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レッドソックス・ファンのおばちゃん

 何やら重い話が続いたけれど、今日は本当にどうでも(読者の人にとっては)どうでもいい僕の謎な自意識のお話だ。それも野球の話だ。そこからあれこれ洞察を試みるわけでもない、本当にボストン・レッドソックの試合を観に行っただけのお話だ。


 私は子供の頃、阪神タイガースのファンだった。「え、そこから?」と思うだろうが、そこからなのだ。私がフェンウェイ・パーク球場 (レッドソックスのホーム)に辿り着くまでにはその幼少期のタイガースの話をしなければならない。そもそも私がなぜ阪神タイガースのファンになったのかはよく分からない。寅年生まれだからと子供の頃に言っていたが、それもとって付けた理由だったと思う。なんとなく父親が横浜スタジアムに連れて行ってくれて、たまたまそれがタイガースだったというのが真相だと思う。父親は特に贔屓のチームもないようだから、本当にたまたまなのだ。そこでタイガースの熱狂的な応援に魅入られてしまった。

 しかし考えてみて欲しい。私、33歳・横浜育ち。関東虎党である時点で横浜の小学校ではマイノリティ。さらに問題は阪神の暗黒期だったこと。全く勝てないタイガースを応援し続け、タイガースが弱いというだけで揶揄われ、それが悔しくて、悔しくて仕方ない小学時代。それゆえ、地元ベイスターズが何十年ぶりかに優勝するときに周りの空気に流されて、魔が差してしまい、一瞬ベイスターズを応援してしまった。この「転向」を今でも後悔しており、私の中で大きな心の傷になっている。(大袈裟だけれど、嘘ではない)

 子供だから「転向」してしまい、それに罪悪感を覚えるほどに、私はタイガースが大好きだった。新庄、オマリー、八木、関川、久慈、石嶺、桧山、薮etc… 新庄とかほんと阪神の頃からファン思いだった。ベイスターズ戦で大魔神佐々木が出てきた時の終わった感は半端なかった。

 私が「大好きだった」過去形なのは理由があって、2003年にリーグ優勝してガスが抜けたからだ。あの時は星野監督に金本、今岡、赤星、矢野、藤川etc… あの時、本当に嬉しかったな。お分り頂けるだろうか。小学校低学年の頃から鬱積とした気持ちが高校二年のときにやっと報われた時の気持ち。本当に嬉しかったのだ。そして2005年にもリーグ優勝をすると、謎な自意識が芽生えた。「強い阪神を自分が応援する必要はない」。どう考えても謎な自意識なのだけれど、でもなぜかそう思った。それに加えて、2004年から私自身が精神的に病んでしまい、野球とか観る気持ちの余裕さえなくなった。その結果、しばらく野球から興味が離れて今に至る(WBCとかは観てたけど)。

 さて2019年になり、アメリカに来て、まあ詳しくはないけれどメジャーリーグの試合は観ておこうかと思った。語学学校のアクティヴィティでニューヨーク・メッツの試合を観に行く機会に恵まれた。ただ、メッツが好きとか嫌いとかいうわけではないのだけれど、正直、ニューヨーク来たからには名門ヤンキースだろ、という気持ちがあり、実際に後日ヤンキース・スタジアムに向かった。しかし、そこで私の中でまたしても謎な自意識が炸裂し始めた。「ん。ヤンキースって名門で常勝チームだよな?それって日本なら巨人の応援に行くことと同じじゃない?え、あの弱きタイガースに魅入られ、あの弱きタイガースを愛した自分がアメリカだとはいえ、巨人を応援するようなことして許されるのか???」と。いや、どう考えても許されるのだけれど、私には「転向」したという心の傷があるのだ!別に私は巨人が嫌いなわけではないし、アンチとか良くないと思っているし、今年引退される阿部選手に甲子園でエールがあったニュースを聞いて、同じ気持ちなったくらいにリスペクトがある。でも、それでも、私はあのクソザコだったタイガースを愛していたのだ!!

 そこで地下鉄に乗りながら、メジャーリーグのチームについて調べ始めた。やはりヤンキースは日本で言うなら巨人的な存在であることを確認すると私の悩みはより深くなるのであった。そんなときに、ヤンキースのライバルチームはボストン・レッドソックスだと知る(それくらいメジャーのことを知らない)。しかも、そのレッドソックス、86年間もワールドシリーズから遠のいていたチームで、応援も熱狂的らしいではないか。中にはタイガースとレッドソックスの類似性を指摘するようなブログか記事かもあった。(近年は割と強いのだけれど)

 そうと分かれば、私はレッドソックスに興味が引かれるわけである。もちろん経験としてヤンキース・スタジアムでの試合は観戦したけれど、もう気持ちはフェンウェイに向かっている。そんなわけで、夏休みの間にボストンに旅行に行った際、レッドソックスの試合を観に行ったわけである。

 レッドソックスのファンはヤンキースやメッツのファンよりも熱い。これは事前情報通りだった。会場の空気が少し違う気がした。そんな中、ウキウキしながらユニフォームを買って着て席についた。お隣のご夫婦はもう年季の入ったユニフォーム着ているし、プレイに対するリアクションもなかなか熱い。私がユニフォームに着替えたのを見ると、ちょっと一瞬だけ「おっ」という顔をしていた。その顔を見逃さなかったので、折角だから英語の勉強も兼ねて、「自分は日本から来たのだけれど、松坂とか覚えてる?」と聞いてみた。そうするとおばちゃんが「MATSUZAKA!覚えてるよ!でも、日本人選手ならKOJIが最高だぜ!!フーーー!!」(意訳)みたいに言っていた。レッドソックスのファンにとっては松坂より上原浩治の方が人気のようだ。KOJIがいかにいい奴かを力説していた。上原が引退したことを告げると、「そうかそうか、本当にKOJIはいい奴だった」(雰囲気)と言っていた。レッドソックスのファンは上原が大好きのようだ。おばちゃん、それから色々と逆に話しかけてくれて、仲良くなって、最後には一緒に写真も撮った。9回で負けていた時なんて「今日はお前のために勝たないといけない!」って言っていた(笑)それもこれも私が日本人であり、そして日本人投手のKOJIがレッドソックスで活躍してくれていたからだ。ありがとう、上原。


 力のこもった応援をするそのおばちゃん、私が「ニューヨークに二日後には戻るよ」と伝えたら、「あんた、ニューヨークに戻ってもヤンキースだけは応援するんじゃないわよ!!」って言っていたのには流石に笑った。「やっぱりファン的にそんな感じなんだ、というかその感じなんか知ってる(笑)」って思った。ヤンキースとレッドソックはそういうライバル関係なのだろう。そして基本的にレッドソックスはヤンキースより弱いという位置付け。私にはどうやらやっぱりレッドソックスが合うようだ。

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