可愛い過ぎる私の婚約者 婚約者と転生王妃(王妃視点)
乙女ゲーム、分かりません。
連載『婚約者と転生王妃』『婚約者と晩餐会』『婚約者と舞踏会』の関連です。
誤字報告ありがとうございますm(__)m
ワタミタ王妃ルミは、空を見上げた。
見慣れない夜空が広がっている。
「ねえ、アタシたち、経験値不足だったんだって。」
ルミは、後ろにいる侍女に話しかけた。
「そうよね、ゲームでしている時は必死でやっていたのに、転生したら分かっているからって、舐めてかかって。」
後ろの侍女は、しかめっ面して返事をしない。
「リセットボタン、何回押しただろ。選択肢間違えてやり直したのも・・・。やり直しが出来るゲームで、それだけ必死だったのに、いざゲームの世界に転生したら、やり直しがきかないのに、リセットボタンが無いのに、分かっているからって。」
ルミは、笑った。
本当に可笑しかった。
「一度しかないからじゃない。」
侍女は、不機嫌な声で呟いた。
「そうよ、一度しかないから、間違えてはいけなかった。ゲームに囚われず、自分で道を作らなければならなかったの。」
侍女は、ワケが分からないと首を横に振っている。
「マランタ国のクバサ王子は、攻略対象者全員とハッピーエンドでクリアしないと、攻略出来ない隠しキャラだった。」
「そうよ、一度しかないのよ。一気にいくしかなかったわ。」
侍女は、ワタミタ国のヒロインだった。
従縛の魔法で逃亡、自害、殺人を封じてある。
「だから、失敗したのよ。ゲームでは、五回分の経験値があるから、攻略対象になり攻略出来るようになっていたのよ。」
「じゃあ、どう頑張っても無理だということじゃない。」
侍女は、目を見開いて、憤慨している。
「だから、ゲームの世界観に囚われず、その経験値を埋める努力をしなくては、いけなかったの。」
「そんなの、無理でしょ!王子たちを攻略しないと攻略出来ないのだから。」
「だから、それは誰が決めたの?何故、好きな人のためだけに努力をしてはいけなかったの。ゲームの六回目は、クバサ王子だけを攻略するためだけにプレイしていたわ。その時、王子たちを攻略するような選択肢は選ばなかったわ。一度しかないのに、ゲームみたいにやり直しが出来ないのに、何故、ゲームの一回目から五回目もしなくてはいけなかったの?」
「だから、それは・・・。」
「それは、王子たちにも言えるわ。王子のルートに入ったら、王子の好感度を上げるためにゲームでは頑張っていたわ。ゲームの時より、広く浅くではいつか飽きられていたかもね。」
侍女は目を見開いたまま固まっていた。
ゲームで知っていたからこそ、ゲームのやり方に拘った。
一度だけの人生だから、やり直しがきかないから、と全攻略対象者との恋愛を望んだ。
異世界でもここでもそんなことが通じるわけがない。
ゲームの世界が終わったら、ゲームから先の未来になったら、強制的も無くなり破滅を呼ぶ。
「アタシは、一度目の転生であなたと同じだった。
王妃となり、幸せになったはずだった。
攻略対象だった男が裏切るまでは。
二度目の転生で裏切った男の子孫を殺した。
その男がどんな思いでアタシを処刑台に送ったのか考えもせずに。そしてまた処刑された。
三度目の転生はモブキャラだった。
ただの傍観者として見ていられた。
だから、あなたの行動が目に余った。
傍観者だから、悪役令嬢たち、婚約者たちの言い分も理解できた。
ゲーム通りに進めていくあなたに焦った。
アタシは家族が大切だったから。」
「だから、邪魔をした。」
呪うような侍女の言葉にルミは首を横に振った。
「ただ、アタシは抗っただけ。あの人に全てを話し、家族を助けたかっただけ。」
その結果が王妃になってしまうなんて。
それも可笑しくてルミは笑ってしまう。
もう王妃なんてなりたくなかった。
殺された記憶があるから。
『何が悪かったのか分かっているから、大丈夫だよ。』
そう言ったあの人は、さっさと病気で死んでしまった。
無理はしなくていい。と言い残して。
「一度目の転生で、アタシを殺した男は僧侶になっていたわ。死ぬまで、アタシの来世の幸せを望み願っていたそうなの。
その思いを無駄にして、二度目の生もゲームに拘ったせいで死ぬことになった。
ねえ、何故、ゲームに拘らなければいけなかったのかしら?
何故、普通に生きてはいけなかったのかしら?
一生懸命、足掻き抗いながらみんな生きているわ。
ゲームのストーリーを知っているからって、従う必要があったのかしら?」
答えは出ない。
憧れたゲームの世界に転生して浮かれてしまった。
ゲームと現実を一緒にしてしまっていた。
ハッピーエンドに出来る方法を知っていたから、そうなれると信じていた。
ルミは願う。
来世は何も覚えていませんように、と。
けど、夫に、前々世で裏切った男に似ていたあの夫には来世でも会いたいと思っている。
「じゃあ、叔父のところに行ってもらうよ。」
青白い顔をして、その人は言った。
「し、しんじてくださるのですか?」
嗚咽も混じり、聞こえにくい言葉に力強く頷いてくれた。
「私も王族の一人だからね。国が戦渦に巻き込まれるのをほってはおけない。」
ポンポンと頭を叩く手は、誉めているようで、慰めているようで、とても不思議な感じだった。
「よく話してくれたね、嫌なことまで。」
あの人には、前々世の話もした。
愚かな王妃だったのが、今なら分かる。
前世は、恨みばかりだったのに。
他国に生まれたからかもしれない。
「隠れている間は、暇だろうから、宿題を出しておくね。」
信じてくれたから、期待に応えられるよう頑張った。
彼によくやったと誉めてほしくて。
転生王妃は、設定通りです。
同じ転生者の侍女とは、ほとんど会話らしい会話は、しません。