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光か闇か、それ以外か

「ところで、さっき倒した変異フェンリルの近くでこんなもの拾ったんだが」

 領主の館を出たところで俺はイリアに話しかける。俺は競技場で拾った魔符の燃えカスみたいなものを取り出す。

「何それ」

 イリアは手を伸ばして慎重にその紙を掴む。ぼろぼろになっているので慎重に触らないと破れてしまいそうだ。

「何か魔符のような気がするんだが、何でだろうな? 仮面男が使ったのか、単に客席からしれっとゴミを投げ込まれたのか」

「あの空気の中でゴミをポイ捨てする奴は心臓に毛でも生えてるんじゃない? 確かに魔力の残滓を感じるわ。ただのゴミではないと思う」

「そうか、ちょっと調べてみてもらえないか?」

「いいけど……せっかく色々もらえたんだし、とりあえず先に買い物しようよ」

 そう言ってイリアは魔符の残骸を袋に入れてポケットにしまう。


 そこへ折よく、競技場で投げ込まれた品々を台車に山積みした兵士たちがやってきた。台車二台分ぐらいあるんだが。

「お待たせしましたロアン様、こちらであのときの品々は全てでございます」

「わざわざすまないな。面倒だし全部収納するか」

 俺はぽいぽいぽい、と台車に満載された品々を収納していく。その様子を兵士たちは目を丸くして見つめていた。やはりこの魔法はすごいらしい。ちなみに、後で何をしまったか思い出せなくて取り出すのに苦労したのは内緒だ。

「これが我らの英雄の力……」

「すまんな、本来の仕事でもないのに運ばせてしまって」

 俺は手を振って兵士たちを見送る。兵士たちはこちらを驚愕の目で振り返りつつも領主の館の方へ帰っていった。


「それでこれだけの金目のものがあるけどどんな魔符作って欲しい?」

 ちなみに投げ込んだのはほとんどが庶民の観客なので実用性のあるマジックアイテムなどはほとんどなく、大体は貨幣か高価な装飾品だった。

「イリアは作りたい魔符とかないのか?」

「うーん、作りたいものとかは学園時代に勝手に一人で作ってたからね。それに魔符は芸術品ではないから、需要があってそれにどう答えていくかみたいなところも大事だと思ってる」

 確かに。例えば「これめっちゃ難易度の高い魔法だから」て言われて「この世界の青と赤を全部逆転させる魔符」とか作ってこられても反応に困る。確かにすごいのはすごいだろうが、何でもいいから世の中を大混乱させたいときぐらいにしか使い道がない。


「じゃあやっぱり“キャントリップ”付きの攻撃魔法かな。今回はフェンリルだけ倒せば良かったけど、今後魔物の群れとか倒すこともあるかもしれないし、そういうときにいちいち使い切りの魔符使ってるともったいない気がするし」

「それもそうね。私も微妙な攻撃魔法の魔符とか作るのだるいし。じゃあどんな攻撃魔法がいい?」

「……分からん」

 何せ本格的に戦ったのはまだ二戦である。どんな魔物が世の中にいるのか、どんな攻撃魔法があるのかもまだよく分からない。

「そもそもどの属性がどうとかもよく分からないし」

「うーん、まあ一般的に炎が分かりやすく攻撃力高めって言われてるわ。風は応用すれば相手や自分を拭き飛ばしたりとかテクニカルなことが出来る。雷は火力が高いけど炎より難度が高くて、水は攻撃力は低いけどやっぱり応用は利きそう。光とか闇はロマン」

 なるほどな。大体理解した。


「じゃあ光か闇で」

「……即決なのね、いいけど。じゃあそれで材料探してみる」

 そんな訳で俺たちはまた買い物を開始した。基本的に光と闇は闇属性と光属性の相手に対しては威力が上がるが、世の中にそんな属性を持つ魔物はほぼいないので、基本的にはどの相手にも相性がないと言える、らしい。

 そして買い物をしていて分かったのだが、炎や風といった単純な(?)属性の場合はその属性の魔法を強化するマジックアイテムがぽつぽつ売っているが、光と闇についてはそれが少ないのだ。あっても他の属性の十倍したり、効果が誤差みたいな数値だったりと散々である。


 一時間ほど市場を見回った俺は正直な結論を口にする。

「……なあ、もしかして光と闇って弱い?」

「言ったでしょ、ロマンって」

 イリアは不服そうな顔をする。非常に申し訳ない気持ちになったが、弱いのは嫌だ。

「ごめん、俺順当に強い属性でいいや」

「ちょっと、光と闇に踊った私の気持ち返してよ。光と闇の魔符は作るの大変だからやりがいあると思ったのにな」

「やめよう。何か俺たち調子に乗って芸術品方向に進んでしまってる気がする」

 俺は少し反省する。僧侶以外で光属性を使うか、魔物以外で闇属性を使えばその珍しさから「すげえ」と思われるのは確実だが、目的はそういう眼で見られるようになることではない。


「でも今更炎っていうのもなんだし、氷にしよう! ちょっと通っぽいし!」

 使いやすさの炎、威力の雷、応用が利きやすく便利な風などが人気の中、あえてややマイナーな氷にするというのがイリアのツボにはまったのだろう。確かに氷属性のマジックアイテムならちらほら見かけた。元より俺に異存はない。

「じゃあ任せた」

 そしてイリアは氷属性魔符の材料を、俺は氷属性魔法強化アイテムを買いあさった。基本的に属性を統一した方が強化の効率はいいが、属性相性が悪い相手が出てくると困る。とはいえ、そしたら使い切りの魔符を使うだけのことなので俺はあまり気にしなかった。

 そんな訳で俺は帰るころには体中に青い宝石や雪の結晶を模したアクセサリーをじゃらじゃらさせた変な奴になっていた。ブラックロータスの二人も黒ずくめの怪しい奴らだったし、魔術師はこうならざるを得ないのだろう。

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