追放
「なあ、前から思っていたんだがお前何の役にも立ってないよな」
俺たちが本格的に冒険に出てから三度目ぐらいだろうか。オークの群れを討伐した後、リーダーのユーゴがおもむろに俺に告げる。
「……」
俺は俯くだけで何も言い返せない。
「おい、何とか言ったらどうなんだよ」
ユーゴが苛ついた様子で言うが、彼の言っていることは本当だ。だから俺は何も言えない。
「そんなこと言ったら可哀想です、職業にだって当たり外れがあってそれはロアンさんが悪い訳ではないんですから」
マリーがフォローしてくれるが、俺が役に立っていないことは否定されていない。「あいつはダメなやつだから優しくしてやれ」と言われているようで俺の胸に突き刺さる。
「ねえ、実はあたし属性魔術師の知り合いいるんだ~」
アカネまでそんなことを言いだす。さすがに幼いころからずっと仲良しでやってきた俺たちだから誰もはっきりとは言わない。それでもこの場の空気は一つだった。だから俺は自分から言い出すしかなかった。
「俺、このパーティーやめる」
一体なぜこんなことになってしまったのか。話は俺たちが十五になった成人の儀までさかのぼる。
「ついにこの日が来たな」
「そうだね、何かすごい緊張する」
「大丈夫だ、俺たちなら」
俺たちは神殿の〈加護の間〉に集まって緊張の面持ちでいた。今日は俺たち仲良し冒険者四人組が、成人の儀を迎える。俺たちは戦士のユーゴ、盗賊のアカネ、僧侶のマリー、そして魔術師の俺ロアンの四人で冒険者パーティーを組んでいた。もっとも、今日までは未成年だったので見習いだが。
この世界では人は皆何らかの〈職業〉を持っている。十五で成人を迎えるまでは〈基本職〉と呼ばれる汎用性が高い職業に就いているが、成人の儀を行うと〈専門職〉と呼ばれるより細分化された職業に進化する。
専門職にはどんなものがあるのか。例えば。
「よし、俺から行くぜ」
俺たちのリーダー格のユーゴが〈加護の宝玉〉に手をかざす。すると宝玉がぱっと光り輝いてユーゴの体を包む。宝玉には〈勇者〉と表示されていた。その瞬間ユーゴはぽん、と手をたたく。
「よっしゃあ! さすが〈加護の宝玉〉、俺のことよく分かってるぜ」
ユーゴはガッツポーズして宝玉を離れる。ちなみに勇者は剣も魔法も使えるし何より格好いいという誰もが憧れる専門職だ。それを見て勇気づけられたのか、アカネが後に続く。
「じゃああたしもさくっといっちゃおうかな~」
再び宝玉がぱっと光り輝く。そして。
「やった~、〈暗殺者〉だ~!」
アカネは暗殺者に小躍りしている。おっとりした振りしてそういう物騒なところがあるからな。ちなみに暗殺者は盗賊系の職業で戦闘力で最強だ。
「では次は私が」
マリーが緊張しながら宝玉に手をかざす。そこに表示されたのは……〈神聖騎士〉
「えぇぇ、私が神聖騎士だなんて! ちゃんと出来るかな!?」
「でもすごいじゃんか、戦闘も回復も何でも出来るスーパー職業だぜ」
「そうだよ~、ほらハイタッチ」
「い、いぇ~い」
マリーはぎこちないながらも他二人とハイタッチをかわす。神聖騎士はユーゴも言っている通り神聖魔法も使えるし戦闘も出来るスーパー職業だ。
「よし、最後ロアンばっちり決めてくれよ?」
「魔術師だしきっとすごいのになれるよ~」
「はい、ロアンさんならいい職業を引けると思います」
俺は三人の声援を受けて緊張しながら宝玉に手をかざす。でも大丈夫だろう、魔術師の専門職にそんなに外れはなかったような気がする。〈学者〉とかは戦闘には不向きだけど、残り三人が戦闘寄りの職業だからかえってありだし。とはいえ出来るならちょっと珍しくて誰も使えないような魔法が使える派手な職業がいいな。
そう思って俺は宝玉を見る。
〈符術師〉
「ん?」
「……」
加護の間にいきなり微妙な空気が流れる。符術師、別名アルカナマスター。〈魔符〉と呼ばれるアイテムを駆使して戦う魔術師だ。確かに(すごい魔符があれば)ちょっと珍しくて誰も使えないような魔法が使える(派手な魔符があれば)派手な職業ではあるが。
「符術師かー……」
ユーゴが露骨に微妙そうな声をする。というのも、魔符というのはあまり普通のお店には売ってないレアアイテムなのである。
「ま、まあとりあえず店に魔符を見にいってみましょうよ」
マリーの助け舟で俺たちは早速店に向かう。どの道みんなもせっかく専門職になった以上何かしらの装備は買うだろう。
Cランク魔符 ファイアボルト
Cランク魔符 ヒール
「なあ、ファイアボルトって俺でも使えるんだが」
「私も……ヒールは使えます」
マリーも申し訳なさそうに言う。
「え~、そんなんで大丈夫なの?」
アカネは俺の方を疑わしげに見る。
「嘘だろ……本当にこれしかないのか?」
その後店を探すとしょうもない魔法が使えるDランク魔符とかを発見したが論外だった。
「ま、まあ一回冒険に出てみましょうよ。もしかしたらすごい強いかもしれません」
「そ、そうだな」
こうして俺たちはひとしきり装備を整えると戦力把握のためゴブリン討伐に行くことにした。
「死ねゴブリン!」
「くらいなさい!」
前衛に立つ勇者のユーゴと神聖騎士のマリーがゴブリンを次々と斬り伏せていく。そして。
「ふふ、後ろががら空きよ~」
マリーがゴブリンの背後に回り、瞬く間に首を掻き斬っていく。見事な連携だ。そして。
「痛て、攻撃くらっちまった」
「あ、それなら俺がー」
「は、はい、今治します、ヒール!」
悪気はなかったんだろうが、当然同じ前衛にいるマリーのヒールの方が早い。
「お、助かったぜマリー」
「いえいえ、あ、アカネさんが」
見るとアカネの後ろから一匹のゴブリンが忍び寄る。
「それなら俺がー」
「ファイアボルト」
ユーゴのファイアボルトを喰らったゴブリンはばたりと倒れる。それを見てアカネはふうっと息を吐く。
「ありがとう、助かったよ~」
「任せとけ」
という感じで戦闘は終わった。ひとしきり勝利を喜び合う三人だったがふと俺の方を見て微妙な空気が流れる。
そんな感じの戦闘が三回続いて冒頭に繋がる訳である。
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