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エリーの場合

作者: ユンボイナ

S小学校の5年生女子の間では「お姉様ごっこ」が流行っていた。6年生の女子と擬似姉妹関係を作るという、非常に他愛のない遊びなのだがルールがあった。それは、「妹」から見て「お姉様」は1人でなくてはいけないし、「お姉様」から見て「妹」も1人でなくてはならなかった。また、「お姉様」と「妹」は交換日記をする義務があった。この交換日記は、「お姉様」側にはめんどくさくて負担だし、「妹」は「お姉様」の書いた日記を友達と会話のネタにするし、はっきりいって「妹」側にしかメリットがないルールだった。


それでも、「お姉様」側にも、「妹」がいることは人気のバロメーターになると考えて、「妹」を獲得したがる者がいた。江口ひかるである。彼女はこう言った。


「ねぇクララ、どこかに『妹』落ちてないかな?」


クララと呼ばれた江口のクラスメイト、蔵本夏海は顔をしかめた。


「物じゃないんだから落ちてるわけないでしょ!」


「私もクララみたいに『妹』欲しいよぉ。エリーに『妹』紹介してもらってよ。」


ひょんなことから、蔵本とエリー、池田恵理子はついこの間「姉妹関係」を結んだばかりだった。


そもそも、蔵本と池田は同じ習字教室に通っていたが、先週の土曜日、すなわち習字教室が終わった後、蔵本は池田に呼び出された。


「あの、蔵本さん、帰りに公園に来てください。話があるんです。」


「何かよく分からないけど……いいよ。」


蔵本は、他の小5の子たち、例えばちょっとやんちゃでな板野や、絵を描くのが好きで大人しい北島なんかとは、隣のクラスの石井里子(通称・さとちゃん)と一緒にガヤガヤと話をすることがよくあった。しかし、池田は板野や北島とそれほど仲が良くないようで、したがって蔵本も池田とは話をしたことがなかった。


石井が蔵本をからかった。


「あれじゃない、お姉様になってくださいって言われるんじゃないの?」


「まさか! 私、池田さんなんかよく知らないし。」


お姉様、という単語を聞きつけて、板野と北島がさっと集まってきた。


「蔵本さん、モテてんじゃん。」


「板野ちゃん、さとちゃんと一緒になってそんなこと言わないの!」


「しかし、お姉様といえば、佐古さん騒動はすごかったね。石井さん、佐古と同じクラスだから詳しいんじゃないの?」


石井は待ってましたとばかりに話を始めた。


「あれね、月曜日にサコちゃんが5年生の女の子3人にグルッと囲まれたやつ。」


経緯としてはこうだ。初め、5年1組の、校内で一番可愛いと評判だがプライドの高い三好佳奈が、「私のお姉様は、6年4組の佐古さんしかいない!」と騒ぎ出した。何でも、顔が可愛くて頭も良く、運動神経が抜群の佐古くらいしか、自分とは釣り合わないだろう、ということのようだ。佐古は、5年生のときにS小に転校してきて以降、その愛らしいルックスと愉快な言動で学年中の人気者になったが、勉強も体育もかなり成績が良く、職員室での評判も良かった。


「そう、毎度お騒がせ三好佳奈が発端なんだけどね、それを聞きつけたうちのクラスの山城さんが『バカ言ってるんじゃない、佐古さんは三好さんみたいな空っぽな女には見向きもしない。私みたいにリーダーシップが取れて発言力のある、中身のある人間じゃないと!』って言い出したの。『私が三好さんみたいなのから佐古さんを守る』ってさ。」


北島がクスッと笑った。


「2人ともどうかしてる。」


板野がなおも話す。


「で、そんな中、4年生のときから佐古に片思いしていた3組の井川さんが、『やばい、このままじゃ押しの強い2人に佐古さんを取られちゃう』って焦って、2人に『私のほうが先に佐古さんのことを好きなんだから取らないで』って文句を言いに行ったの。その辺は井川さんと同じクラスのサブのほうが詳しいんじゃない?」


北島は、その苗字のせいで、サブとかサブちゃんとか言われていたが、本人は特に気にしていなかった。


「私、4年のときは井川さんと同じクラスじゃなかったし、今もそこまで仲良くないから、詳しくは知らないんだけど。ただ、井川さんが昼休みに窓から校庭を見つめてるなあ、と思ったら、その見てる先に佐古さん達がいて、みんなで話をしてた、ということはあった。で、今回の件で、普段静かにしてる井川さんが三好さんや山城さんに文句を言ったから、私驚いてしまって……」


板野はその続きを話した。


「それで、3人で話し合いをすることになったんだけど、誰も譲らないから、結局山城さんが『佐古さん本人に決めてもらおう』と言って、月曜の放課後に3人で6年4組の前の廊下に押しかけたんだ。それ、石井さんは見た?」


石井はずっと話したくてうずうずしていたようで、勢い良く喋り始めた。


「見たよ! 私、教室を出て帰ろうとしたら、サコちゃんが5年の子たちに囲まれてて、サコちゃんはすごく困った顔をしてるのね。」


蔵本が口を挟んだ。


「そりゃ困るでしょ。いきなりだもん。」


お構いなく石井は続けた。


「気になるけど、あんまり堂々と見てるのも申し訳ないかなあって思って、忘れ物をしたふりして教室の中に戻ったの。で、すりガラスの窓の隙間から様子を覗いた。」


「で、で、どうだったの?」


板野は身を乗り出した。


「初め、サコちゃんは斜め上を見ながら、うーんって悩んで、『そうだ、三人とも交換日記しようよ!』って提案したの。だけど、身体の大きな子が、『佐古さん、それはルール違反です。』って。」


「あは、デカいのは山城さんだ!」


北島も吹き出した。


「いかにもそんなことを言いそう。」


「石井さん、続けて!」


板野が催促するので、石井はニヤニヤしながら話を続けた。


「で、サコちゃんね、『そんな、1人には決められないよぅ。』って肩をすくめて言ったんだけど、髪の長い子に、『決めてもらわないと困るんです!』って迫られてた。背の小さい……あれが三好さんだっけ?」


北島は頷いた。


「小柄でいつも髪を綺麗に編み込みにしてるのは三好さん。」


「じゃあ、その三好さんが、サコちゃんに迫るもんだから、またサコちゃんが斜め上を見てしばらく考えて。その後、ランドセルの中からゴソゴソ大学ノートを出してきて、1枚破ったの。で、今度は筆箱出して、シャーペンでぐちゃぐちゃ線を書いて……『よし、アミダにしよっ!』って。」


板野は盛大に吹き出した。


「佐古さん、酷い。妹をアミダで決めるとか!」


石井は佐古を擁護するように言った。


「多分、サコちゃんも悩んだのよ。自分で決めたら角が立つからって。」


蔵本がまた口を挟んだ。


「いや、絶対サコのことだから、めんどくさくなっただけだよ。」


蔵本は春休みから、佐古と同じ塾に通っていて、佐古がそういう性格だということを知っていた。


「まあ、5年の子たちも、『ひどい』とか、『もっと別の方法にしてください』とか抗議してたんだよ。だけどサコちゃんが、『いずれにせよ私が決めるんだから、私の決めた方法にしたがってもらわないと!』って言い返して、しぶしぶ3人はアミダくじすることになった。やっぱりサコちゃん、頭いいわ。」


