表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/48

身勝手さを〈文化の違い〉という言葉でうやむやにするな!

 前回は寛容なホストファミリーと、ちょっとアレなルームメイトについて書いた。今回はそのルームメイトと私のバトルについて書いていこう。

 ホストファミリーも彼女には手を焼いていたようだ。ホストファミリーが旅行中している間、ホストファーザーから私に連絡があり、「ルームメイトは家にいるかい?もしいるなら返信して欲しいと伝えてくれないかい?」という旨の連絡があった。彼はどんな問題が起きているかはその時は言わなかったけれど、まあ朝食の件でもめているのは彼女から聞いていたので、要件は察することができたし、実際にその件だった。

私は彼女 (ルームメイト)にホストファーザーからの連絡のことを伝えた。彼女はホストファーザーから連絡が来ているのを知りながら、わざと、あえて、意図的に無視をしているらしい。彼女なりにホストファミリーに対して積もり積もった怒りの感情があるようだ。そして自信たっぷりにこう言った。


  「これがヨーロッパのやり方だ」


え? そうなのか? 単にホストファミリーにムカついているから返信したくないだけでは?私は困惑した。だいたい、自分がヨーロッパ代表みたいな言い方できる傲慢さに閉口する。どっからそのドヤ顔きているの?

 「あ、そうなんだ。」といった感じで私はそれをスルーした。そして、ホストファザーと再度連絡した。なんかチクるみたいで気持ち悪い気もするが、何も言わないでいるのも気持ち悪い。前回も言ったけれど、ランプを壊しても怪我がないか心配してくれた、そんな寛容なホストファミリーに感謝しており、またホストファミリーが好きだ。一方、自分勝手なルームメイトには苦手意識がある。だから、必然的に、感情的には私はホストファミリー寄りの人間だ。彼女に対して意地悪をしようとは一切思わないけれど、味方をする気はサラサラない。

 ホストファミリーも私のことを少し信用してくれていたようだ。ホストファミリーの旅行中、郵便物や宅配物は家の玄関の前に溜まっていた。アメリカではそういうものは家の前に放置されていることが多い。今私はアパートに住んでいるのだけれど、アマゾンとかで注文しても、荷物はアパートの玄関に放置されている。自分の荷物かどうか確認して、それを拾って部屋に持ち帰る仕組みだ。他人の荷物もたくさん置いてある。正直、誰かが盗んでも、誰かに盗まれても、犯人は分からない。マックやスタバのトイレはロックされていて、購入者しか使えないようなセキュリティが厳しい国なのに、そういうところはルーズというか、杜撰だ。

 その時期、基本的に晴れていたのだけれど、ある日雨が降っていた。その郵便物が濡れてしまうので、中に入れようと思ったが、ホストファミリーのものを勝手に触ってトラブルが起きたらどうしようとも思った。でも、やっぱり郵便物が雨で濡れるのもどうかと思ったので、中に入れ、どこに置いたかをホストファーザーに連絡した。彼はお礼を言って、さらに「申し訳ないんだけれど、宅配物は食品だから開封して冷蔵庫に入れてくれないかな」と言った。それくらいは大したことでもないので、二つ返事で了承した。そういうことをお願いしてくれるくらいには信用してくれているのかな、と受け止めた。(ちなみにたまにホストファミリーが留学生を小間使いのようにしたり、差別的な仕打ちをしたりすると聞く。でも、私のホストファミリーが私にお願いことをしたのは後にも先にもこれくらいなものだった。)

 なんか私が点数稼ぎしているような形になってしまったが、協力的でルールを守る私とギャーコラ文句垂れているルームメイト。ホストファミリーは旅行から戻ると、改めて私に感謝の意を伝え、そして、そのルームメイトには二度と部屋を貸さないと言っていた。


 さて、ここからが話の本番だ(笑)ついに私がキレた(笑)ことのきっかけは(1)彼女がバスルームで水着を干していたことと(2)冷蔵庫を実質占有していたからだ。(1)私が誤認したのはその水着を下着だと思ったことだけれど、そこはさして問題ではない。そこは洗濯置き場ではない。いや、それよりも正直いえば、そんなものを私は見たくないのだ。もし男性である私の水着あるいは下着を女性も利用する空間に置いていたらどうだろうか?下手するとちょっとした問題になりかねない。でも、これだけなら私もキレることはなかっただろう。でも、まあ下着のようなビキニなんて見たくないのは本音だ。

