寛容なホストファミリーとトラブルメーカーのルームメイト
今回はトラブルに至る背景なので正直読み飛ばしてもらっても構わない回です。
私が経験したトラブル本番(?)は次回書きます。
私はイギリス人を含むヨーロッパ人が身勝手だと確信しているわけではないが、少なくとも中にはそういう人もいることは事実だ。日本人にも身勝手な人はたくさんいるわけで、人種や国籍に関わりなく、そういう人は一定数いる。実際に特定の人種や国籍の人が相対的に身勝手かどうかは統計をとらないと分からない。ただ、そう思っているアメリカ人は、前回書いた人だけではなく、他にもいた。
私はこちらに来て最初の3ヶ月、ブルックリン区にあるご家庭にホームステイをしていた。そこのホストファミリーは宿泊者に積極的に話しかけたりしない。それを物足りないと思う人もいるだろうけれど、週2日は3時間、週3日は1日7時間、語学学校にいて、もうクタクタで帰宅して、さらに家でも英語で話さないといけないというのは私にとって大変な重圧なので、そのホストファミリーが放任であったことは私には良かった。でも、最低限の挨拶とかはするし、生活する上で必要なことがあれば話す。たまにホームステイ先でこき使われたとか、差別や意地悪されたとか聞くけれど、全くそんなことはない。むしろ、すごく優しかった。
ある時、私の過失でご家庭においてあったランプを壊してしまった。正直、青ざめた。当時は全然こちらでの生活にも慣れていない時期で、ホストファミリーの家で過ごす時間もまだ2ヶ月くらい残されていたと記憶している。良好な関係を築きたかったし、それがきっかけで変になったらどうしよう、正直高価なものだったらどうしようとか色々と焦っていた。でも、粉々に割れたランプを見ながら、正直に謝って、弁償するしかないと思い、恐る恐る階段を降り、ホストファミリーにそのことを伝えた。「もちろん自分で掃除するし、弁償もします」と。でも、ホストファーザーもホストマザーも最初一瞬だけ驚いた顔をしていたけれど、でも、「弁証とかそんなことは気にしなくていいよ、ランプなんて単なる物だから。それよりあなたに怪我はない?」と言ってくれた。すごく寛容で優しくて親切なホストファミリーだった。
唯一の不平があるとすれば、それは朝ご飯(一緒には食べない)がかなり質素だったこと。夜ご飯はないけれど、朝飯はホストファミリーが提供してくれるという契約だった。でも、どうやらアメリカの朝ごはんはかなり質素なものらしい。ある時、クラスでアジア人は朝からサラダとか食べるけれど、豪華だなってアメリカ人とスペイン人に言われたことがあった。彼・彼女らの朝ご飯は実に質素。りんご齧って終わりとか、パンとコーヒーとチーズとか。どうやらそんな感じらしい。私としてはスクランブルエッグとかベーコンとか食べたかったのだけれど、そこは文化の違いのようだ。
そこのご家庭は2部屋貸し出していた。その2つの個人部屋に加えて、結構広い共同スペースが一つある(16畳くらい?もっと広かったかな)。そこにはソファがあり、勉強机もあり、テレビもあり、冷蔵庫もある。しばらくの間は私一人だったので、個人部屋はもちろんのこと、その共同スペースも一人で快適に使っていた。
だが、2ヶ月経ったあたりで、後に私と怒鳴り合いの喧嘩をすることになるスイスからの留学生(女性)が現れた。要するに彼女は私のルームメイトになるわけである。その留学生は50歳かそれを越えたくらいの年齢の女性で、デザイナーか建築アーティストかなんかの仕事をしていて、すでにお子さんもいると言っていた。最初は普通の人に見えた。でも、後々聞いたのだが、彼女はあの温厚なホストファミリーをも激怒させていた。細かいことを言うと、私がその家に来た1日目〜2日目くらいに彼女はいて、その時に挨拶をしていたので初対面ではなかった。でも、その二日間で全く彼女とは話さなかった。彼女はその家に出戻って来た形になる。
彼女の生活スタイルに最初違和感を持ったのは、彼女がシャワールームで物を干していたことだ。シャワールームで干しているといっても、干し場所があるわけではない。シャワーのノズルに洗濯物を吊るしていて、シャワールームの中で干しているのだ。女性の洗濯物を触って、移動させるわけにはいかないし、正直いえばその人の下着なんて見たくない。まあそういう快不快の話を別にしても、女性の洗濯物を私が触るわけにはいかないので私はシャワーが使えないのである。運が悪いことにその時、彼女は外出していたようで、私はシャワーをその時に使うことができなかった。
私は彼女が帰って来て、会って、ことの次第を説明した。彼女は申し訳なかったと言った。ちなみに、彼女も同じ学校なので分かるのだが、彼女の英語力は私よりもない。クラス分け試験では私の方が上だった。私だって英語ができる方ではないから、彼女の語学力はアレだった。これは彼女をバカにしたくて言っているわけではない。二人とも英語が得意でないからコミュニケーションが十全に取れないということ、そして彼女はその語学力が原因の一つでかなりストレスを抱えていたかもしれないということ。この二つを言いたいがために彼女の語学力に言及した。