「めんどくさいことを避ける能力は高いのよ。」


塾の宿題をしょっちゅう佐古に写させている蔵本はうんうんと頷いた。


北島が尋ねた。


「石井さん、それで結局、アミダで井川さんに決まったんですか?」


石井は答えた。


「あの、ボブであんまり特徴のない顔の子が井川さんか。とにかくその子が妹に決まったようで、『やったぁ!』って大喜びしてた。大きな子はガックリ肩を落として帰っていったし、髪の長い子は大泣きしながら走っていったよ。」


板野が言った。


「三好佳奈、そのショックで火曜、水曜と学校休んだって。ざまぁだよ。」


また北島が尋ねた。


「その後はどうなったんですか?」


「えーと、サコちゃんがその井川って子に、破った大学ノートの本体のほうを出して、『記念だからこれで交換日記する?』って聞いたの。井川って子、感激したみたいで、『はいっ、はい!』って。」


「ノートを新しく買うのがめんどくさかったんだな。」


蔵本が呟いた。石井はそれを無視して話した。


「サコちゃん、その場で何かノートにサラサラ書いてて、それを井川さんに渡してた。で、『じゃあ、これからよろしくね!』って。」


板野は首をひねった。


「佐古さん、ノートになんて書いたんだろう。サブは知ってる?」


「いや、井川さんが佐古さんの妹になったことは知ってるけど、ノートの中身までは……」


「井川さんさ、友達少ないから探りをいれにくいんだよ。サブ、井川さんの机かカバンから交換日記探して読んできてよ。」


北島は拒否した。


「嫌だよ、そんな泥棒みたいなこと。じきに男子が見つけて、中身が分かるよ。」


小5女子の間で「お姉様ごっこ」が流行ってすぐ後、小5男子の一部で「交換日記荒らし」が流行っていた。もちろん、同級生の女子がいかに浮かれた内容の日記を書いているかをバカにするのかが目的だ。だから、女子は交換日記の取り扱いにかなり気をつけていて、ノートを小さなものにして肌身離さず持っている強者もいた。


板野は石井に尋ねた。


「佐古さんが井川さんに渡したノートってどんなの?」


「水色の大学ノート。どこにでもあるようなやつ。」


「ふぅん。じゃあ、捜索も難航するかもね。」


「板野ちゃん、うちのクラスまで探しにこないでよ?」


北島がたしなめた。


「大丈夫、そこまで私暇人じゃないから。」


板野は舌を出した。


「というわけでクララ、クララにもそんな展開が待ってるかもよ?」


石井が蔵本の顔を見ながら言ったが、蔵本は断言した。


「ない、絶対ない。」




習字教室が終わって、蔵本は池田との約束どおりに公園に向かったが、その際石井は蔵本に向かって、「頑張って!」と叫んだ。「何を頑張るんだか分からない。」と蔵本はぶつぶつ言いながら歩いた。公園は歩いて2~3分の場所にある。到着すると、蔵本は入り口すぐのベンチに腰掛けた。


それから10分くらいして、紙袋ひとつを持った池田が走って現れた。習字教室を早めに上がって、一度帰宅してからやって来たらしい。


「あの、これ。」


池田は紙袋を差し出した。蔵本が中身を見ると、表紙にキャラクターが書いてあるA5サイズのノートだった。


「プレゼント?」


池田は首を振った。


「えーと、蔵本さん、私の『お姉様』になってください!」


蔵本は真っ先に公園のどこかに、石井や板野が隠れているのではないかと探した。こんなところを見つかったら何を言われるか分からない。


「ダメですか?」


「いや、なんか信じられないんだけど……」


池田はまだ小5なのに身長が160センチ以上あり、しかも山城のようには太っておらず、大人びた雰囲気があった。蔵本も学校ではあまり背の低いほうではなかったが、7~8センチくらい池田のほうが背が高かった。


「私がサコなら、こんなことを言われるのも分かるんだけど。」


「佐古さん! 私も佐古さんのことは知ってます。小さくて可愛くて、勉強もスポーツもできる上にとても気さくな人ですよね。人気があるの、よーく分かります。だけど、私は佐古さんにはあまり興味がないんです。なんかその……わびさびがないというか。」


たしかに、あの佐古にわびさびを求めるのは難しいだろう。しかし、蔵本にはわびさびがあるというのだろうか?


池田は続けて話した。


「蔵本さんは、佐古さんに負けないくらい、いや佐古さんより頭がいいとの評判で、私、ずっと前から蔵本さんのことを見ていました。」


「はあ。」


「それで分かったんです。蔵本さんは佐古さんよりずっとクールでかっこいいです!」


蔵本は首をひねった。自分は何もかっこいいと言われるようなことはしていない。


「習字教室でも、キャーキャー騒いでいる子たちの中にいながら、落ち着いて作品を仕上げています。」


それは、さとちゃんや板野の話に興味がないとき、適当に聞き流して書いているだけだった。


「この間も、廊下で佐古さんに『アホか!』と言ってましたよね。この学校で佐古さんにアホと言えるのは、蔵本さんだけです!」


確かに、蔵本は佐古にアホと言った記憶がある。しかしそれは、しつこく佐古が塾の宿題を写させて、と言ったからだ。可能な限り早く宿題を済ませてノートを貸せ、という話だったと思う。


「池田さん、多分いろいろ勘違いしてるよ。そもそも私、池田さんと話をするの、今が初めてだし。」


池田は目に涙をためていた。


「だから今日からちょっとずつ知っていきたいんです。ダメですか?」


蔵本も、泣きそうな年下の子に辛く当たることはできない。


「分かった、交換日記しよう。でもひとつだけ条件がある。」


池田が急にかしこまった。


「はい、なんですか?」


「絶対誰にも言わないで。私、周りからそんなことで騒がれるのウザいのよ。」


「分かりました!」


池田はお辞儀をすると、走って立ち去っていった。残された蔵本は紙袋を見てため息をついた。




蔵本も、池田と姉妹関係を結んだことについて誰にも言わないつもりでいた。しかし、同じクラスの江口には便宜上知ってもらっておいたほうがいいと考えて、自ら話した。学校で交換日記を受け渡しすることがあるからである。ちなみに、習字教室の、石井や板野、北島には、「塾のことを聞かれた」と言ってごまかした。信じてもらえるか不安だったが、板野が、「あー、あの子、B中狙いだって聞くし、それなら蔵本さんに相談するよね。」と言っておしまいになった。


江口は言う。


「エリーさ、背が高いだけかと思ってたけど、顔は整ってるし、家もまあまあお金持ちらしいし、なんかいいよね。」


池田は蔵本の言いつけを守っているようで、今のところ何も噂は立っていない。しかし、いろいろ面倒ではあった。週に2回は交換日記を書くように求められる(書かないと泣きそうな顔をされる)し、呼び方だってそうだ。