 (2)問題は冷蔵庫だ。収納は見開き部分と4段の棚。でも、彼女はその大半を占有していた。大半というのは、見開き部分と下3段と一番上の半分。私が使えたのはその一番上の段の残り半分だ。私はどこに物を入れれば良いのか。このやり方に私は遂にキレた。ナメんなよ、と。


 「下着を干すな!冷蔵庫に物を入れられないだろ!」


驚いた彼女はすぐに謝った、、、なんてことは当然なく、すぐに逆ギレを開始した。


「濡れているものを私の部屋におけない!床が濡れるでしょ!あんた、いつも冷蔵庫使ってないじゃないの!!」


「自分で工夫してどうにかしろ!私はお前の下着を見たくない!冷蔵庫だって、お前が占有しているから使ってないんだ!だいたいスペース開けておけ!!」


「落ち着きなさいよ!(Calm down!!!)」


「(煽ってんのか、こいつ?!)お前が落ち着け!」


こう振り返って日本語で書けば自然な表現になるが、実際はお互いにクソ下手な英語で怒鳴り合っていたのだから、もう文法やらなんやら滅茶苦茶だっただろう。けれども、不思議なことにお互いに何にキレているのか結構理解していたと思う。

この怒鳴り合いを聞いて、ホストマザーが慌てて、私たちのところに飛んで来た。


「どうしたの?!二人ともやめて!!」


 ホストマザーは胸に手を当てて、本当にビックリして心臓に良くないから二人とも大声を出すのはやめて欲しいと言った。

ルームメイトはそのホストマザーに対して大声こそ出さないものの、何があったのか自己主張をまくしたてて一方的に話した。でも、ホストマザーが、出禁にしようと思っている奴と、協力的な私のどっちの味方をするかは明白だったし、そうした背景を抜きにしても、冷蔵庫の中を一目見れば、私に軍配が上がるのは自明だった。自己主張を繰り返すルームメイトをよそに、私はホストマザーに「ちょっとこの冷蔵庫を見てよ。私が使うスペースがないんだ」とだけ言って、冷蔵庫を開けて見せた。「これはアンフェアね、あなた(ルームメイト)、スペースを作りなさい」とホストマザー指示した。ホストマザーがその家のルールだ。決定権を持っている。さすがにコソコソとルールを破っていたルームメイトも言い返す言葉がない。それに加えて「彼は若いし、あなたの洗濯物を見たくないわ。下に敷くビニールを用意するからそこに自分の部屋で干しなさい」と言った。(私もいいおじさんだけれど、こちらでは若く見られる傾向にある。強盗に襲われたときに警察にも「え、お前33歳なの?!」と驚かれた。日本ではあまり経験しないリアクションだ。)

 なににせよ、全面勝利だ。ホストマザーは別の階に降りていった。とはいえ、正直、私はルームメイトにめちゃくちゃ腹が立っていたし、謝罪ひとつないことにも苛立っていた。今思うとこれは私の未熟なところだが、「一言も謝っていない。謝れ」と言った。今から思えば余計なことをしたと思う。そこまでする必要もなかっただろう。でも、当時、私は彼女の傲慢さや積み重なった自己チューっぷりに心底、憤慨していた。

彼女は「”apologize”ってなんだ!お前みたいに英語できないからわかるように説明しろ!!」とまたキレた。「I’m sorryって言え」と言ったら、当然さらにキレた。もう怒りはあってももうかなり落ち着いてもいた私は、「落ち着けって」と言ったので、彼女は煽られたようで余計にムッとしたようだった。彼女は最後まで謝らなかった。

 そして、彼女は「これは文化の違いだ。だから、怒る前に言って欲しい。」と言った。ふむ。一見、すごく真っ当なことを言っているように思う。確かに私の言い方はよくなかったかもしれない。ただ、「ナメなよ」という気持ちが非常に強かった。実際に私はシャワーの件で抗議もしていた。彼女の生活態度に不満があることは示唆したつもりである。一つ一つやりとりしたらキリがない。でも、彼女にとって個別の問題は個別の問題に過ぎないのだろう。根幹にある彼女の自分勝手さというところに思考は及ばない。おそらく海外生活ではそういう思慮深さを私も相手に期待してはいけなかった。そして、彼女から見れば、私のキレどころは謎なのだろう。一般的に〈日本人は何でキレるのか分かりにくい〉と言われることもあるそうだが、おそらく彼女からみれば私はその典型的な日本人だったのかもしれない。そういう感情表現という点では確かに「文化の違い」があったのかもしれない。

