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アイススピア

「悪い奴が暗躍しているんなら一応急いだ方がいいか」

「そうね。正直、王都を飛び出してこんなに早く戻ることになるとは思わなかったけど」

 翌日、俺たちはバザールを出ることにした。買ったものや散らかした着替えなどを片付けて荷造りし、俺とイリアは宿の受付で待ち合わせる。


「え、もう行ってしまわれるんですか!?」

 宿の主人は俺たちが出発の用意を終えているのを見てこの世の終わりみたいな顔をした。

「禁忌魔術を使っている奴を追わないといけないので……」

 なぜか俺は申し訳ない気持ちになりながら言う。

「それならせめて隣の八百屋さんがサイン欲しがっていたのでサインを……あ、果物屋の娘さんもファンだって言ってたな。武器屋のおやじもそう言えば……」

 急に宿の主人は指を折り始める。黙っていれば何人でも何十人でも名前が出てきそうだ。


「それ永遠に終わらない雰囲気じゃない……」

「だって領主様から一か月ぐらいは滞在する用意をと言われてまして、てっきりしばらくいるものかと……」

 なぜか主人は半泣きであった。

「分かった、今回の黒幕を倒したらまた戻ってくるから」

「絶対ですよ! 戻ってこられなかったらファンの皆さんに『お前ばっか英雄の方々を一人占めしてずるい』と怒られる……」

 俺たちの扱いが売れっ子アイドルみたいになっているとは思わなかった。やはり俺が申し訳なく思うのはおかしいなと思いつつも、俺は申し訳なく思いながら出発する。


 バザールから王都レノールまでは一週間ほどの距離がある。バザールは海沿いの街だが、王都は内陸の方にあるためだ。なので急ぐとは言いつつも俺たちは普通に旅をしていた。


 バザールでは英雄ともてはやされたが、ぱっと見は普通の旅人である。だから俺たちは特に何事もなく旅を続けた。バザールと王都の間には整備された街道があり、街道沿いの村々には宿も整っているので特に危険も不自由もない。街道は基本的に平原を通っており、遠くに街や山が見えたりするが、基本的には風景にそんなに変化がなく、旅は単調ですらあった。


 三日後、俺たちはヤーンという村についた。何の変哲もない村だが、街道沿いにある割に何となく活気がないように感じる。

「お二方は冒険者の方でしょうか?」

 俺たちが宿に向かうと宿の主人が唐突に尋ねる。その声には明白な期待が込められていた。

「そうだが」

「実はこの辺りに最近ゴブリンが出没するようになりまして……よろしければ討伐していただけないでしょうか」

「この辺り?」

 辺境にある俺の出身のマルタ村と違い、この辺りは王都に近く王国領でも比較的中心の方である。すでにこの辺りの魔物が討伐されて久しいはずで、ゴブリンが出るとは思えない。


 俺は思わずイリアと顔を見合わせる。

「どうする? 何か起こっているような気もするが」

「全く関係ないかもしれないわ」

 魔物関係の異変という意味では繋がりがあるような気もするが、俺たちが追っている事件とは関係ない魔族の活動という可能性もある。とはいえ王国の中心で魔物が活動しているのならば見過ごす訳にはいかない。

「ま、さくっとゴブリンだけ倒して次行こう」

「そうだな」

 その日はもう遅かったので俺たちは一泊し、翌朝主人にゴブリンが出没するエリアを聞いて出発することにした。


 ゴブリンは街道が山に差し掛かった辺りで出没するとのことだったので、俺たちは街道沿いに身を潜めていた。平原と違って山間なら姿を隠すのも容易である。

 ここは王都とバザールをつなぐ重要な街道なので色んな人が通る。旅人や冒険者、飛脚から様々だが俺たちが待っているのは商人だ。特に馬車に荷物を満載した商人である。

 そんなことを考えつつ待つこと数十分。ようやく荷車に穀物を満載した馬車の行列が通った。護衛もいっぱいついているもののもしゴブリンがいるなら絶対に襲うだろう、という襲い甲斐がある商隊だ。


「ぐあああああああああ!」

「げあああああああああ!」


 そんなことを思っていると案の定列の先頭の方からゴブリンの叫び声が聞こえてくる。待ちに待った(?)ゴブリンの群れが現れた。黒と緑色の間のような体色に醜悪な表情と声、片手には棒切れを構えて走ってくる。不意のゴブリンの登場に護衛の兵士たちも驚く。現れるとしたらせいぜい山賊ぐらいだと思っていたに違いない。


「行くか」「うん」


 俺たちは街道へ向かうと、さらに商隊の側面からも群れが現れる。これはたまたま迷い込んだ群れが現れたにしては数が多い。

「私は列の先頭へ向かうからこっちは任せたわ」

 魔法の最大の欠点はすでに乱戦になっているところに撃ちこむとゴブリンも兵士も平等に巻き込んでしまうというところである。山の中から襲ってくるゴブリンの群れは二十匹以上。俺はイリアからもらった魔符を取り出す。


「アイススピア」


 ゴブリンたちの上に二十本ほどの氷の槍が現れる。次の瞬間、それぞれの槍がゴブリンを一匹ずつ串刺しにしていた。キエエとかゲアアアとか周辺はゴブリンの悲鳴が響き渡り、阿鼻叫喚の地獄絵図が広がっていた。血だまりの中、氷の槍が刺さったゴブリンの遺体が転がっている。中にはぴくぴくと動いている者もいるがやがて絶命する。

 が、そんな中一匹のゴブリンが現れた。周りのゴブリンたちと違って無傷である。冠のようなものを被っており、体格も一回り大きく、持っている武器もただの棍棒ではなく剣である。見ると彼の近くには両断されたアイススピアが落ちている。もしや剣で斬り落としたというのか。確かに普通のゴブリンと違う雰囲気はあるが、それだけなら脅威というほどでもない。


「その程度で勝ったつもりか? アイススピア」


 俺は再び魔法を唱える。キャントリップなので何度使っても問題ない。再び、二十本の氷の槍が現れる。ゴブリンがそれを見て恐怖の表情になる。一度だけの大技とでも思ったか。

 次の瞬間、二十本の氷の槍がゴブリンを串刺しにする。ゴブリンも必死で剣を振るってそのうちの二本を斬り落としたが、残りの十八本が刺さってハリネズミのようになって倒れた。

 そして倒れたゴブリンの近くにはらりと紙切れが落ちる。拾ってみるとやはり前回の魔符に似ている。やはり何者かがこの魔符を各地にばらまいて世の中を混乱させようとしているのか?

申し訳ありませんが更新頻度落ちます。

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