「私のこと、あだ名でエリーって呼んでください。蔵本さんのこともクララって呼びますから。」


蔵本は、このクララというあだ名が気にいっていない。小3くらいのときに誰かが呼び始めて定着してしまったものだが、佐古にはクララ呼びを禁止する程度には嫌なのである。


「エリーにクララ、外国人みたいだよね。」


江口は笑った。江口には、「エロ蔵」という不名誉なあだ名がある。蔵本はそれを使ってやり返した。


「エロ蔵が年下の女の子漁ってんのね。」


「うるさい! ねえ、クララ、習字教室の年下の子たちに聞いてみてよ。」


蔵本は首を横に振った。板野自身は家に本物の姉が2人いて、常々「お姉様」ごっこなんてバカみたいだと笑っているし、北島にも中学生の姉がいて、「本当の姉はそんなに美しいものではない。」と北島に同調していた。


「習字教室にいる子じゃなくて、その友達でいいんだよ。」


「分かった、ダメだと思うけど一応聞いてみるね。」


仕方なく、蔵本はそう言った。


その週の土曜日、蔵本はうまく課題が書けなくて退屈そうにしている板野に声をかけた。


「板野ちゃん、『お姉様』を探してる友達はいないの?」


「へっ、蔵本さん、自分のことじゃないよね。」


板野はニヤニヤしながら聞いた。


「違うよ、私の友達が『妹』を探してる。」


板野は腕組みして考えた。


「私の周りで『お姉様』が欲しい子はだいたい見つけて交換日記してるしなあ。あー、我がクラスの大将、山城ひとみが残ってるけど、あれでいいなら。」


「何でもいい、紹介してあげて。」


板野はさらに考えた。


「けどなあ。山城さんのほうが嫌だって言う可能性があるんだよね。その蔵本さんの友達ってどんな人?」


蔵本は江口をなるべくいい表現で語るようにした。


「性格は温厚でまず本気で怒ったことがない。身長は私と同じくらいで、後は……明るくて面白いよ。」


「あ、名前聞くの忘れてた。何て人?」


「うちのクラス、6年3組の江口ひかる。」


板野は首を横に振った。


「ごめん、私その人知らない。山城さんのことだからネームバリューを気にすると思うんだ。ねぇ、サブ、6の3の江口さんって人知ってる?」


板野の隣で習字雑誌の裏表紙に描いてあるマンガを眺めていた北島が答えた。


「知ってる! 家が比較的うちの近所だからよく会うよ。」


「サブ、江口さんってどんな人?」


「どんな……ぽっちゃり系で、あとはあんまり特徴がないかな。いつも放課後に自転車でどこかに行こうとしてる。」


板野はまた首を横に振った。


「ダメだ、太ってる同士なんて暑苦しい。」


蔵本は北島にも聞いてみた。


「サブちゃんは誰か『お姉様』探してる子知ってる?」


「どうですかねー。うちのクラスでは『お姉様』のいる子は、まだ2~3人だから開拓の余地はあるはずなんですよ。しかし、江口さんにその需要があるかどうか。」


北島が結構きついことを言うので、蔵本は耳を塞ぎたくなった。しかし、北島は気にせず続ける。


「だいたい、お姉様として需要のある人は、綺麗だったり可愛いかったり、見た目に華のある人ですよね。それか、スポーツができて爽やかな感じだったり、大人っぽくて知らないことを教えてくれそうな雰囲気のある人。一番最初に『お姉様』になったのって、私の知ってる限り6年3組の川田さんだけど、川田さんは可愛らしくて、優しそうで……あんな感じじゃないと難しいんじゃないかと。」


川田は蔵本と同じクラスだが、だいたい北島の言う通りだ。大人しそうではあるが、それがかえって保護欲をくすぐるらしく、男子にも人気がある。一方の江口は、勉強もだめなら体育もだめ、名前のせいでエロ蔵と呼ばれたり、男子には体型のせいでブーなどと言われたりもしている。


「本当は江口さんより蔵本さんのほうが人気があるから、誰かに紹介しやすいんですけどね。」


板野も頷いた。


「なんで私が人気なのよ!」


蔵本は驚いて聞いた。北島は真顔で答える。


「成績の良さで抜群の知名度があって、あの佐古さんとも対等に話ができる。スポーツは得意そうじゃないけど、いつも落ち着いていて一部では、『クール蔵本』って言われてますよ。」


蔵本は、5年生での自分の評価がそんなことになっているのを初めて知った。池田があの日、「クールだ」と言ったのはそういうことか。


「それ、単に落ち着きがないサコとの対比でしょ。」


北島は言った。


「そうかもしれませんが、私、前にクラスの子に、『蔵本さんと習字教室が一緒なんだ』って言ったら、みんな『え、すごい!』、『お話してみたい!!』って。だから、蔵本さんは確実に需要あります。」


板野も言った。


「蔵本さんが『妹』探してるって言ったら、今まで『お姉様』に関心がなかった子も、蔵本さんなら……って言うかもしれない。やっぱりネームバリューが違うもん。何なら私、蔵本さんの『妹』、探してみようか?」


「いい、絶対やめて。」


蔵本は手を顔の前で振った。この調査結果を江口にどう伝えたらよいものか、途方にくれる蔵本だった。ちなみに、北島や板野と話をしている最中に視線を感じると思って振り向いたら、池田がにらんでいたのだった。




しかし、週明けの月曜日、学校に行くと江口は開口一番、「私、『妹』ができた!」と蔵本に話しかけた。


「はあ? それ誰よ。」


江口はニコニコしながら話し始めた。


「あのね、私、日曜日からスイミングに通い始めて。そこで一緒になった5年の子とアニメの話で意気投合しちゃって、私が何となく『妹』になってよ、って言ったらオッケーされた!」


