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二つの「お上りさん」

 タイムズスクエアはニューヨークを象徴する場所だ。そこに留学初日深夜に行って、やっぱり良かったと思う。振り返ってみて、前の投稿のように色々なことがあったり、思ったりしたからだ。後々分かったのだけれど、私がタイムズスクエアに肩透かしを食らった理由は少なくとも三つある。一つは時間帯だ。タイムズスクエアは観光客しか来ない。ニューヨーカーがわざわざ訪れるような場所ではないのだ。渋谷のハチ公やスクランブル交差点を都民は別にありがたがりはしない。待ち合わせに使うか、人混みだなと思うか、そんなところだろう。それと同じで、タイムズスクエアはニューヨークの象徴であれど、ニューヨーカーの集う場所ではないのだ。だから、ド平日の深夜に行ったら、当然人はいないので、「何か期待していたのと違う」と思うのは当たり前なのだ。もう一つの理由は、本来ならあるはずの一番目か、二番目に大きいディスプレイが修理中であったことだ。修理が終わった後に、しかも深夜ではない時間に、改めて行ってみたのだが、賑わいと煌びやかさに差があった。しかし、もうその頃はタイムズスクエアにも慣れてしまっていたので、やっぱり感慨は薄かったのである。

 三つ目の理由は事前に写真による印象だ。タイムズスクエアと検索して画像をざっと見ていただきたい。すごく煌びやかだと思う。あれは写真を加工しているから。それか大変に腕のいい人や大変にいいカメラを使用しているから。なんにせよ、あのイメージで行ってみるとそれとは違う。写真を実際よりよく見せることに批判をしたいわけでは一切ない。でも、写真のイメージで行くと肩透かしを食らうと思う。

 私は「上京」というものをしたことがないから、いわゆる「お上りさん」という経験をしたことがない。地方出身者の東京に対する感情の「あるある」が正直分からない。別にバカにしているとかいうわけではない。単純に分からないのだ。「東京」と題される名曲はたくさんあるし、私も好きな曲があるけれど、完全に感情移入して聴いているわけではない。私の数少ない友達Aくんは地方出身なのだが、彼とそうした曲について話すと、やはり熱の入り方が私とは少し違うのだ。でも、世界の中心であるニューヨークに来て、私はその「お上りさん」というものになっていると思う。タイムズスクエアに限らず、SOHOエリア(日本で言えば代官山みたいなオシャレな場所)とか歩いているとテンションが上がる。

 そんなニューヨークでの生活についてAくんとLINE電話で話していた。私がタイムズスクエアで食らった「裏切り」「肩透かし」について伝えると、Aくんは実に興味深いことを教えてくれた。「お上りさん」には二種類いるらしい。一つは、東京に出てきて、純粋に東京をエンジョイするタイプ。いわゆる典型的な「お上りさん」で、東京で浮かれちゃっているわけである。このタイプのお調子者は大学でも目にしたのでよく分かる。意外だったのは二つ目のタイプだ。憧れや期待を持って東京にやって来たのに、どうも思っていたのと違う、こんなはずじゃなかったと落胆するタイプの「お上りさん」がいるらしい。

 つまり、私はタイムズスクエアで後者のタイプの「お上りさん」になったわけだ。これはすごく私には意外なことだった。そういうのもあるのか、と。いずれ書くと思うけれど、私はブロードウェイで“Wicked”を観ても感動しなかった。私はミュージカルに精通しているわけではないから、本当に素人目線だけれど、“Wicked”を観たら逆に劇団四季はレベルが高いのだなと思ったのである。高層ビルと言われてもスカイツリーの方が高い。リトルイタリーというイタリア人街は雰囲気が好きで、映画「ゴッドファーザー」を思い浮かべながら食事をするのだけれど、食事自体は大した感動はない。不味くはないけれど、格別美味しいわけでもない。ニューヨーク在住10年オーバーの人によると、どうやら観光客が勝手に集まるような場所だから、そういう味に対するモチベーションが低いらしい。さっきも書いた通り、私はSOHOエリアの雰囲気が単純に好きで、今でも散歩がてら歩く。それを例外とするなら(あえて言えば、SOHOだって代官山みたいなわけで…でも好き)、なんかニューヨークも東京と大差ないわけであり、正直なところも感動もそう大きくはない。人間の感情は不思議なもので、なんとか感動しようと思うのだけれど、どうも感動し切れない。もちろん、普通に観光して、こんなところあるんだ、見られて良かったな、とは思う。でも、それは完全な感動に結びつくわけではなく、やはり想定の範囲内なのだ。


 斯くして私も無事(?)「お上りさん」になったわけである。

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