 しかし、私が感じた一番の問題は、自分の身勝手さや自己チューっぷりを「文化の違い」だなんていう言葉で誤魔化した点だ。文化の違いだといえば、なんでも許されるのか?私はこのトラブルを差別に起因するものだとは捉えていない。でも、文化の違いだとは到底思えなかった。当時の語学学校にいたスイス人を含むヨーロッパ人はそんな自己チューには見えなかった。若いせいかオラついている奴はいたけれど、でも自己チューとは違った。都合よく「文化の違い」という言葉を持ち出されることは相当に不快だった。

「文化の違い」は誰が悪いわけでもなく、仕方がなく引き起こされたトラブルを説明する際に用いることのが適切だ。それはトラブルの全当事者の責任を免除する言葉だ。違う土地に住む人たちの間にある止むを得ない齟齬を説明するための言葉だ。でも、今回のケースは彼女の責任だと少なくとも私は考えている。また、事実として、仲裁人であるホストマザーに私の異議申し立ては認められた。それを都合よく「文化の違い」で逃げるのは、汚いやり方だと思う。第三者の立場のアメリカ人は日本人よりもヨーロッパ人に感性が近いと思われるが、そのアメリカ人も日本人の主張を認めたのだから、文化の違いという言葉を使うのはやはり卑怯だと思う。もちろん、ヨーロッパ人が卑怯だと思っているのではなく、彼女を卑怯だと思っている。

 話の流れで(前後の文脈を正確に覚えていないのだけれど)、私は「これは私たちの問題だ」と言ったら、またキレた。「私が悪いって言うのか!」みたいに言っていた。いや、悪いじゃん(笑)でも、事態の落とし所を探るために私は「私たちの(our)」と言っていたのである。だから、”Not your problem, I said OUR problem.”ともう一度言った。彼女もその時はハッとした顔をしていた。

 これで話は終わった。


 その数週間後、彼女は「トイレットペーパーを補充しておけ」と命令してきたが、どこにあるか知らず、ホストファミリーもいなかったので放置していたら、またブチギレていた。トイレットペーパーは普段ハウスキーパーが補充してくれる。あるいは、私はホストファミリーに直接言って受け取っていた。

彼女はトイレットペーパーの保管場所を知っていたから私をそこに連れて言って、「頼んだだろ!」と叫んでいた。当然、場所を知っているなら自分でやればいいのにと思ったが、でも、もう面倒臭いのと「こいつ、もはや怖いわ」という気持ちで、即 “I’m sorry”と謝った。彼女は “I accept your apology”と鬼の形相のまま言っていた。 “apologize”という単語をあの事件の後、覚えたんだなあと思って聞いていた。


 ちなみに、今私は日本人3人とアパートでルームシェアをしているのだが、こうした冷蔵庫トラブルは生じていない。お互いに譲り合って使っている形だ。日本語で意思疎通できるというのもトラブルが起きない要因だと思う。NYに7年くらい住んでいる今のルームメイトによれば、冷蔵庫トラブルはアメリカではあるあるらしい。勝手に人の物を食べる人もいるそうだ。日本ではどうなんだろうか。


 さて、このエピソードを書いたのは、元々はアメリカ人が抱いているヨーロッパ人のステレオタイプを説明するためだ。最後にその話をしよう。

冷蔵庫問題の後、私はホストマザーに謝りに行った。


「驚かせてすみません」


「あなたものこれから何かあったら、彼女に直接言うのではなく、私に直接言ってね。」


 私は了承して、再度謝罪をした。ホストマザーは私に怒っているわけではないことはその場の空気や表情をみれば分かった。お互いにあのルームメイトには困ったものだ、という想いだったのだろう。彼女の話題になった。ホストマザーは彼女を“crazy”と形容していた。私は「彼女は自己中心的だし、決して謝らなかった」と言った。そしたら、ホストマザーは


「それがヨーロッパ人のやり方だ」


と言った。


 前々回に話したアメリカ人と同じ印象をホストマザーは口にしたのである。スタンドアップ・コメディでもアメリカ人は訴訟好きだと自虐している。それくらい自己主張が強い国だ。そのアメリカ人にもヨーロッパ人は自己中心的だと思われている。他のアメリカ人に聞いたわけではないし、聞きにくいことなので、事の真偽は定かではない。私はヨーロッパ人を自己チューと決めつけようとは思わないし、そういう意図でもこれを書いているわけでもない。ただ、そういう印象を抱いているアメリカ人が少なくとも二人はいた。この事実だけは事実としてある。この印象が芯を捉えたものなのかどうかは分からない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