「だから、その『妹』は誰かって聞いてるのよ。」


「5年1組の小松さんって子!」


蔵本は頭の中の「知ってる子名簿」を探した。たしかに、小松涼香という名前は聞いたことがあるような気がする。


「あれだ、学校の近くにある駄菓子屋さんの子。」


駄菓子屋の小松商店は、いつも子どもたちで賑わっている。ただ、小松自体の印象は薄い。


「ごく普通の子よね。」


「何言ってるの、普通が一番じゃない! 私、学校終わったら即帰って文房具屋で交換日記用の可愛いノート買ってくるんだ。」


江口は期待と興奮でいっぱいの様子だった。


「近々、エリーも呼んで4人でダブルデートしようね。」


「やめて、私もエリーも、そういうの好きじゃないから。」


急に蔵本は自分の交換日記のことを思い出した。早く書かないとエリーがふてくされるので、帰って書いて、明日の放課後にエリーに渡そうと思った。




蔵本が通っている塾Pは6年生になると水曜日と日曜日の週2日になる。それで水曜日の放課後、近くのバス停でバスを待っていたら佐古がトートバッグを持って現れた。


「よぅ、蔵本。一緒に行こう!」


「今日は早いね。いつも塾ギリギリに来るのに。」


蔵本は、いつも時間に余裕を持たせて1本早いバスに乗っていた。


「あー、今日はクラモトに話したいことがあって。」


「また宿題見せろって言うんでしょ?」


「いや、宿題をほったらかしてでもクラモトにしたい話があるのよ。」


佐古は若干うつむいていた。


「何よ、今から聞くよ?」


「ほら、『お姉様ごっこ』ってあるじゃない、1個下の子と交換日記するやつ。」


蔵本は持っている情報をそのまま話すことにした。


「あんたがアミダで『妹』を決めたやつでしょ? で、5年3組の井川さんがめでたく『妹』になったアレ。」


佐古は目を丸くして驚いた。


「ちょっと、何でそんなに詳しいのよ!誰に聞いたの?」


蔵本はとぼけた。


「すでにうちのクラスでも噂になってるよ。サコがテキトーにアミダで『妹』を決めて、女の子を泣かせたって。」


「まるで私が悪人みたいじゃない。でも、事実私はその井川さんのことで悩んでるの。」


蔵本はまだ半笑いで聞いていた。


「あのラッキーな子が何だっていうのよ。」


「おととい、うちに押しかけてきたの。家なんて教えてないのに……」


蔵本はそれはただ事じゃない、と真剣な表情になった。


「あの子ね、私が週1くらいでしか交換日記を返さないのに、その翌日には書いてきて教室の前で待ってるの。しかも小さな字で2~3ページぎっしり書いてあって読むのもつらい。」


「何、怖い。」


「しかも、毎日放課後には教室の前で待ってて、一緒に帰ろうって言うの。私、あの子の家と全然方向違うのに、一緒に帰りようがないじゃない? 仕方ないから、あの子の家と学校の中間地点にある公園まで行って、そこで別れるようにしてるの。かなりの遠回りよ。」


蔵本は手を叩いた。


「分かった、その後サコは井川さんに後ろをつけられてたのよ。」


「ひえー。怖いよぅ。」


そこで駅行きの市バスがやって来た。2人はバスに乗り込んで話を続けた。


「この間は公園に着いたら着いたで、『ちょっとだけここでお話しよう。』って言われて1時間捕まった。最近蚊が多いから、足を蚊に刺されまくって痒いのなんの。」


「最悪だね。おとといはどうした?」


「たまたまお母さんが家にいたから、お母さんに居留守使ってもらった。お母さんには後で叱られたけど、全部事情を話したら納得してくれた。『受験勉強の邪魔にもなるし』って。」


「そうか、良かった。で、今後は?」


「そこよ、ねぇ、クラモト、どうしよう!」


「分かった、私がどうにか話をしてみる。」


蔵本が割とあっさり言うので、佐古は「えっ」と驚きの声をあげた。


「こういうのは第三者が入らないと。」


「ありがとう。でもどう話をつけるの?」


蔵本には特に考えはなかったが、上級生が話をすれば大丈夫だと思った。




金曜日の放課後、6年4組はまだ「帰りの会」が終わっていなかったので、その教室の前で井川は待っていた。もう「帰りの会」が終わっていた蔵本は井川に声をかけた。


「井川さんかな? サコのこと待ってるんでしょ。」


井川は振り向いて、小声で「はい」と言った。


「ここで待たないで、うちの教室空いてるから待ちなよ。」


「いや、でももうすぐ終わると思いますし……」


「サコも来るように言ってあるのよ、さあ。」


蔵本は半ば強引に井川を隣にある自分のクラスの教室に連れて行き、空いた席に適当に座らせた。


「佐古さんも来るってどういうことですか?」


「まあ、来るっていうから待ちなさいって。」


10分くらい経って、佐古は「ごめん、遅くなった!」と言いながら蔵本たちがいる6年3組の教室に入ってきた。その後ろには、佐古と同じクラスで仲の良い田宮杏奈と、住吉桃が着いてきた。井川はそれを見て反発した。


「何で田宮さんや住吉さんまで来るんですか?」


田宮は「ああっ?」と声を荒らげると、こう言った。


「サコちゃんが友達だからだよ! 友達が困ってるのに助けないやつがいるかよ。」


田宮は細い目でギロリと井川の方をにらんだ。


細身だが背が165センチくらいはある住吉は黙って井川を見下ろしている。もちろん、佐古に応援を頼まれてやって来たのだ。二人は立ったままだったが、しばらくして付近の机の上に座った。


蔵本は、サコはここに座りなよ、と井川の前の席を勧めると、自分は井川の隣に座った。


「佐古さんが困ってるって……私、何かしましたか?」


井川が蚊の鳴くような声で言うと、先に田宮が強い口調で言った。


「バッカじゃないの?! 教えてないのに、家に突然行ったらキモイっつうの!」


まあまあ、と蔵本は田宮をなだめた。


「家に押しかけるのもそうだし、交換日記を急かすようなこともまずいよ。」


蔵本が言った。


井川は一応反論した。


「私、交換日記は一度も急かしてません。いつでも返してくれたら……」


途中で住吉が遮った。


「あんたね、言葉で急かさなくても、次の日にすぐ交換日記返してくるとか、急かしてるようなものじゃん。それに一日分がめっちゃ長いのもキモい。」


井川はびっくりして言った。


「住吉さん、交換日記、見たんですか?」


住吉は否定した。


「ううん、サコちゃんが1回につき2~3ページあるって言うから、聞くだけでもキモいなあと思って。」


「お前、アミダのくせに、調子乗り過ぎなんだよ。」


田宮は吐き捨てるように言った。


井川は泣き出した。


「そんな……私は佐古さんが好きで良かれと思って。」


「良くねぇよ、サコちゃんはお前のことなんか好きじゃないんだよ!」


田宮の暴言に、今度は佐古が焦った。


「いやいや、そうじゃない。前にあそこで3人で『お姉様になって』と言われたとき、ちょっと嬉しかったんだよ。」


これが佐古の本音かどうかは分からない。


「ただ、井川さんが熱心過ぎて、私、もう疲れちゃった。」


井川は机に突っ伏して本格的に泣いた。


「ああ、もう、サコちゃんが優しすぎるのがいけないんだよ! こんなザコ調子に乗らせて。」


井川が泣くのを見て、田宮が余計に怒りをエスカレートさせたようだ。


蔵本はそれを尻目に淡々と話す。


「井川さんも知ってると思うけど、サコは塾の勉強で忙しいの。なのに、井川さんが邪魔になるようなことをして、挙句家にまで来たから……サコはお母さんにも相談したし、友達にも相談して。今度は先生にも相談しようか、って話してたの。」


