賞賛
俺が仮面の男と戦っている間に、客席の方でもバリスがテロリストたちを制圧していた。と言っても、敵の主戦力であるロックゴーレムは全部俺の魔法に巻き込まれて消えていたが。
さて、恐怖が去った観客の誰かが拍手を始めた。その拍手は一斉に客席の中を伝播していく。それらの拍手は皆競技場の中心にいる俺にそそがれていた。ちなみにバリスはさっさとテロリストを縛り上げるとユーリを治療していた。やっぱり嫌なやつではあるがいい奴だな。
「「「ロアン、ロアン、ロアン!」」」
拍手ばかりかコールまでされている。俺は客席に手を振ってこたえた。
「救世主!」「助けてくれてありがとう!」「格好いい!」
客席から賞賛の言葉の嵐が俺に降りそそぐ。俺は照れつつも手を振り返す。すると、誰かが客席からペンダントのようなものを投げた。俺の前に転がったそれはおそらく高価な宝石がついている。それを皮切りに客席から金貨から剣まで様々なものが投げ込まれる。
「おおお! みんなありがとう!」
俺は喜びいさんでそれらを拾う。途中でふと俺はフェンリルの死体の近くに紙きれが落ちているのを目にした。この前のトロールの時も似たようなものがあったな、と思い出し、何か意味のあるものかなと思って拾う。何かが書いてあったようだがすでに焼け焦げてしまって読めない。何か魔符に形状が似ている。
「ちょっと落ちているもの拾わないで、みっともないでしょ」
が、イリアに止められて俺の思考は中断する。まあいいか、後でイリアに見せよう。彼女なら魔符に詳しそうだし。
「いいじゃん、みんなだって俺に拾って欲しくて投げてるんだろ」
「そうだけど。あなたもはや英雄なんだからみみっちいことしないで」
確かにテロリストを制圧して次の行動が地面に落ちているものを拾いまわっている、ではせせこましい。
「じゃあどうすればいいんだ?」
「え……いや、私もこんな状況初めてだから知らないけど」
イリアも分からないのかよ。
そんなことをしていると、どたどたという足音と共に兵士たちが駆け込んでくる。ようやく領主の兵士たちが突入してきた。彼らは一目見て状況を理解したらしい。
「このたびはテロリストを鎮圧していただきありがとうございました!」
兵士長らしき男が俺に向かって深々と頭を下げる。
「いや、まあたまたま遭遇しただけだから」
「いえいえ。領主様も直々にお礼をしたいとのことなのでよろしければ館へどうぞ」
「分かった」
こうして俺たちは領主の館に招かれることになった。地面に落ちた献上品の数々は兵士の皆さんが拾い集めてくれた。なんか偉くなった気分だ。
***
さて、俺たちは兵士の案内で街の中心部に向かった。こんな事件があったとはいえ、街は賑わっている。中心部には大商人が住んでいるのだろう、華美な館が並んでいる。ちなみに豪華な屋敷は商人だけでなく、ブラックロータスなど魔術師ギルドのものもあるらしい。そんな街並みの中で領主の館はひと際地味であった。
「領主って意外と偉くない?」
「……そういうこと思っても口に出さないで」
「……すいません」
俺は周りの兵士に謝るが、兵士たちも苦笑している。ちなみに領主の館はちょっと大きい家ぐらいの大きさだった。広さだけならうちの村の村長の家と変わらないかもしれない。値段は十倍ぐらい違うだろうが。
「このたびは誠にご苦労であった。領主のアジールだ」
そう言いながら現れたのは三十ぐらいの気のいいおじさんだった。領主というよりはどこにでもいそうな普通のおじさんである。服装さえラフだったら屋台でお土産とか売ってそうだ。失礼だから言わないが。
「いえ、出来ることをしたまでです」
俺は当たり障りのない返答をする。そして出来事の経緯を話すと、アジールははあっとため息をつく。
「グレゴールがな……惜しい人物をなくした」
「そもそもイエロー・ロッドって何者なんですか?」
「彼らは召喚術師ギルドだ。最近怪しげな動きをしていたとはいえまさかこんなことを企んでいたとはな。何となく分かると思うが、この街は商人や魔術師ギルドなどの勢力が拮抗し、領主の力は大したことはない。だが、もし力を握ることが出来ればこの都市の莫大な富は手に入れることは出来るだろうがな」
「なるほど」
確かにこの都市は賑わっている。
「こちらでも捜査を行ってみる。宿を手配するので好きなだけゆったりしていかれるとよい。褒美も欲しいものがあれば何かとらせよう」
「ありがとうございます」
とはいえ、競技場の観衆から色々もらってしまったので懐はまだ温かい。せっかくならこの都市でしか手に入らないようなものがいいなと思いつつ、俺たちは領主の前を退出した。