いずれにせよ、彼女はこうした身勝手さがある。他にも彼女には問題があった。これは私が被害を受けたわけではない。怒っていた、というかブチギレていたのはホストマザーだ。私がランプを壊しても怪我がないか心配してくれるあの優しいホストマザーをブチギレさせたのである。ホストファミリーの家ではルールが設けられる。うちのところだと、洗濯機を使ってはいけないことや、コンロで調理をしてはいけないことなどがあった。私は日本で暮らしているときからずっとコインランドリーだからその1点目のルールは特に不平はない。朝ごはんは向こうが出してくれるのだけれど、コンロを使えないことは夜ご飯を外食やテイクアウトで済ませることを意味する。NYは基本的に物価が高いので、それは少し困ったと思っていたけれど、でもルールなので従っていた。レンジがあったし、元々そんなに何かを作る方でもない。お肉を焼きたいとはずっと思っていたけれど。
しかし、ホストマザーによれば、彼女はそうしたルールを無視していたそうだ。とりわけコンロのことはマジでキレていた。火事になったらどうするんだ、と。ホストマザーも少し心配性なところはあるように感じるけれど、それでもその家のルールはルールなのだからルームメイトの彼女はそれに従う必要がある。また、実際火事になったら、ホストファミリーは家を失うかもしれないので、確かに一理ある。だから、もし使うのであれば、洗濯機にせよ、コンロにせよ、ホストファミリーに彼女は許可を求めなければならない。そういうことを怠ったようだ。
とはいえ、彼女にも言い分はあるようだ。彼女はそこの家を使うのがその時3回目だとか言っていた。前回よりも値段は上がったし、洗濯機やコンロの使用禁止はその3回目に来た時に聞かされた新たなルールだったそうだ。「だいたい、子供じゃないんだから、火事なんか起こさないわよ!」といった感じだった。でも、そう思うなら、ルールを破るんじゃなくて、許可を取ればいいだけでは…
彼女がホストファミリーに対して不信感を募らせたのは他にも原因がある。それだけは彼女に分があった。ことの発端はホストファミリーが旅行か実家に帰るかでNYの家を数週間出る時だった。その期間、契約に含まれる朝ご飯の手配をホストファミリーは行わない。要するに朝飯代込みで支払いをしているのに、その責務をホストファミリーは履行しないというのである。私自身もそれはいかがなものかと正直思った。コンロも使えないことにキレていた彼女は猛抗議したようだ。結果、朝ご飯を買った場合、レシートを見せたら後でお金を払うとホストファミリーは言ったそうだ。そのことを彼女は私に教えてくれた。
ただ、正直、朝飯代くらい別に私にはどうでも良かった。ランプを壊している負い目がある。それにその時は独立記念日の前で、そのシーズンはアメリカ人にとって重要で、日本で言えばお盆に相当する。それなら旅行でも、帰省でもどうぞどうぞ、というスタンスだった。冷蔵庫にも多少は食事もあったし。寛容なホストファミリーと揉めたくないし、心底朝ご飯のことなんかどうでも良かった。結果、私は負い目があったのと面倒だったので、朝ご飯代は請求しなかった。私は彼女がホストファミリーといくら揉めようがどうでもいいけれど、それに私を巻き込まないで欲しかった。
その数週間の間は、そのルームメイトと私の二人である。彼女は親切にも「私が買った牛乳とか飲んでいいし、チーズとか食べていいから」と言ってくれた。だから私も同じようなスタンスでいた。でも、彼女に学校で「フルーツ買っといて」と言われた時はカチンと来た。私はフルーツを朝ご飯で基本的に食べない。たまにブルーベリーをホストファミリーが置いてくれていれば食べたけれど、基本は食べないし、私は彼女が買ったフルーツを食べたことはないし、フルーツを食べたいと言ったこともない。だから、「自分が食べたいものは自分で買え」それが正直な感想だったので、それは自分で買って欲しいと断った。私は彼女の小間使いではない。
でも、彼女はお願いするときのフレーズを知らなかったのかもしれない。 “Can I ask your favor?”とか“Could you do me a favor?”とかがおきまりのフレーズだ。でも、彼女はそういうのをすっ飛ばした。そこも私がカチンと来たところだ。不躾なのである。それでも互いに語学力には難があるので、あまりこの問題に拘泥するのも良くないかもしれない。ただ、言い方でその人のお願いの仕方の不遜さとか感じるものはある。
もう私もこのルームメイトに正直イライラしていたので、小さなことでも気になっていたのだと思う。そのホストファミリーがいない期間は、ゴミが溜まっても誰も処理する人がいない。でも、彼女はそうしたことを行わなかった。私は事前にホストファミリーにゴミ袋の場所やらゴミ捨て場を聞いていたから自分でやった。別に感謝されたいわけでもないし、大したことでもないから私がやる分にはいいのだけれど、「彼女はそういうことに気がつかないのかな?」とも思っていた。確かにハウスキーパーが2週に1度来てくれるけれど、そんな頻度ではゴミ箱は溢れかえる。気がつかないわけはないと思うのだけれど。でも、まあこれは瑣末なことだ。
そんなわけで私はこのルームメイトに対してあまりいい感情を抱いていなかった。私も思うことがあるし、向こうは相変わらずの調子で、結果、この後、怒鳴り合いの喧嘩が繰り広げられることになる。