井川は急に顔を上げて言った。


「先生に相談するのだけはやめてください!」


こういうところはまだ子どもだ。


すぐに田宮が言った。


「まだ言ってねぇし。先生に頼るのはださいから、なるべく私らで解決しようとしてるの、お前、分かんないの?」


「まあ、そういうわけで……はい、ここからはサコが自分で言いな。」


蔵本が一応田宮を制すると、佐古が口を開いた。


「申し訳ないんだけど、『お姉様ごっこ』は今日で終わりにしよう。」


井川はまた机に伏して泣いた。佐古は困っていたが、田宮が強く言った。


「今後、サコちゃんに何かあったら、私とモモが承知しない!」


蔵本は付け加えた。


「私だって黙ってはいないよ。さっき言ったように最悪先生にも相談しないといけないかもしれないし。」


佐古は気弱に言った。


「本当にごめんね。でも、私、もう無理なんだ。」


田宮が最後に叫んだ。


「どうなのよ。分かったら返事しろ!」


「は、はい。」


泣きながらやっとのことで井川は返事した。


蔵本が、「もう帰っていいよ。」と声をかけると、井川は走って6年3組の教室を出て行った。


田宮は笑いながら言った。


「何だよあいつ、チョロ過ぎ! サコちゃんもあんなのに振り回されるなんておかしいよ。」


「ほんと、強くいかないとダメ。」


住吉も同意したが、佐古は言った。


「いや、自分のことを好きでいてくれるのに、邪険にできないし……」


田宮が「はあ?」と言って、こう続けた。


「サコちゃん、将来、しつこい男を断れないよ、それじゃあ。」


佐古は言った。


「男子はいいの、断れる。だけど、相手が女の子だと……難しいね。」




この金曜日の一件は、締め切らない教室でのことでもあったため、5年生、6年生全体にすぐに広まった。ただ、微妙に内容が事実と違っていて、翌週土曜の習字教室でも蔵本は板野に目をキラキラさせて話しかけられた。


「蔵本さん、田宮さんや住吉さんと一緒になって調子こいてる井川さんをシメたんだって? ざまぁだよ!」


「違う、あの場にはサコもいたの。ちゃんとサコが井川さんと話し合って『姉妹関係』を切ろうとしたの。」


蔵本としてはそのつもりだった。しかし、佐古が念の為に、と連れてきた住吉と田宮がいけなかったようだ。この2人は下級生の間でも、「ちょっと怖い人」として知られていたからだ。


しかし、板野は嬉しそうに話を続けた。


「田宮さんがガン飛ばして、このアマざけんなよ!って怒鳴ったんでしょ。かっこいいなあ、田宮さん。私、田宮さんなら『お姉様』になってもらいたい!」


田宮はガンは飛ばしたかもしれないが、「このアマ」とも「ざけんなよ」とも言っていない。話に背鰭尾鰭がつくとはこういうことか。


北島もこれに反応した。


「まさか、蔵本さんが田宮さんや住吉さんとも仲良しだったとは。これから蔵本さんには失礼なことはできませんね。」


蔵本は、たしかに住吉は小1のころから知っていてたまに話はするが、田宮は小3くらいでいつの間にかよそのクラスに転校してきていて、ほとんど話したことはなかった。ただ、佐古が「アンちゃん、アンちゃん」と言って慕っているので、蔵本も何となく知っているだけだ。


「サブちゃんまで言う? そもそも、あの二人はサコの友達なんだから……」


板野は頷いた。


「そうだよ、ずっと好きだったくせに、佐古さんが田宮さんや住吉さんと仲良しなのを計算できてない井川さんが悪い! あと、蔵本さんが塾で佐古さんと友達なのも、忘れたらダメだよ。蔵本さんも怒らせたら怖いんだから。」


「どうしてそうなる?」


そこへ石井が遅れてやって来た。


「いやー、先週の金曜日、すごかったんだってね! 住吉さんが井川さんに、『あばら骨折ってやろうか?』って言ったの。」


余計話が酷くなっている。住吉と田宮は石井と同じクラスだから、多分その2人が話を盛って広めているのだろう。蔵本は一応訂正することにした。


「そもそも住吉さんはあんまり喋ってないよ。上から睨んでたけど。」


しかし、板野はより興奮してしまった。


「にらむだけで泣かす住吉さん、かっこいいー!」


石井は言った。


「まあ、あの二人もクラスで飴流行らせたり、校区外に行っておしゃれな文房具買ってきて流行らせたりするくらいで、別に普段は悪いことはしないから平気なんだけどね。よっぽど井川さんに腹が立ったんじゃないかな。」


北島は石井に尋ねた。


「石井さんは、蔵本ねえさんについてはどういう見立てですか?」


「ん? クララはたまたまその場にいただけでしょ。別にクララはサコちゃんと違って、あの二人と仲がいいわけじゃないもんね。」


蔵本としては、そちらの解釈のほうがありがたかった。しかし、板野はそうではなかった。


「面白くないなあ。蔵本さんみたいな優等生が、田宮さんや住吉さんみたいな強めの人たちと裏で繋がってるのが面白いのに。」


蔵本は言った。


「別に私は裏でも表でも繋がってないけど、表で堂々と繋がってるサコの立場はどうなるのよ。」


「それもそうだね。佐古さんには気をつけなきゃ。」


板野は頷いた。


習字教室が終わって、蔵本は池田と一緒に近くのコンビニのイートインでジュースを飲みながら話した。


「びっくりしました。私もクララさんが田宮さんや住吉さんと一緒になって、井川さんをいじめたって聞いていたので。さっき聞いた石井さんの話だと全然違うみたいですね。」


「エリーまでそんなしょうもないこと言うの?」


池田は両手を胸の前で振った。


「いや、私は違うと思ってたんですけど、みんながクララさんのことを『実は怖い人だ』って言うから……」


蔵本はどこまで池田に真相を話すか迷っていたが、とりあえず「蔵本、実は住吉や田宮の一味説」が間違いだと分かってもらえたらそれで良いことにした。


「私、別にあの二人と学校の外で遊んだことないし、校区外に出るのも塾のときだけだよ。」


「良かった! じゃあこれ。」


蔵本に紙袋が渡された。中身はもちろん交換日記だ。


「あの件のおかげで、クララさんに近寄りにくくなって1週間以上手元に置いてあったので、ちょっと長めです。」


蔵本はそれを持ち帰って中身を見た。今週月曜、火曜、金曜の分が書いてあったが、内容は全部先週金曜日の件について池田が聞いたこととその感想だった。昨日の日記のラストには、「クララさん、しんじています。」と書いてある。蔵本は苦笑した。




「エロ蔵、どうなのよ、小松さんとは。」


月曜になって、蔵本は何気なく江口に聞いた。


「普通に仲良くしてますよー。交換日記もだいたい見たドラマやアニメの話で盛り上がっちゃって。」


「デートするの?」


「デートって言っても、スイミングが終わった後に二人でアイス食べてお話する程度だけどね。そりゃまあ、充実してますって。」


なるほど、江口は小松と無事に『お姉様ごっこ』を楽しんでいるようだ。


「あ、クララ、この間の件のおかげで、私もすずちゃんに『ひかるさんは蔵本さんと仲良くしてるけど、怖くないんですか?』って聞かれたけど、『怖くないよ、いつも無表情なだけだよ!』って言っておいたからね。」


蔵本は頭が痛くなった。


「私のどこが無表情なのよ。」


「ほら、今みたいに怒っても、笑っても、あんまり顔が変わらない。いや、ちゃんとすずちゃんには、クララが田宮・住吉コンビと仲良しじゃないことは説明しておいたからさ。」


