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イリア

「くそ、符術師って何だよ! 何で一つだけ分かりやすく外れみたいな職業があるんだ!」

 数日後、パーティーを追放(実態は自主退職)された俺は村の酒場で飲んだくれていた。そう、俺は成人の儀を終えているので酒を好きなだけ飲めるのだ。くそ、成人の儀のことを思い出したら腹が立ってきた。

「まあでもね、世の中〈乞食〉とかになっちゃう人もいる訳だから」

 主人が慰めてくれるが、落ち込んでいるときに「もっと下の人もいるから」と言われても気が済む訳ではない。

「違うんだよ、そういうことじゃないんだよ! お代わりくれ!」

「はいはい、でもいっぱい飲んだら明日からはまた頑張るんだ」

 主人はそんなことを言ってくるが耳に入らない。俺は一体何を頑張ればいいんだ。


「ねえ君美人だね、ちょっと俺と一緒に飲もうぜ」

 そんなとき、酒場の隅の方から耳障りな声が聞こえてくる。

「え、あなた誰?」

「俺は勇者だ。多分この村で一番の冒険者だぜ。なあなあ」

「知らないって。勇者でも何でも知らない人と飲みたくないから」

 勇者と名乗る男は酒が入っているのか、少女にウザがらみしている。一方の少女は純度百パーセントの迷惑さを露わにしている。

「そう言うなって、奢ってやるからさ~」

「ちょっと、触らないで」


 そのとき俺はゆらりと立ち上がった。こっちはパーティー追い出されていらいらしているのに何なんだあいつは。聞いているだけで俺は腹が立ってきた。こっちの気持ちも考えずに呑気に酔っぱらいやがって。大体さっきから勇者勇者って勇者がそんなに偉いか。符術師の何が悪いって言うんだ。

「おいやめろ……って、え?」

 俺が割って入ると、悪酔いして見知らぬ少女に絡んでいた人物は見知った顔だった。というかユーゴである。

「何だよいいじゃねえか、今日も俺は近所の狼の群れ全滅させたんだ、英雄だぞ」

 ユーゴはクエストがうまくいって飲み過ぎたのか、完全に悪酔いしている。しかもまだ俺に気づいていない。

「お前、酔ってるからって周りの迷惑考えろよ」

「何だよ……てお前ロアンじゃねえか。俺がうらやましくてひがんでるのか?」

 酒が入っているところにナンパを邪魔されて気が立っているのか、ユーゴはいつになく攻撃的だった。苛々していた俺のボルテージもつられて上がっていく。

「お前ふざけんなよ! 勇者だからって調子乗ってんじゃねえぞ」

「は? お前こそ符術師とかいう雑魚職の癖にイキんなコラ」


 お互い酒が入っているだけに悪口はどんどんエスカレートしていく。不意に俺の袖がちょいちょいと引っ張られるのを感じる。

「何だよ今こいつと……」

 が、振り向くと袖を引いていたのは先ほど絡まれていた少女であった。少女は俺に向かって小声で尋ねる。

「ねえ、あなた符術師なの?」

「そうだが、悪いか?」

 俺はつい喧嘩腰に答えてしまう。が、少女は俺の問いににっこりとほほ笑んだ。そして今まで俺を盾にしてユーゴから隠れていたのに急に前に出る。

(実は私、魔符作るのが趣味でずっと符術師探してたの)


「きゃあーロアン助けて、この人すごく怖いよー」

 不意に少女はえらく棒読みで俺の腕にしがみついてくる。突然の少女の態度変化にユーゴは一瞬眉をひそめたが表情はすぐに怒りに変わる。

「何でロアンの癖にこの女と仲良くしてるんだ? 俺の方が絶対強いし優秀な……」

「助けてマスターさん、酔っ払いに絡まれてる!」

 少女の声はあまり大きな声ではなかったが、透き通るような声だった。その声は何か言いかけていたユーゴの声に打ち勝ち、酒場の喧噪を抜けて主人の耳に入る。


「ちょっと、冒険者だろうが村長だろうが国王だろうがうちの酒場に入ったらもめごとは許さねえぞ!」

 昔は歴戦の冒険者だと豪語するマスターが烈火のごとく怒っている。これにはさすがのユーゴもたじたじだった。その隙に少女は俺をエスコートしていく。

「さ、今のうちに」

「お、おう」

 最後までユーゴは俺を怒りと嫉みの入り混じった表情で睨みつけていた。

 こうして俺は助けたんだか助けられたんだかよく分からない感じで少女とともに酒場を出たのだった。


「さっきはありがとう、私はイリア」

 イリアと名乗った少女は美しい銀髪をしていた。短髪なのに前髪は目にかかっている。だがよくよく顔を見てみれば陰のある美少女といった感じだ。年齢は二つ三つ年下かもしれない。格好は茶色いマントに革袋を背負い、腰には剣という旅装をしていた。ちなみにマントの下からは魔法学園の制服がちらりと見える。濃い緑色のブレザーに格調高い金ボタンが特徴的で、俺の記憶違いじゃなければあれは王立魔法学園のものじゃないか。

 というか、ありがとうも何もほとんど俺が助けられたんだが。

「俺はロアン。確かに符術師だ」


「実は私、王立魔法学園の〈錬成師〉なの。それで魔符作りに嵌まって極めちゃったんだけど、どこにも符術師がいなくて。不人気職だからね。それで旅に出て、私のSSS級魔符を使いこなせる符術師を探してたんだ」

「うお、すげえ」

 王立魔法学園と言えば王都にある全国でも有数な魔術師が集まる学園ではないか。ということはよほど優秀なのだろうが、話を聞く限りおそらくかなりの変人でもある。

 錬成師というのは魔術師の専門職の一つだが、アイテム製作に特化した職である。ただ、店に使えない魔符しか置いてないということは、魔符を作るのは割に合わないということなのだろう。符術師は不人気職だから売れないだろうし。

 だがそれでも何でもいい。俺のために魔符を作ってくれるというのであれば。

「ちょうど良かった。俺もCとかDのカスみたいな魔符には飽き飽きしていたんだ!」

「じゃあ決まりだね。早速二人でクエストを受けに行こう!」

 こうして俺と彼女、新しいパーティーの冒険が始まるのであった。

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