざす。


「アイススピア」


 俺は何とはなしに30本ほどの氷の槍を空中に出現させる。とはいえそのまま撃ち出すのも危険なので、いったん消去する。

「アイススピア」

 仕方なく俺は再びアイススピアを出現させては消去する。とはいえアイススピア30本ってすごいのか? もし魔法学園の先生はアベレージ100本とかだったら単なる三下かませ野郎に成り下がるんだが。そんなことを思いつつ俺は先生の方をちらっと見る。


 すると先生は口をぽかんと空けたまま呆けたように突っ立っていた。

「……君は一体何をしているんだ?」

「何って、日課のアイススピアの素振りをしているだけだが? これを一日100回はやらないと腕が鈍るからな」

 俺は内心冷や冷やしながらしょうもない言い訳を口にする。何だアイススピアの素振りって。確かに魔法は行使することにより精度や速度が上がることはあるが、出現と消去を繰り返すだけで意味があるのかはよく分からない。

 ちなみに俺はこうしてしゃべっている間もアイススピアを出したり消したりしているが、内心冷や汗物である。

「30本を100回……まさか彼がイリア君が見つけた符術師だと言うのかね」

 先生は開いた口が塞がらないといった様子で口にする。イリアは俺の奇行に元気が出たのか、力強く頷く。

「分かった分かった。あのときはすまなかった。それで今日はどんな用件で来たんだ?」

「実は……」

 先生が案内してくれる雰囲気になったのでイリアは歩きながら話を始める。ていうか魔法学園って魔法でマウントをとるとこんなに態度変わるのか。恐ろしいところだな。

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