「それはどうもありがとう。」


「で、クララはエリーとどうなのよ。」


蔵本が思い返すと、現在池田とは学校でこっそり交換日記の受け渡しをする他は、習字教室のあと、教室から少し離れたコンビニで話をする程度だった。佐古と井川以上に、お互い学校から自宅の方向が違うし、習字教室以外に蔵本は週2回の塾、池田は週3回のバレーボールでお互い忙しかったから、一緒に遊ぶこともなかった。


交換日記の内容も、この間は別として、普段はお互いの日常を書いただけのあっさりしたもので、そうなるとこれは本当に「お姉様ごっこ」なのかどうか怪しく思えてくる。ただ、池田が蔵本に何らかの感情を持っているのは間違いなく、土曜日にコンビニで別れる際などは、「じゃあ、塾、頑張ってください。」と目を潤ませながら言われるので、蔵本としては不思議な気分になるのだった。


「交換日記を時々して、週1で喋って、本当に何にもないよ。」


「わあ、つまんない。そうだ、もうすぐ夏休みじゃない? 私はすずちゃんとプール三昧なんだ。クララはエリーと遊ばないの??」


「塾の夏期講習があるからなあ。」


夏休みの蔵本は、おそらく池田とよりも、佐古と一緒にいる時間のほうが長くなる予定なのだった。お互い、夏休みにどうするといった話はしたことがない。しかし、ちょうど今、手元に交換日記がある。蔵本は授業中、こっそり交換日記を出して、「夏休みはどこかに行きませんか?」と1行書き足し、それを休み時間に紙袋に入れて5年1組の池田の荷物掛けにぶら下げておいた。いつもは放課後に直接手渡しをしているのだが、池田にその方法でも良いと言われたので、そうした。




その週、学校で池田は交換日記を渡しには来ず、荷物掛けにもぶら下がってはおらず、結局2人が会ったのは土曜日の習字教室だった。池田が先に来て、後ろの隅のほうにいたので蔵本が声をかけると、池田が恥ずかしそうに目を伏せた。


習字教室が終わってから蔵本がいつものようにコンビニへ向かうと、池田はイートインスペースで俯いて座っていた。


「どうしたの、元気がない。」


蔵本が声をかけると、池田はまっすぐに顔を向けて言った。


「クララさん、夏休みに誘ってくれてありがとうございます! だけど、私は邪魔しちゃいけないから……」


「はあ?」


「ひとつはクララさんの勉強の邪魔をしてはいけないこと。現に佐古さんの勉強の邪魔をした井川さんは、田宮さんや住吉さんにシメられました。私は井川さんみたいにしつこくしないで、極力クララさんを見守っていきたいんです。」


多分、池田が蔵本の勉強の邪魔をしても、田宮や住吉に怒鳴られるということはない。せいぜい江口がからかうくらいだ。


「もうひとつ、クララさんと佐古さんは相思相愛です。やっぱり『妹』としてそれを邪魔することは……」


蔵本は目眩がした。


「待って、いつからそんな話になってるの?」


「一学期の早い段階で私の周りでは間違いないって言われてましたよ。」


「板野ちゃんやサブちゃんからそんな話聞いたことないんだけど。それに、サコの『妹』になりたいって言ってた三好さんって、エリーのクラスの子じゃないの?」


池田は言った。


「あの二人はまた別々のクラスだから、聞いてる噂の内容が違うんでしょうね。あと、三好さんは蔵本さんへの対抗心もあったと聞いてます。言い方は悪いけど、『あんなガリ勉より私のほうがお似合いよ!』って言ってるのを聞きました。」


「三好さん、勘違いし過ぎ。」


「それで……あの井川さんの件のときもその場にクララさんがいたというので、私、確信しました。クララさんのために佐古さんが田宮さんや住吉さんを使って別れさせたんですよね。」


また新説が生まれている。蔵本は、最初のほうでちゃんと池田に真実を説明すべきだったと後悔した。しかし今となっては非常に面倒くさい。


「とにかく、私はサコとはただの塾仲間で、好きか嫌いかと言われたら好きだけど、そこに変な感情はないの!」


「そうなんですか? 本当に信じていいんですか??」


池田が涙目で見つめる。江口の言ったとおり、池田はよく見ると顔が整っていて綺麗だ。


「ほんと、ほんと。早くジュースかアイス買って来ようよ。」


そのあとは、池田はカップアイスを食べ、蔵本はペットボトルのジンジャーエールを飲みながら、夏休みの計画を立てていた。


「8月5日に港のほうで花火大会がありますよね、それ見に行きましょう。夜8時からだから、夏期講習があっても間に合います。」


「夜、子どもだけで出歩くと危ないよ。」


「大丈夫です、うちの母にもついてきてもらうので。あ、私、母には、『蔵本さんと仲良くしてもらってる』とだけ言ってあって、母も一度蔵本さんには挨拶したいと言っていました。」


「エリーのお母さんがいいと言うなら、多分うちは大丈夫だから、行こうか。」


「やったぁ! 一緒に花火見て、かき氷食べましょう。」




8月5日当日、心配されていた台風もそれて、蔵本は一旦塾から帰宅してから、自宅前に迎えにきた池田の母親の車に乗り込んで港へ向かった。ただしひとつ困ったことに、蔵本の祖母も花火が見たいと言い出し、仕方なく4人で行くことになってしまった。


「花火なんか久しぶりじゃなあ。近頃は夏海が勉強ばかりしとるから、つまらんこと、つまらんこと。」


池田の母親は言った。


「いいじゃないですか、おばあちゃん。うちの子はバレーに行ったらごはん食べて寝るだけですよ。おかげで背はかなり伸びましたが、頭の中はどうなってるんだか。」


「エリー、弟くんはどうしてるの?」


池田には3つ違いの弟がいた。


「あ、あの子はお父さんとゲームして遊んでるからいいんです。二人とも出不精で。」


池田に続いて池田の母親が付け足した。


「出不精というより、あの子は花火の『パーン、パーン』っていう音が嫌い、夫は人混みが大嫌いなんです。変に神経質なところが遺伝したんでしょうか……恵理子は私に似て図太いのに。」


「ありゃ、全員、男と女、逆なら良かったのにのう。」


蔵本の祖母が余分なことを言ったので、蔵本は気まずい思いをしながら車の窓を見つめていた。


花火のために道路が渋滞しており、開始の8時には間に合わなかった。暗い車内が花火の光で急に明るくなった。


「見て、花火が始まったよ!」


「わあ、綺麗ですね。」


車が花火の会場に着いたのは8時20分ころで、つまり花火は半分近く終わっていた。


「すいません、もう少し早くに出れば良かったですね。」


池田の母親は言ったが、蔵本や池田にはそんなことはどうでも良かった。


「お母さん、いいのよ、車の中でもたくさん見えたし、まだ終わりじゃないから。」


会場もやはり混雑していて、ナイアガラなどの仕掛け花火は人の頭であまり見ることができなかった。しかし、打ち上げ花火については、比較的に近くで打ち上げられていることもあって、かなりの迫力だ。


「お母さん、花火の写真撮ってよ。」


「花火はね、プロじゃないと綺麗に撮れないのよ。心に焼き付けておきなさい。」


「ほんまに綺麗じゃのう。」


それぞれが口々に何か言っているが、蔵本はただ黙って花火を見上げていた。花火は一時で終わるが、自分にはこれから中学受験が控えている。その結果次第で今後の生活が大きく変わっていくことは間違いない。附属中学に合格すれば、今まで仲の良かった江口やクラスメイトたちとも離れ離れになる。きっと、隣にいる池田とも疎遠になるだろう。しかし、附属に入った後の生活が蔵本には想像できない。果たして友達はできるのだろうか。授業が難しくてついていけないのではないか。先生達は怖くないのか。様々な不安が押し寄せる。


蔵本が考えごとをしていると、急に池田が腕を組んできた。


「私、クララさんとここに来れて良かった。」


うん、と答えて、蔵本は不安から逃げるように池田に尋ねた。


「エリーはこれからどうするの。」


「私はクララさんのように頭が良くなくて附属は目指せないので、秋から塾に行ってB中学を狙います。バレーか習字か、どっちかやめなきゃいけないってお母さんに言われたんだけど、習字のほうをやめようと思います。」


蔵本は驚いた。


「普通、週3のバレーのほうをやめるでしょ。なんで習字をやめるの?」


「うーん、バレーは楽しいけど、習字はあんまり上達しないし、友達もいないから。」


「エリーが習字やめたら、私、エリーに会えなくなるじゃない。」


「それはたしかに悲しいですけど、クララさんの勉強の邪魔になったらいけないし、私は遠くからクララさんが附属に合格するのを見守ってます。」


池田の決意は固いようだった。蔵本は、「そっか。」とだけ言って、花火を見続けた。




二学期に入って、先生から「交換日記禁止令」が出された。その理由ははっきり言われなかったが、おそらく夏休み中に井川が話をねじ曲げて自分の担任に相談したか、他でトラブルがあったか、「お姉様」が作れない5年生が告げ口をしたか、そのいずれかだろう。


「世知辛いねー。でも私はすずちゃんとはスイミングで交換日記やり取りするから関係ないや。」


江口は他人事のように言った。どうしようもなくなったのは蔵本である。


「エリーが習字教室やめて、交換日記できなくなったら、全く接点ないじゃん、どうするのクララ。」


蔵本も多少は考えたが、どうにもできないし、もうどうにかするつもりもなかった。池田が自ら距離を置きたがっているなら仕方ない。


一方、佐古は塾の休み時間に明るく言った。


「いやぁ、交換日記が禁止になって助かったよ!」


「あれ、井川さんとは『姉妹関係』を解消したから、そもそも交換日記しなくていいんじゃないの?」


蔵本は疑問をぶつけたが、佐古は「ああ。」と言って答えた。


「井川さんはあれからアンちゃんたちにびびって音信不通になったよ。だけど、山城さんって子?今度はあの子がしつこく言ってきてたの。もう懲り懲りだから、ってんで私も逃げてたんだけど、やっとはっきり断る理由ができた。」


「人気者は大変だね。」


蔵本は俯いて言った。自分も最初に池田に交換日記を渡されたときには、少々面倒だと思っていた。しかし、やり始めるとそれが習慣のようになり、いざ禁止されてみたら寂しくなった。とくに、池田との交流手段がなくなってしまったことは悲しい。


「まあ、あれよ。下の学年の子たちも、私たち相手にバカな遊びなんかしてないで、同級生と健全に遊べばいいのよ。」




秋から冬になり、年が明けて中学受験のシーズンになった。その間、蔵本は池田と何度か廊下ですれ違うことがあったが、池田は軽く会釈をするだけで特に蔵本と話さなかった。


そして中学受験の結果、晴れて蔵本と佐古は附属中学に合格した。


蔵本と佐古の合格は学校中に知れ渡り、それぞれ仲間からお祝いの言葉をもらった。


「やっぱサコちゃんだよ、私たち、中学校に行ったら『附属に友達がいる』って自慢してやる!」


これは田宮の言葉。


「なんで佐古が合格したのかが最大の謎だが、とりあえずおめでとう。蔵本は順当。」


こちらは、二人が通っていた塾の塾長の言葉。


他にも、佐古は靴箱に、「おめでとうございます」、「中学に行ってもがんばってください」という手紙を4~5通もらったという。


蔵本は、江口にただただ「すごい!」を連発されるし、習字教室の子たちには「入学したら附属の様子を教えてね!」とせがまれた。


3月の初めのある日、「帰りの会」も終わって蔵本が教室を出ると、廊下で池田が待っていた。


「久しぶり、どうしたの?」


「少しだけ話をさせてください。」


二人はなんとなく校舎を出て、校庭の隅で話をすることにした。まだ気温は低かったが、日差しで薄暗い廊下より少し暖かかった。


「クララさん、附属合格おめでとうございます。」


池田は蔵本に深々とお辞儀をした。


「ありがとう。最近はどうなの?」


「塾の勉強が難しくてなかなかついていけそうにないので、6年になったらバレーもやめます。」


池田は苦笑いをした。


「本当はやめたくないんですけど、今のままではB中に合格できそうにないので。」


「そっか。」


「クララさん、本当に附属に行っちゃうんですね。」


「うん。」


池田がランドセルを下ろすと、中からあの交換日記を出てきた。


「これ、持っていてください。」


確かに、交換日記は池田の番で長く止まっていた。しかし、これを最後に渡されるということは……。


「要らない、ってこと?」


蔵本が悲しそうな顔をしたのを見て、池田が慌てて否定した。


「違います、私はクララさんのこと絶対に忘れないけど、クララさんが私のこと忘れそうで……だって私たちと別の世界に行っちゃうんだもん。」


別の世界とはどういうことか。たしかに、附属中学はこのS小学校や地元のT中学、比較的近くにある私立のB中学よりは地理的に離れた場所にある。しかし、それでも同じ市の中の話だし、蔵本の家が引っ越すというわけではもちろんない。


「あのね、お互い同じ市内の同じ校区に住んでるんだから、また会えると思うんだけど。」


「それでも附属は私たちにとって遠いところです。多分、クララさんや佐古さんは、私たちと違う勉強をして、違うクラスメイトや先輩たちに囲まれて、違う高校に行って、違う大学に行くんです。」


それはそうかもしれないけれど……蔵本が口を開こうとしたとき、被せるように池田が言った。


「だから、違うところに行っても、私が一時期『妹』だったってこと、忘れないでください!」


そう言うと、池田はランドセルを背負って、自宅のある方角にダッシュした。蔵本はその後ろ姿を見えなくなるまで見ていた。




S小学校の卒業式には、卒業証書の授与のあと、卒業生全員が体育館のひな壇に上って、スピーチの一部を1人ずつが述べるという慣習がある。年明けから卒業式に至るまでの間、蔵本たちは何度そのスピーチの練習をさせられた。江口は時々言葉を噛んでいたが、その度に先生に叱られた。


そして、卒業式の当日、蔵本たちは卒業証書を1人ずつもらい、壇上へ行った。蔵本は自分のスピーチよりも、江口がまた失敗しないか内心ヒヤヒヤしていたが、今日は失敗しなかったので安堵した。


蔵本は安心したので、在校生一同の中に池田を探してみた。池田は他の子たちよりひとつ頭が出ているのですぐに見つかったが、目が合うと下を向かれてしまった。蔵本は、何だよ、と思ったが、池田が次に顔を上げたときには鼻をすすりながらこちらを見つめていた。


卒業式が終わり、みんな教室に戻った。江口が蔵本に話しかける。


「うちのすずちゃん、ずっとニコニコしてこっち見てるの。前の週のスイミングで、『ひかるさん、スピーチ間違えないでね』って言ってたし、応援してくれてたんだね。そっちのエリーはどうだった?」


「何か泣いてた。」


蔵本は静かに言った。


「おー、卒業式で泣く! 青春だね。」


江口は感動しているようだった。


「私はあんたとすずちゃんみたいに、普通にエリーと仲良くしたかったよ。」




その頃、5年1組の教室では、三好が仕切って何人かの女子で話をしていた。


「みんなの『お姉様』はどうだった? 私の秋田さんは今日も綺麗だったわよ。卒業生代表の挨拶も素敵だったなあ。」


実は三好は佐古に振られたあと、6年2組の秋田繭子と『姉妹関係』を結んでいた。秋田は三好の近所に住んでいて、母親同士の仲が良かったし、その関係で幼いころから一緒に遊ぶことがよくあった。秋田は母親経由で三好と佐古の一件を聞いて、三好にかなり同情したらしい。


「佳奈ちゃん、そんないい加減な佐古さんに振り回されることはないわよ。私で良ければ交換日記しない?」


秋田には派手さはないものの、すっきりした目元が特徴的で落ち着いた美少女だった。目がぱっちりしていて、ドタバタしていて、しかもちょっと怖い子たちとも交流のある佐古とは真逆のタイプだが、三好は喜んで「妹」になった。夏休み明けに交換日記禁止令が出た後は、お互いの自宅に交換日記を届け合っていた。卒業式には、素行も良く、成績も悪くない秋田が無難だということで、先生達に代表に選ばれて挨拶をすることになった。


「そういや小松さん、あなたにも『お姉様』がいたわよね?」


小松涼香は近くの席でノートに漫画を描いていたが、びっくりして背筋を伸ばした。そして、しばらく間を置いて言った。


「あー、ひかるさん? スピーチ失敗しなくて良かった。あの人ドジだから。」


三好はふふんと鼻で笑った。


「そういやエリー、そろそろ『お姉様』が誰だったか教えてくれてもいいでしょ?」


池田は目を赤くしていたが、決心したように言った。


「実は……私の『お姉様』は、三好さんの嫌いな人で。」


「え、もしかして佐古さん?」


三好は佐古に振られて秋田と『姉妹関係』を結んだ後、いつも秋田と佐古を比較しては佐古の悪口を言っていた。やれ(秋田と違って)慎みがない、悪い子とも付き合いがある、でも裏でコソコソ勉強している、などなど。それを三好のクラスメイトは黙って聞く他なかった。


「違う、佐古さんと仲がいい人。」


「もしかして、田宮さんか住吉さん?」


三好は、佐古の悪口を言うついでに、田宮や住吉の悪口も言っていた。曰く、目付きが怖い、何をやってるか分からない、近寄るとカツアゲされそう、など。


池田は首を横に振る。


「じゃあ誰なのよ、私の嫌いな人って。」


三好がイライラした様子で問うので、池田は答えた。


「6年3組の蔵本夏海さん。」


三好は目を見開いた。他の女の子たちもざわつき始めた。


「ちょっと待って、あの人、交換日記なんかしてくれるの?」


「え、何でエリーが蔵本さんなんかとつながりがあるの?」


「エリーはどうやって蔵本さんに近づいたの?」


みんながそれぞれの疑問をぶつけるので、池田は事の顛末を話した。その話を聞いて、周囲はわかったような、わからないような顔をした。


川田と『姉妹関係』を結んでいた津田が、話をまとめた。


「つまり、エリーは蔵本さんと同じ習字教室に通っていて、エリーからお願いして『お姉様』になってもらったけど、受験勉強の邪魔にならないように控え気味で様子を見ていた、と。ついこの間、交換日記を記念に蔵本さんに渡して、今日に至る、と。」


池田はその津田の話を聞いて、またしくしく泣き出した。やっぱり「お姉様」のいる川内が付け足した。


「エリーは『お姉様』が誰か内緒にしつつ、蔵本さんの受験勉強を見守ってて、結果、蔵本さんは附属に合格したのね……優勝!」


三好は面白くない、といった顔で川内をにらんだ。しかし、泣いている池田と三好以外は「優勝、優勝」と騒いでいた。


三好は言った。


「『お姉様ごっこ』は勝ち負けじゃないわよ。なのに何なの、優勝って!」


川内が解説した。


「やっぱり、意外性のある『お姉様』を捕まえた時点で、私エリーには勝てないなあと思った。」


津田が付け足した。


「意外性もそうだけど、ネームバリューと将来性もあるよね。」


川内がさらに付け足した。


「蔵本さんなんか捕まえたら自慢したくなるはずなのに、1年近く黙ってて、蔵本さんの附属合格を見届けたエリーは優勝に違いないよ。」


三好は、「もう、みんな知らない!」と言って、不貞腐れてしまった。池田はやっぱり泣いていた。




5月中旬のある放課後、佐古は蔵本に、「一緒に帰ろう!」と誘ってきた。二人はクラスが違ったが、たまたま駐輪場で会ったのだった。


附属中学では、校内は自転車を押して歩く規則になっている。佐古と蔵本はそれぞれの自転車のハンドルを押しながら話した。


「クラモト、私に内緒で『妹』作ってたんだね。教えてくれたら良かったのに、ククク。」


「それ、誰から聞いたの?」


蔵本は慌てた。佐古に教えたことはない。


「ゴールデンウィークに小学校のクラスの子たちで集まることになってさ、そのときに石井のさとちゃんから聞いた。」


確かに、卒業式の後、3月終わりの習字教室で蔵本はひどく石井や板野にからかわれたのだった。何だよ、結局エリー喋ったんじゃん、と蔵本は呆れた。


「しかし、クラモトもやるね。」


「私、あの子には最後まで精神的に振り回された感じしかしない。」


蔵本は怒ったように言った。これに対して佐古は神妙に語る。


「でもさ、女の子なんてそんなもんよ。噂が大好きですぐ話は大きくするし、それを信じて勘違いするし、迷惑はかけられっぱなし。」


「本当に。でも、だからといって男の子は……」


蔵本の言葉を遮って、佐古は言った。


「男の子はただのバカだ。その集まりで突然告ってきた奴がいるよ。ほとんど話したことないのに。」


「男も女も、どっちもどっちだね。」


二人は大笑いした。


























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